第368話 どこまでも青い空の下、どうにも楽しくない話題

 王都からムラノヴォルタまでは基本的に街道をずっと進むだけだ。さほどの起伏もなく、治安もまあ、悪くはない。とはいえ、街道を北にずっといけば帝国だし、南側は小国がひしめき合ってはいるわけで安全安心を断言できるようなものでもないのだが。


 俺は御者台でぼんやりと空を眺めていた。

 どこまでも高く、青い空。

 こんなにも緩やかな、そして何もしなくていい時間はいつぶりだろうか。ここのところ、元の世界あっちにいた頃とは違った方面で無暗矢鱈に忙しかったから、余計にそう感じるのかもしれない。そもそも元の世界あっちでもこんな風にのんびり空を眺めた記憶はとんとない。


 やはり平和が一番である。


「――ブルーノ」

「なんですかい、旦那」


 隣で馬を操る商人は視線を前に据えたまま、愛想よく返事をくれた。

 おかげで心苦しさは増すばかりだが、言っておかねばならないことはある。


「ムラノヴォルタに着いた後しばらくの間、南の小国を巡って商いをしてみたりとか、どうだ?」

「はあ」


 と、ブルーノは不思議そうな顔。


「何かいいネタでもあるんで? 約束通り旦那の商いに絡ませて頂けるんですかい?」


 そんな約束みたいなものもあったっけな。

 守れないのは心苦しい。

 

「むしろ逆だ」

「逆?」

「俺には関わるな。王国を商売の拠点にするのはよくない。というかマズい」


 はっきりきっぱり、俺は断言した。


「――戦争がはじまるからだ」

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