第324話 剛の剣檄、柔の捌き

 ノヴァが力を強めてくるほどに、木剣が軋み私の顔へ近づいてきます。

 木剣の刃が顔に触れた時、


真剣本身なら顔に傷をつけられていますよ」

「そうは言われましても、ノヴァの力が強くて」

「押し返せない、と?」

「……はいっ」


 私が呻くと、ノヴァはそのままの体勢で告げてきました。


「力を力で受けてはいけません。流すのです」

「……?」


 流す?


「右腕を脱力させて柄尻を私の顔に向けるように剣全体を傾けてみてください」


 と、言われた。

 そうした。

 私の木剣の刀身部分を滑るようにノヴァの木剣が流れていき、ノヴァ自身もつんのめるようにして体勢を崩しました。これはきっと私にわかりやすくするために大袈裟に演じてくれたのでしょうけれど、意図は伝わりました。


「力に対して力で抗してはならないということですわね」

「御明察です」


 ふと思いました。


「……ノヴァもそのようにしたらいかが?」

「はい?」

「あの年上の騎士と対峙する時のノヴァは随分力任せに見えましたよ」

「っ!?」

「もし?」

「なるほど」


 何がなるほどなのでしょうか。真顔で顔じゅうからよく分からない汗を流しているノヴァの表情はなんともいえないもので、私は笑いを堪えるのに苦労しました。

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