第313話 退屈の中の楽しみ

 わたくしの最も古い記憶は、父王に撫でられたことでも、母様の笑顔でもなく、しかめっ面で私の不出来を嘆く教育係のお小言でした。


「王家たるもの――」

「継承権者として――」


 そんな言葉ばかりが頭に残っています。


 物心ついた頃から、或いはそれ以前から、私の日常は狭い部屋――どうも世間一般では大層広いのだ、というのは随分後になって知りました――に閉じ込められて、勉強、勉強、また勉強の日々でした。


 シュトルムガルド王国の第三王位継承権者としての治政。

 他国へ嫁ぐにあたり、どこに出しても恥ずかしくない作法。

 王国の歴史、地理、芸事。

 などなど。


 私にとっては退屈の一言でした。過ぎたるは及ばざるが如し、という言葉を習った時に、ああ、今の私がそれだな、と感じたりもしました。そんなつまらない毎日の中で唯一の楽しみは、10日に一度の、護身術の訓練でした。

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