第288話 商人と獣人の帰り道


 帰り道。

 来た時と同じ、細く狭苦しい通りを歩いていく。

 この通りの造りはどう考えても意図的なものだ。

 けれど理由はさっぱり分からん。


「なあリュカ、この道って――」


 と、口を開きかけた時だった。

 アタシたちの進路は、数人のガラの悪そうな男たちに塞がれた。


「なんだアンタら?」

「よお、お嬢ちゃん。景気良さそうだなぁ」


 ニヤついているが、目はアタシが担いでいる棒きれ――銃に注がれている。

 ロクなもんじゃねえな。

 二度と来ねえからな、と胸中で呟きながら、


「そうでもねえよ」


 と応じつつ、連中の脇を抜けようとした。

 けれども、狭い道が災いして簡単に道は塞がれてしまう。

 ちっ。面倒な。


「そうつれなくすんなよ。ちょっと俺らと仲良くしようぜ?」

「いらねーよ。急いでるんだ」


 ちら、と背後を確認する。

 そっちも駄目か。

 仲間だろう男数人が退路を断ってくれてやがる。

 どうしたもんかね。

 つって、やるしかねえんだが。

 アタシは腹を括って、ドスを効かせた声を発した。


「汚ねえ顔近づけんな」

「は?」


 アタシの言葉が予想外だったのか、男は呆けた表情。


「口が臭せえんだよ。離れろ。どけ。家帰ってママに歯でも磨いて貰えや」

「生意気言ってんじゃねえぞガキィ!」


 お、キレた。それはそうだろう。


 銃を素早く構え、銃弾を装填して、照準。ジイさんにざっくり教わった動作。できるか? 間に合うか? やるしかねえんだから、やるしかねえ。


「にゅっ!」


 拳を振り上げた男の顎を――アタシの動きなんかより遥かに早く――リュカが下から伸びあがるような一撃で綺麗に打ち抜いていた。


「な……?」


 どういう速度だオイ。

 そーいえば「護衛」だったな、コイツ。

 リュカは両手を挙げて戦闘態勢を取って、ふんす、と鼻息を荒げこう言った。


「お仕事の時間デス!」

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