第188話 人も宿屋も最初の印象が肝心

 美人さんと客引きの少女はどうやら姉妹らしかった。顔立ちがよく似ている。おっとりした感じの、宿屋の女将(?)には似つかわしくないタイプ。妹の方も将来似た雰囲気になるのだろう。前途有望。


「私が宿の主人あるじをしております、ナーシャと申します。この子が『お向かいに泊るお兄さんが後で来るから部屋を取って』と言うもので、わけがわからずおりまして」


 それはそうだろう。

 なんで二軒の宿屋それぞれで部屋を取るのか、という話ではある。


「銀貨も頂いている以上はとご用意させていただきましたけれど」

「本当に来たんですね、お兄さん!」

「俺は嘘は吐かないからね」


(その発言が既に嘘なのじゃが)


 お前は黙ってろ。


「お部屋はご要望通り二階の角部屋を。ただ、あいにくと裏路地に面した部屋で、王宮は見えませんけれど」

「窓はある?」

「はい。もちろんございます」

「だったらそれで大丈夫」


 というかかえって好都合。


「あんまり帰って来れないかもしれないけど、気にしないで」

「お食事はどうなさいますか?」

「あると嬉しい。さっき言った通り帰ってきてない日もあるから、その時は申し訳ない」

「かしこまりました。さ、マーシャ。お客様をお部屋にご案内して」

「はーい!」


 いいね。この丁寧な感じ。向かいの宿では得られなかったおもてなし感。

 人も宿屋も最初が肝心だよな。


(……ユーマが言うと重みが違うというか、含蓄があるな)


 それで言葉を選んだつもりか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る