第187話 目立たずこっそり速やかに

 一通り客室のチェックを終えた俺は、スーツケースからボロボロのマントを取り出した。そして「ヤツ」に相談事。


 ……このスーツケースなんだけど、例の謎空間に仕舞っておけるか?


(謎空間とは?)


 骨刀とかアイのチェーンソーとか取り出すときに手ぇ突っ込むだろ。ずぶり、と。あそこのこと。


(可能ではあるが)


「あるが?」


(ユーマよ、儂のことを便利な道具入れか何かと勘違いしとりゃせんか?)


「してないしてない」


 誓って四次元ポケットだとか思ってない。本当に。断じて。


「まことか?」

「ちょっとだけだから。すぐ済むから!」

「仕方ないのう」


 なんだかんだチョロい「ヤツ」である。

 荷物スーツケースを謎空間に放り込んで、部屋を出て一応施錠。

 鍵を持ったまま廊下の突き当りの窓までダッシュ。


 転落防止の措置などしていないだろうからガバガバに開くだろうと思っていたら案の定、窓は開いた。屋根のひさし凹凸おうとつが多少あるのでどうにか俺でもいけるだろう。


「せいっ」


 飛び降りる。

 庇を蹴り、壁を蹴り、どうにか着地。ちょっと怖かった。

 目指すのは大通りを挟んだあちら側の宿だ。

 この恰好スーツ姿が目立つのはさっき勉強したのでマントを羽織りフードで顔を隠す。人通りが多いタイミングを狙って大通りに紛れ込む。人の波にわざと流されながら徐々にあちら側へ渡っていく。

 四車線道路くらいの幅を渡り切った。


 宿の玄関は質素なものだが、丁寧に手入れされているのか傷みは少なく綺麗だった。


「――こんにちは。部屋、空いてる?」

「「いらっしゃいませ!」」


 かなり美人な女性と、客引きの少女が出迎えてくれる。

 俺がマントを脱ぐと、


「あっ、さっきのお兄さんだ」

「よっ。部屋、押さえといてくれたかい?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る