第180話 情けは人の為ならず

 近付くほどに城壁の堅牢さが明らかになってくる。うちのホテル並みの高さで王都全体をぐるりと囲んでいる。ある程度魔法を使ったにせよ尋常でない労力が掛けられているのは想像に難くない。


 意外にも城門は開かれている。

 お家騒動真っ最中で姫が行方不明とは思えない長閑のどかさだ。市井しせいの者に悟られるわけにはいかないから通常営業なだけかもだが、何事もなかったかのように街並みは平穏だった。


 門をくぐったところで、


「じゃ、ブルーノ、止めてくれ。ここで一旦お別れた」


 王都に着きさえすればもう馬車アシに用は無い。

 俺は御者台から跳び下りる。

 エリザヴェートはノヴァが介添えをして荷台から降ろした。


「約束通り、さっさと王都を離れるんだぞ」

「旦那ぁ」

「そんな変な顔するなよ。まあ、俺が無理言ってるのは分かるよ。だからほら」


 と、俺は指でコインを弾いてブルーノに投げ渡した。


「詫び料だ」

「――って、銀貨じゃないですか!?」

「そうだけど?」


 ブルーノの取引額は知らないが、銀貨10枚分の商取引をして一割利益が出ると仮定するならそれくらい渡しておくべきだろう。こっちの都合、俺の我儘に付き合ってもらうのだから。


(甘い甘い)


 お前は黙ってろ。


「……あっしに、何かできることはございやせんか?」

「しばらく王都には近づくな」

「そういうことではなく、旦那の手助けになるような」


 ならば、


「商人仲間に伝手があるなら、帝国の動向を探ってくれ。くれぐれも安全に配慮して。報酬は、情報の良し悪しで決めるから」


 俺の言葉にブルーノは笑顔で頷いた。


「そいじゃまた、いずれお会いしましょう!」

「達者でな」


(儂はユーマのことをずっと女たらしかと思っておったが、人たらしじゃったか)


 ホントにお前黙ってろ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る