第145話 仮初の魂と魔力の芳香

 アイは創造されて以来、魔力の補給無くこれまでやってました。

 日々やり繰りして参りましたが、残存魔力が乏しくなってきたようです。


 視界も足元も安定せず、ふわふわとした感覚です。

 アイは花の香りに吸い寄せられる蝶や蜂のように仮眠室を訪れていました。

 横引きの戸を開き、


「失礼いたします」


 入室し、後ろ手に戸を閉めました。

 先程デスクから仮眠室へお運びしたユーマ様は今も眠っておいでです。


「緊急時ですのでご容赦ください。少々お情けを頂戴したく存じます、ユーマ様」


 意識の無い主人に断りを入れ、アイはベッドの傍らに膝をつき、寝具の隙間から出ているユーマ様の手指に触れました。


「――失礼いたします」


 指先を口に含むと、ユーマ様の中におわす「彼の御方」の魔力の味がしました。


「んっ……」


 ぴちゃぴちゃと音を立てて魔力を舐めとるアイの姿は、ふしだらで浅ましく、いやらしいものであることでしょう。ユーマ様がお休みなのを良いことに。魔力切れという言い訳を持ち出して。


「……」


 無礼千万承知の上で、犬歯で僅かにユーマ様の指先を噛むと、鉄の味が混ざり、魔力をより濃く受け入れることができました。


 甘いような。

 苦いような。


 仮初の魂が法悦に浸され、引きずられてしまいます。

 ですが、それは駄目です。


「んっ」


 アイは後ろ髪を引かれる思いで甘美なる時間を終了しました。

 汚し、傷つけてしまったユーマ様の指先はハンカチで丁寧に拭い絆創膏を巻いておきました。


 魔力は回復しました。

 にもかかわらずアイはいまだに少し、ふわふわしています。

 ふわふわ。

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