第139話 吾輩は魔剣である

 吾輩は魔剣である。

 はレーヴァテインという。

 いつどこで創造つくられたか最早覚えておらぬ。

 ただ、幾人もの使い手の手を渡ってきたことだけは記憶している。


 今の主は、ノヴァ・ステルファンという女騎士である。

 であるのだが、昨今はパンを焼く日々を過ごしている。


 このような使い手には一度も出くわしたことがない。

 あまつさえ吾輩を薪扱いする始末である。

 今日も今日とて小麦粉を捏ね、吾輩で焼いては客に供じている。

 

 ふと気が付いてみるとノヴァはいない。

 どこやらへ行ったらしい。

 それは良い。

 だが吾輩を置いていくとは如何なることか。

 騎士が剣を手元から離すとは何事だろうか。騎士の本懐を忘れたか。


 憤るとつい火が出た。

 吾輩の刀身が轟々と燃える。


 ややあって、様子を見に来た獣耳の娘が吾輩を石窯から引き抜いた。

 膂力が足りぬと見える。両手を以てしても吾輩を構えることが適わなかった。

 獣耳の娘は吾輩を引きずって歩き出した。

 やめろ、ちゃんと持て。刃がこぼれる。


 獣耳の娘は自身の使役する四足獣と魔法使いの娘を集めて吾輩を取り囲んだ。

 吾輩は言葉に出来ぬほどの辱めを受けた。

 奴原やつばらは腹を抱えて笑っておった。

 この恨み晴らさでおくべきか、と心に決めるも使い手がおらねば何もできぬ。


 願わくば吾輩がこれ以上穢れぬうちに使い手が帰還せんことを。

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