第129話 ペイマネーとプロポーズ、そしてショールーム

「クラリッサ、砂糖の代金はアレで足りたか?」

「あー、その、ええとだな」

「余ったのか」

「……う、うん。余った」


 ふうん。

 クラリッサは正直に申告してくるタイプか。

 なら――


「わかった。じゃあ、残りは次の砂糖の仕入れの手付けにしといてくれ」

「はあ!?」

「なんだ。要らんのか」

「そうじゃなくて! いいのかよ、幾ら余ったかも聞いてねえのに!」

「いいよ。クラリッサは駄目なのか?」

「駄目じゃねえ……けど」

「じゃ、そういうことで今後もよろしく」


 やりとりを面白そうに眺めていたメアリが、


「あたしの方の清算も頼めるかィ?」


 と体を揺らして言ってきた。待たせて申し訳ない。


「勿論ですメアリさん。頼んでた果物、かなり積んできてくれたけど、いかほどお支払いすれば?」

「元手としちゃあ銀貨一枚もかかってないがねェ」

「じゃあ銀貨二枚で」

「あたしにも今後のお付き合いを期待してんのかィ?」

「クラリッサだけだと不公平でしょう?」

「食えない男だねェ。あたしがもう十歳若けりゃ娶ってもらうんだがねェ」

「あっはっは、光栄です」


 十年前でもこの人のが年上だと思うぞ。


(ユーマは年上には興味がないものな)


 お前は黙ってろ。

 俺の内心に気付くわけもなく、メアリが名案とばかりにこう言った。


「そうだクラリー、あんたァ輿入こしいれしなァ」

「はあ!? 何言ってやがるオバサン」

「照れんでいいってェ。どうだいニイさん? まだまだあちこち色気は足りないが、いい子だよォ」


 クラリッサはそれ以上否定するでもなく俯いている。

 こういう場合の最適解は俺の頭の中には入っていない。

 どうしたもんかと思っていると、


「ユーマ様、お部屋の準備が整いました」


 ものすごい良いタイミングでどこからともなく現れたアイが割って入ってきてくれた。


「ありがとうアイ」


 助かった。うちの子マジ有能。


「――お二人とも、折角なので部屋をご覧になってください。もし宜しければご宿泊いただけますと幸いです」

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