第122話 仕事は人の助けなくして一日も進み得ない

 俺とアイは来た道を戻って果物売りのオバサンの所へ。


「こんちは」

「なんだいあんたァまた来たのかい」

「はは、そんな邪険にしなくても」

「モノ買わないなら客じゃないからねェ」


 オバサンは接客業とは思えない態度で接してくる。

 この世界の商売人は概ねこんな感じなんだろう。

 元の世界あっち、というか日本で求められがちな接客が特殊すぎるという気もしないではないが。


「クラリッサとは話がついたのかい?」

「ええ。ですので今度はあなたと商談がしたくてね」

「あっはっは。そりゃありがたいねェ」


 豪快な笑顔は肉食獣のそれ。

 クラリッサが猫としたらこのオバサンは虎だな。


「仕入れたいのは果物」

「そりゃそうだわァ。他のもんは商ってないしねェ」

「ベリー系、柑橘系、他の果実でもいい。なるべく多く、品質にはそんなにこだわらない。腐ってるのは困るけど、少し痛んでるくらいなら問題ない」

「そりゃまたありがたいこったねェ」

「どうかな? 頼めますか?」


 オバサンはきっかり一秒目を閉じた。頭の中で算盤をはじき終わったのか、くわっと目を開き矢継ぎ早に確認事項が飛んできた。


「量は?」

「馬車一台に乗る程度までで可能な限り」

「期日は?」

「19日後に引き取りに来る」

「支払いは?」

「現金で。前金も払う」


 オバサンはふん、と鼻を鳴らし頷いた。


「いいだろォ。あんた、名はなんてェんだい?」

「ユーマ。ユーマ・サナダ」

「あたしゃメアリだよォ」


 オバサン――メアリがすっと手を出したので手を握り返すと、


「違うよォ! 前金寄越せってんだよォ!」


 そっちかい。

 はいはいちょっと待ってくださいね、と。

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