第119話 人の噂も七十五日というけれど

 あの場で口論しているのはあまりにもみっともないので――その前に普通に路上で襲撃されたりするよりマシだとは思うが――、場所を変えた。


 前に泊った町で一番マシな宿屋に移動した。


「おお、ユーマ殿。早速来てくだすったのか」

「ちゃうねん。ジイさんちょっと酒場の奥借してくれ」

「そりゃ構わんが」

「話はちょっとあとでしようか」

「よろしく頼みますぞ」


 場所借りる分くらいはサービスしないとな。


「へえ」


 そのやり取りをみていたクラリッサが意外そうな顔をした。


「偏屈ジジイがあんな態度するなんざ、アンタ何者ナニモン?」

「しがない宿屋の主だよ」

「ホントかよ」

「まあ座ってくれ」


 一番奥のテーブルに着いた。

 アイは俺の後ろに立ったが、ホテル以外でそれをやられるとやたら目立つ。


「アイも座ってくれ」

「ですが」

「これは命令だ」

「……承知しました、ユーマ様」


 全員座ったところで、ジイさんが水を持ってきてくれた。


「何か食うかい?」

「適当に摘まめるものをおまかせで。あとこの果物切ってくれ」

「酒!」

「ガキが生意気抜かすな」

「けっ」

「アイは水だけで結構です」


 ジイさんがカウンターに引っ込んで行ってから、俺は名乗った。


「俺は裏の山の中腹の宿屋、サナダホテルウェントリアを運営しているユーマという者だ」

「あの鬼畜ダンジョンの関係者とか聞いてねえぞ!」


 まだその誤解してる奴がいるのかよ……!

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