第103話 買うか作るか、そこは問題じゃない


 ホテルフロントにおいて、比較的のんびりした時間帯はチェックアウトから次のチェックインまでの時間だ。ちなみにその時間が客室清掃係の最も忙しい時間でもあるわけで、ホテル全体として何も無い時間帯はどこにもない。


 俺は事務所で考え事をしていた。

 パンについてだ。

 アイの計算の通りなら20日以内にどうにかしなければならない。


「――マ殿」


 つまりパンを作るか買うかしなければならない。

 買うのはNGだ。

 ホテルここまでの輸送コストや日持ち賞味期限を考えると全く割に合わない。


「…ーマ殿」


 要するに作るしかない、ということだ。

 でもどうやって――


「ユーマ殿!」

「うお、びっくりしたあ!」


 急に肩を叩かれて俺は飛び上がった。


「驚かせてすまない。さっきからずっと声をかけていたのだが。ユーマ殿、どうしたのだ? 難しい顔をして」

「ノヴァか。悪い。ちょっと考え事しててな」

「悩みでもあるのか」

「……パン」

「パンとは、あの食べるパンのことか?」


 そうだ。


「大至急、パンを作らないといけなくてな。どこから手をつけたものかと」

「ほう! パンを焼くのか!」


 ノヴァは喜色満面だった。

 何故そんなにテンションが上がるのか。

 こちとら頭が痛いというのに。


「パンを焼くのであれば石窯がなければな」

「石窯かあ」


 やっぱりそこからだよなあ……。

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