第102話 パンはパンでも甘すぎるパンは

 焼成済み冷凍パンはご存じだろうか。

 読んで字のごとく焼きあがったパンを急速冷凍させたパンだ。

 解凍するだけでおいしく召し上がっていただける。


 焼く手間を省くことでサービスにかかる時間と手間を削減する。

 更には廃棄ロスの削減にも繋がる。

 単価はそれなりにするが、トータルで判断すればプラス。


 そういう商品なのだ。

 

 だが、元の世界あっちの製造技術によってつくられた大量生産品を異世界こっちで再現するのは俺の手には余る。


「アイ、冷凍庫の在庫はどれくらい残ってる?」

「クロワッサンが1,500個、バターロール1,000個、チャバタが100個、ピタパン5枚入りが100袋、ミニチョコが200個、ミニクリーム200個等、合計するとおよそ4,000個ほどです」

「今すぐなくなる、ってほどじゃないか」

「現状のペースで推移すると20日前後で底をつくかと。特に甘いパンが好評のようです。他のパンよりも倍以上のペースで消費されています」

「……失敗したな」


 俺はまだ元の世界あっちの常識で生きていたようだ。異世界こっちでの「甘味」の威力は絶大だったようだ。中世前後の文化レベルにチョコとクリームはやりすぎだった。ミスったな。


「お客様のリピートも十分見込めますが、代替品を用意しなければなりません」

「今度はパン作りかー」


 オーブンもないんだぞ。あっても電力が足りないが。


「楽しそうですね、ユーマ様」

「そんなことはない」

「失礼いたしました、ユーマ様」

「ないけど、やるしかないよな」

「はい、ユーマ様」

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