第91話 “風”の守護精霊と“冥府の窓”

「こんな辛気臭い洞穴ほらあなに入った程度での傑作を滅するじゃと!? 馬鹿も休み休み言わんか、ド田舎の精霊風情が!」


 怒り心頭に発したおかげと言うべきか、儂はユーマの体の制御コントロールを得ていた。胸のうちでユーマがぎゃあぎゃあ喚いておるが今は無視一択じゃ。


なれが死臭の出処でどころかや。得心とくしんいったわ。“冥府の窓”よ」

「その名で呼ぶな、若作りのババアめが」

「よう吠えた。余を愚弄するか、魔女め」

「儂の台詞じゃ。アイを滅するなどと舐めた口、金輪際叩けぬようにしてやろう」

「死して黙するのはなれの方よ」


(やめろ!)


 邪魔をするな、ユーマ!

 今からこの偉ぶった精霊に目にもの見せてくれる。


(駄目だ! 争っても良い方向にはならんだろ!)


 儂がこやつを殺せば全て解決するのじゃ。

 さすればアイをどうこうなどという物騒な話にはならんじゃろ。


(守護精霊がいなくなったら山が荒れるだろうが! それは俺のホテルの経営にとって致命的な問題だ)


 ならばアイはどうする。捨てるつもりか?


(捨てるわけないだろ! いいからさっさと体を返せ!)


 ――ちっ。

 持ち主ユーマの同意が得られぬまま体を制御コントロールしても精霊アレには勝てぬかも知れん。ここまでか。仕方ない。



 ガクン、視界が揺れて俺は俺の体を取り戻した。「ヤツ」め、どんどん俺の隙ついて制御コントロール奪うのが上手くなっていくな……。


「待ってくれ! ちょっと待ってくれ!」

「……“冥府の窓”の気配が消えた。、死臭纏いし者よ」

「その呼び方やめていただけないかね。俺はユーマ。真田悠馬だ」

「ユーマ。ユーマか。余は“風”のウェントリアス」


 幼女――守護精霊ウェントリアスは俺に興味を持ったのか、聞く姿勢になってくれた。もしかして「ヤツ」のおかげか? ひょっとして。


「差し赦す。この上申し述べることあらば申してみよ」

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