第70話 クレーマー対応(担当変更)

(だいたい自称勇者などという輩は虚栄心の塊なのじゃ。手前勝手な正義を押し付けてきよる)

「言いたいことはわかるが」

(儂を殺し村を滅ぼした勇者を儂は赦さぬ。絶対にじゃ)

「いやでもノヴァはお前を殺した勇者とは別人だろ?」

(勇者であることに変わりはないのじゃ。勇者滅ぶべし)


 極論だな。「ヤツ」が暴走する前に、アイになんとかしてもらいたいところではある。


 アイのチェーンソーをノヴァが剣の腹で受ける。

 チェーンソーはガリガリと削る。


「貴様っ! やめろ!」

 

 慌てて飛びのくノヴァ。そりゃまあ自分の剣を削られたそうなるか。だがアイはその隙を見逃さない。距離を詰めてチェーンソーを突き出す。顔面狙い。ノヴァは首を捻って避ける。髪が一房ひとふさ宙に舞った。突きからの払い、振り下ろしの三連撃をどうにか凌いだノヴァの頬には僅かな傷ができており、血が滲んでいた。


「私の魔剣に傷を付けたな……!」

「道具は損耗を前提にすべきものです。観賞用の美術品でしたら部屋に飾ることを推奨いたします」


 煽るなー。さすがアイ。

 ノヴァは髪の毛を逆立てんばかりに怒っている。


「後悔させてやる……!」


 剣を構えると紅い刀身が揺らめき、次の瞬間炎が噴き出した。 


「魔剣レーヴァテインの真の力を見るがいい」

「肉の調理に便利ですね。鹵獲し精々活用させていただきましょう」

「よく吠えた!」


 大上段から炎の一撃が来る。アイはチェーンソーを投げ捨てた。燃料に引火することを懸念したのか。しかし素手はまずくないか? 俺の懸念を他所にアイは両の手刀で迎え撃つ態勢。炎がアイの制服を灼く。アイは怯まない。炎もろともに紅い刀身を白刃取りで止めた。


「まだだ!」


 魔剣から炎が吹き上がる。

 アイの制服が完全に焼け落ちる。

 それでもアイは無事だ。まだ、今のところは。


(ユーマ、骸骨兵を壁にせよ)


 と、言うが早いか「ヤツ」は俺の体を動かし、アイとノヴァの間に骸骨兵を次から次へと割り込ませていく。十体、二十体。骸骨兵はものすごい勢いでと灰と化してゆく。


 ――がくん、と俺の視界がブラックアウトした。


小娘アイ、下がれ。後はが相手をする」


 体の主導権を「ヤツ」に奪われた。

 勇者を殺すのだけは勘弁してくれよ。

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