第69話 クレーマー対応(物理)

 ノヴァが席を蹴るようにして立ち上がった。


「抵抗するなら、実力で制圧させてもらう」

「それが王国のやりかたか。侵略は覇道だ。王道からは外れているぞ、勇者様」

死霊術師ネクロマンサー風情が人の道を説くか」


 風情ね。下に見るじゃないか。勇者がそんなに偉いのか。

 王国所属の勇者。所詮は役人か。


「会話を打ち切ったのはそちらだろう、赤の勇者」

「貴公らのためだと言っている」

「お仕着せの善意にすがるつもりはない」

「……っ!」


 ノヴァがついに剣を抜いた。

 彼女の髪よりも、瞳よりも、なお赤い刀身。


抜剣ばっけんを確認しました。支配人への敵対行動と判断いたします」


 アイが虚空からチェーンソーを引き抜いた。

 骸骨兵スケルトンウォリアー数名が大慌てでテーブルと椅子を撤去する。


「お下がりください、支配人」

「任せた。でも無理はするな」

「仰せのままに」


 頷くアイは立ちはだかるように前に出た。

 ノヴァが吠える。


「道をあけろ!」

「投降を推奨します。それとも今日も水遊びをご所望ですか?」

「貴様ぁ!」


 激昂したノヴァが先に動く。鋭い斬撃が紅い軌跡を作る。アイは紙一重で躱し、下段からチェーンソーを逆袈裟。当たれば致命。だが当たらない。ノヴァは斬撃の勢いを利用して前に回避。チェーンソーが僅かに掠る。ちゅいん、と胸部の鎧が削れる音。距離を取って向き合う両者。


「結局こうなったか」


 やれやれと思いつつ、俺は邪魔にならないように玄関口まで退避。


(ユーマよ)


「ヤツ」の声が胸中に響く。


(儂に体を貸せい。勇者を名乗る輩は儂がすり潰してやる)


 怨嗟に塗れた声が俺の体を満たす。いや、落ち着け。一旦落ち着け。

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