第43話 町長、重畳、首尾は上々(韻

 昨日の若者は言葉通り、翌朝迎えにきた。

 宿を引き払い、若者に案内されたのは三階建ての町長宅。

 見覚えがあると思ったら見覚えどころではなかった。

 クマと戦った時、ナイフを遠隔操作するのによじ登ってた家だコレ。


 若者の案内で小綺麗な応接間に通されると、既にそこには細身の中年の男が待っていた。


「御足労頂きありがとうございます。私はこのムラノヴォルタの町長をしております、メイナードと申します」


 黙っているナターシャの脇を小突く。

 お前が呼ばれたんだろうが。


「はじめまして! ナターシャと申しますっ!」

「私はユウマと申します。ナターシャの援護をしておりました」

「おお、もしやあの魔剣を使っていた方ですか」


 見られていたか。

 まあ自宅の屋根の上で突っ立ってる男がいれば注目もするわな。

 隠し立てしても仕方ないので素直に頷いておいた。


「ええ、そうです」

「ナターシャさん、この度は町の危機を救って頂き誠に有り難うございました」

「いえあの、私はただ、御主人様のユーマさんの指示通りにしただけで」


 ちーがーうー。

 人前で言うのは少々はばかられるが、仕方ない。


「何回でも言うけど、御主人様じゃなくて雇用主な。指示はしたけどクマを倒したのはナターシャの実力だろ。俺はクマの足止めをしてただけ」


 メイナード町長は俺たちのやり取りを見て笑っていた。

 好意的な笑顔、だと思う。


「いずれにせよお二人には感謝を。少ないですが謝礼を用意させていただきました」

「いや、それは――」

「どうか受け取ってください。冒険者ギルドに出した依頼料がそっくりそのまま返って来ただけのことです」


 メイナード町長がそう言って取り出した袋は見るからに「少ない」ということはなさそうだ。重そう。言われてみればギルドとやらで依頼受けずにクマ倒していたな。


「じゃあ、ナターシャ。折角なんで頂戴しなさい」

「私ですか!?」

「だってクマ退治の謝礼金だしな。倒した者が受け取るべきだ」

「ユーマさんがそうおっしゃるなら……」


 と、ようやくナターシャは笑顔で礼金を受け取った。

 信賞必罰は組織の基本だからな。疎かにしてはいけないのだ。

 自戒もこめてそう思う俺だった。

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