第39話 死霊術師は虚空の果てより骨の刃を掴み取る

 は両の掌を何度か握り開いて、その感触を確かめた。

 やはり良い。

 このユーマのはよく儂に馴染む。

 程よい怨嗟と後悔の染み付いた久遠の彼方より来た躯体からだ

 

「くくく」

「あの、ユーマさん、なんだか気持ち悪い顔になってますよ?」


 宿の外で気分よく笑っているところをボロ娘ナターシャに茶化された。

 憤怒の感情、というのも肉体があればこそ表現ができる。

 故にむしろ赦しはしないんじゃが。


「黙らんかボロ娘。死ぬより辛い目に遭わせられたいか?」

「ひっ」

「儂の楽しみの邪魔をするでないわ。ユーマの指示通りに配置についておれ」

「は、はい! 行ってきますぅ!」


 ボロ娘は脱兎の如く駆け出した。


(おい、あんまりいじめるなよ)


 儂の中でユーマが文句を言ってきよる。


「まあ良いではないか。言葉だけで済ましてやっとるんじゃから。さて――」


 儂は両手をゆらゆらかざし、

 ずぶりと肘までが現世うつしよ際涯さいがいを求めて沈み込む。


「――よし」


 粘つく虚ろの中で、儂は目当てのモノを見つけ、引き抜く。

 儂の――ユーマの全ての指の間に、左右四本ずつ計八本の短刀が握られていた。

 では、躰体からだをユーマに戻そうか。



 がくん、と視界が暗転する。

 この感覚、何度やっても慣れないな。気持ち悪い。


は“終焉つい先触さきぶれ”と謂う)

「また物騒なだな」


 両手に握らせられた、八本の刃は、どうみても何かの骨を削りだして加工したものに見える。


(実際その通りじゃから)

「そいつはどうも」


 リクエスト通りで何よりだ。準備万端。いざ、開戦だ。

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