第14話 話が通じないにもほどがあるし俺はダンジョンマスターではない

「支配人……だと……?」


 唖然とする三人組に俺は問いかける。

 なるべく丁寧に、慎重に。


「当館にどういった御用でしょうか? 当館は宿泊施設ですので、ご宿泊でしたらよろこんで承りますが」


「あんたが、ダンジョンマスターだったのか……!」

「どおりで正面の扉を簡単に開けられるわけだぜ……!」

「我々を引き込んで殺してしまおうという魂胆ですね……!」


 駄目でした。

 違うって。

 頼むから話聞けよ。

 俺はただのホテルの支配人だよ。

 なんだよダンジョンマスターって。

 俺は溜息混じりの諦め半分で念押しをしてみる。


「ご用件は宿泊ではない、ということでよろしいですか?」

「宿泊ってのは“死”の隠語ってわけだな……」


 ゴクリ、と唾を呑む三人組。

 いやゴクリじゃないんだよな。

 違うから。隠語とかではないから。

 勝手に盛り上がってないで頼むから俺の話を聞いてくれ。

 こっちとしてはなるべく穏便に済ませたいだけなのだから。


「ご宿泊のお客様でないならお引き取りいただけませんか?」

「わけわかんねえことばっか言ってんじゃねえぞ!」

「冒険者を舐めるなよ!」

「ただではやられませんよ!」


 なるほど、と俺は得心とくしんした。

 このテの会話の成立しない野蛮人どもがいわゆる「冒険者」というやつなのだな。

 三人組はそれぞれ自身の武器を構えた。剣、ナイフ、杖。

 こちらは何も持っていないというのになんと荒っぽいことか。


 まあいい。


 正当防衛成立、ということで対処させてもらおうか。

 俺の方もそろそろ限界だ。

 忍耐力的な意味で。


「アイ、丁重にお引き取りいただけ」

「承知いたしました――支配人」


 アイ、咄嗟に俺の名前を言わなかったのは大したものだ。

「ヤツ」が創ったとは思えない出来の良さだ。

 あとで褒めてやるとしよう。

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