サキュバスの品格

ヤルヤンをはじめとする黒ギャル派の娘達が、

満員電車の中で痴漢撲滅のために

具体的に何をしているのかと言うと。


まず他の女性客に被害が及ばないよう

魅了や誘惑で痴漢を惹きつけて、

実際に痴漢行為に及んだ際には

相手の心がバキバキに折れるまで、

その場で声に出してののしる。


「そんな下手で痴漢とか、超ウケるんですけどー」

「こんなんで痴漢するとかありえねーし」

「マジ、うけるー」

「下手クソ、死ね」


これだけでかなり振り落とされるのだが、

それでもまだ戦いを挑んで来る敵には、

淫夢いんむを見させ絶頂、昇天させる。


朝の通勤、満員電車の中で絶頂を迎え、

賢者タイムを迎える人間などはそうそういない。

その気持ちは一体どんなものであろうか。

想像しただけで恐ろしい。


朝のはじまりの時点でぐったり疲れ、

汚れたパンツを履いて、

一日中自己嫌悪に陥りながら過ごすのかと思うと、

そら恐ろしい。



だがこれでもへこたれない真性のドMや

痴漢のプロフェッショナルがいるようで、

日々そうした敵と

熱いバトルを繰り広げているらしい。


「こいつら、真剣に土下座したら

やらせてあげるぐらいには

クソビッチなんですけどね、

痴漢も何をそんな

にムキになってるんでしょうね?」


話を聞いていたリリアンは呆れる。


「ほ、ほら、

サキュバスのプライドと

痴漢のプライドを掛けた

熱いバトルみたいな感じなんだろ……」


痴漢としてのプライドがあるなら

その前に人間としてのプライドを

なんとかしてもらいたいところなのだが。


黒ギャル派と痴漢の馬鹿さ加減に

震える愛倫アイリン


-


朝の通勤時、

SK線での黒ギャル派達の奮闘ぶりを、

一度実際に自分達の目で見てみようと

思い立った愛倫アイリンとリリアン。


黒ギャル派の娘達の露出を叱った手前、

自分も扇情的な格好をする訳にはいかないので、

いつものライダースーツ、

そのチャックをきちんと上まで閉めて

谷間を完全に隠して臨んだのだが。


「やばいっすよ、あねさん、

ライダースーツピチピチで

ボディライン丸見えじゃないっすかっ!」

「女のあたしでも鼻血でますわ!」

「これ、完全にアクション系AVじゃないっすか!」

「裸よりエロいっしょ、これ!」


愛倫アイリンをリスペクトする

ヤルヤンと黒ギャル派のサキュバス達は

そのエロさに興奮し賛辞を送る。


サキュバスとしては褒め言葉ではあるが、

今回の趣旨からは外れている。


「いや、別にあたしは着物みたいな

重装備でも構やしないんだけどね。

でもそれじゃあなんだか、

痴漢を警戒してビビッてる

チキンみたいじゃないか。

だから敢えて普段の恰好にしたんだけどねえ、

まずかったかねえ」


確かに痴漢に臆してチキったなどと

敵に言われようものなら、

サキュバス一族の沽券こけんに関わりかねない。



露出を抑えているのに

かえってエロいと言われてしまった愛倫アイリン


でも悪い気はしないので、

そこそこ機嫌良く

今度は和服に着替えて登場するが。


「やばいっすよ、あねさんの和服姿、

隠されたエロスがびんびんじゃないっすかっ!」

「髪結ってるから、うなじとか激エロですわ!」

「これ、完全に和服系AVじゃないっすか!」

「裸よりエロいっしょ、これ!」


またそう言われて着替えることになるのだが。


『和服プレイもOKよ《はあと』


とりあえず写メを撮って

慎之介に送ることは欠かさない。



愛倫アイリン、どうしたらいいか考えあぐねた結果、

田舎の中学生が着ていそうなダサいジャージで登場する。


「や、さすがにジャージは止めましょう。

そんなダサいジャージ着て、

都内を走る電車に乗っているエロい女なんて、

単なるイタイ人ですから」


リリアンは案外冷静だった。


「あんた達は注文が多過ぎるんだよ、

なんだい、人を着せ替え人形みたいな扱いして」


で結局は、

満員電車の通勤OLをイメージということで、

前回と同様女教師風ファッションで落ち着く。


-


しかしそれでも伝説級サキュバスの

にじみ出るエロさは隠しきれず、

朝の通勤客でごった返している

駅であるにも関わらず、

駅のホームを歩くと、

人が左右に避けて道が出来る。

まるでモーセの十戒で

海が裂けて道が示されるかのように。


体に纏うオーラが

光を放って輝いているのではないかと

思わせるぐらいの圧倒的存在感。


愛倫アイリンが通るだけで

道行く男達がみな振り返り、見惚れる。


そのレジェンド級の威力を見た

ヤルヤンをはじめとする黒ギャル派の娘達は、

大興奮してリストペクト・アンド・リスペクト。


「さすがあねさんだぜ!

胸の谷間の一つも見せずに

男をたぶらかすなんて、

あたし達には到底真似出来っこねえぜ!」


興奮するヤルヤンを前に冷静なリリアン。


「いや、お前それ

サキュバスとしてダメだろ」


-


このままぎゅうぎゅう詰めの満員電車に乗っても

大惨事になることは目に見えているので、

そこまで満員ではない電車を待って乗ることに。


やはり乗った瞬間に異変は起こった。

『満員』である筈なのに、

愛倫アイリンの周囲だけ

微妙に空間が出来ている。

他の密度が高くなるだけなのに、

オーラがすご過ぎて人間が避けてしまう。


それでも突撃して来ようという

身の程知らずな痴漢の猛者もさもいたが、

愛倫アイリンに辿り着くことすら出来ずに、

絶頂してその場に崩れ落ちてイク。


「あぁぁぁぁぁっ……」

「おぉぉぉぉぉっ……」


そっちこっちで絶頂の声を上げて、

崩れ落ちていく痴漢のしかばね

ちょっとした地獄絵図みたいなことになっていた。


「何したんですか? 一体」


愛倫アイリンがまた何かをしたのだろうと、

勘のいいリリアンはすぐに察する。


よこしまな気持ちの痴漢が

こっちに向かって来たら、

淫夢いんむが発動する術を仕掛けておいたのさ」


「なんですか、

その自動反撃カウンター装置みたいな仕様は」


「あんたにも教えてあげようか?

自動で発動する呪詛返しみたいなもんだからね、

条件設定出来れば割と簡単なんだよ」


「いえ、私はいいですよ、

この先満員電車乗る気もありませんし」


微笑を浮かべる愛倫アイリン


「あたしは気に入った男にしか

体を触らせやしないよ」


「でもこの間、

店長マスターが手を握っても、

怒りませんでしたよね?」


店長マスターなんて

とっても可愛いキュートなおじいちゃんじゃないか」


自分の方が遥かに年上のくせに、

とリリアンは心の中で思う。


「あたしはね、

女子供と年寄りには優しいんだよ」


「弱い者の味方って、

なんだかヒーローみたいですね」


「いや、そんな大それたものじゃぁないよ」


次々と自滅していく痴漢をどこ吹く風と、

愛倫アイリンは窓の外の景色を眺める。





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