サキュバスは、満員電車の痴漢とバトルする

SK線の痴女

例によって、いつもの喫茶『カミスギ』。


あねさん、知ってます?

今SK線がすごい話題になってるんですよ」


スマホの画面を見ながら

そんな話をしだすリリアン。


「SK線? なんだい、そりゃ?」


休憩と称して

コーヒーを飲みながら喫煙中の愛倫アイリン


「SK線を知らないんですか?

朝の通勤時の満員電車で、

二日に一回は痴漢のトラブルにより

電車遅延が発生すると言われている、

もはや都市伝説のような電車ですよ」


「なんでも、

満員電車の先頭車両には、

毎朝痴漢が大量に潜んでいるとか」


「そりゃまた、呆れたもんだね、

こっちの世界は

案外まともだと思っていたんだけどね」


「で、その痴漢が

今ネットで話題になってるのかい?」


愛倫アイリンはコーヒーカップを口に運ぶ。


「いえ、話題になってるのは痴漢じゃなくて、

露出の激しい痴女ぽい集団が

毎朝SK線に出没するらしいです」


飲んでいたコーヒーを噴き出す愛倫アイリン


「そりゃ、どう考えても

あたし達の身内なんじゃあないのかい?」



スマホで画像を探すリリアン。


「そうみたいですね、

SNSに画像がありましたよ」


リリアンのスマホを覗き込むと、

愛倫アイリンのよく見知った顔が何人も。


そのまま頭を抱え込む愛倫アイリン


「どうやら黒ギャル派のヤルヤン達みたいですね」


ここで言う黒は

善悪や倫理感の黒ということではなく、

単純に日焼けでもしているかのように

肌が黒いため黒ギャル派と呼ばれている、

日差しに弱いサキュバスであるにも関わらずだ。


「相変わらずお得意の

アへ顔ダブルピースで写ってますね」


隠し撮りされた画像らしいにも関わらず、

何故かアへ顔ダブルピースで写っている

小麦色の肌に銀髪のヤルヤンという黒ギャル派の娘。


「いいではあるんだけどね、

あたしゃどうもあの軽いノリが苦手でね」


やれやれという表情で煙草を吹かす愛倫アイリン


-


リリアンがスマホから連絡を取ると、

ヤルヤンは数人の黒ギャル派を率いて、

すぐに喫茶『カミスギ』にやって来た。


今回の移民団の中で、

サキュバスの黒ギャル派は五十人前後いるのだが、

今日はすぐに来られる数人で来たとのこと。


「ちぃーす、ちぃーす、

あねさん、お久しぶりっす!」


そんな軽いノリで挨拶するヤルヤンだが、

レジェンド級サキュバス愛倫アイリンのことは

めちゃめちゃリスペクトしており、

愛倫アイリンの言葉通り

ちょっとお調子者だが根は悪い娘ではない。


「あんた達、相変わらず日焼け風が好きだね」


「えへへ、ここ見てくださいよ」


ヤルヤンがビキニの水着風な

トップスの端を少しずらすと、

何故かそこだけは日焼け風ではなく

白いままである。


「この日焼け後風の演出、エロくないっすか?」


「いいとは思うけどね、あん達いつも

よくそんな細部の演出に時間かけるね」


日中の日差しに弱いサキュバスが

紫外線を浴びて日焼けなど出来る筈はなく、

あくまで彼女達の努力で

日焼け風にしているのである。


-


SK線の痴女の噂話をヤルヤンから

聞いてみたところによれば、

こういうことらしい。


SK線の痴漢のことを知った

ヤルヤン達黒ギャル派は、

これは許せんとばかりに、

SK線の先頭車両に乗り込んで、

魅了やら誘惑を使って

痴漢達全員を自分達に惹きつけ、

他の女性乗客が被害に合わないようにし、

痴漢達に淫夢を見せたり、

ちょっとだけ触らせたりして、

毎朝精気を吸い取ったりしているらしい。


性犯罪の被害が発生する前に

自分達が身代わりになって、

ついでに精気もいただくという

いつものサキュバスのやり方ではあるのだが、

今回はどうにも時と場合がよろしくない。


「あんた達、そんな朝っぱらから、

エロい格好して満員電車乗ってるのかい?」


「大丈夫ですよ、あねさん安心してください、

エロい皮のビキニとか、

エロい皮のホットパンツとか、

エロい皮のボンデージとか、

エロい皮のブーツとか、

そんなのは一切着てませんから」


「素材の問題じゃあないんだよ」


「そんな胸の大半が丸見えの上半身ビキニで、

ケツがはみ出しているような

ピチピチのホットパンツで、

朝っぱらから満員電車に乗るってのが

どうなのかって話じゃあないか」


確かに、

ほぼ全員がキチンとした

スーツを着た男女で満員の、

ぎゅうぎゅう詰めの電車に、

こんな露出が激しい女が乗っていたら、

それこそ痴漢行為を誘っている

痴女だと疑われても仕方がない。


しかし、ヤルヤンはこれに猛反発する。


あねさん、何てこと言うんですかっ!」


「これはあたし達の普段着ですよ!

いつもあたし達はこの格好なんですよ!」


だからその普段着を見直せという話なのだが。


「胸の谷間とハミケツ、

肌の露出はあたし達黒ギャル派の

アイデンティティーじゃないですか!」


「あたし達から胸の谷間とハミケツを取ったら、

一体何が残るって言うんですか!」


「そこは何か残ろうよ」


リリアンも思わず突っ込む。


「そんなこと、胸を張って言うんじゃあないよ」


どうやらヤルヤン達黒ギャル派は、

胸の谷間とハミケツで出来ているらしい。



「そもそも、

朝の通勤で『満員』なのに、

あんた達がそんな大人数で

ぞろぞろ押し掛けることが、

迷惑行為なんじゃあないのかい?」


「そんな、

一度に数十人で行くようなことは、

あたし達だってしませんよ」


「朝の通勤時間帯、

SK線の本数は多いですからね、

何班にも分かれて行動してるんですよ」


彼女達もそれなりに考えては行動しているようで、

都内の朝の通勤電車は五分や十分置きには来るし、

彼女達だけでは電車の本数すべてを

フォローするのも難しいかもしれない。


それ故にヤルヤン達のことが

SNSで拡散され噂になって、

野次馬がSK線に集まるようなことがあれば、

今まで以上にSK線が

痴漢の巣窟となることだって考えられる。


よかれと思ってやったことが、

他の問題を引き起こしている

ということもよくあることで、

そういうことを考え出すと

結局何も出来なくなってしまうのだが、

やはり難しい問題であることなのは間違いない。



正しいことをやろうとしている気持ちは

伝わるのだけれど、

そのやり方がどうにも腑に落ちない

愛倫アイリンではあった。






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