Ⅱ 天啓はインドラの矢のように

 もう何度となく観ている有名作品なので、別段、テレビの前に正座して真剣に観るでもなく、いろいろと家事をたしつつながら見をしていたのであるが、話の後半に差し掛かった辺り、ふと、敵役である軍の特務大佐が語ったセリフがなぜか耳に残った。


 あの、超古代文明の王家の末裔を名乗る、臙脂エンジのジャケットを着たキザな栗毛七三分けのメガネな男だ。


 場面は彼が仲間の軍隊を裏切り、超古代のテクノロジーを使って広間の床を一瞬にして消し去ると、上空何千メールという高度にある天空の城から彼等を落下させたところである。


 その何百という人間達がなんら抵抗もできず、塵芥ちりあくたの如く落ちて行く様を見て、大佐は拉致したヒロインの少女に対し、


「見ろ! 人がゴミのようだ! はっはっはっは!」


 と嬉々とした顔で言い放ったのだ。 


 まあ、普通に聞けば人間性のカケラもないサイコな人でなし発言であるが、それを耳した瞬間、僕の脳裏にイカヅチにも似た強烈な衝撃が走った。


 そして、なぜこれまで気づかなかったのだろう、ようやくにしてその境地に思い至ったのだ。 そうだ。人ごみが嫌いなら、人を本当のゴミだと思えばいいじゃないかと……。


 なんだかマリー・アントワネットの「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」に似ている気もしなくないが、僕の方はそんな世間知らずな王侯貴族の戯言ではなく、本当に見ている世界を一変させる、大いなる発想の転換である。


(※ちなみにアントワネットの言とされるこの台詞、本当は彼女ではなくまったくの別人、もっと前の時代のフランス貴族の貴婦人がのたまわったものです)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る