勇者アルフィリーナ
アルフィリーナは極寒の滝に打たれ、己の精神を統一。
「ぁぁあああ! 神様! 私に! 私に強い心をお与え下さいいいいい!」
そもそも奴隷市場の件といい、キャバクラの件といい、強い精神で突っぱねればそんなに大事にならなくて済んだわけだ。
アルフィリーナはその辺を悟ったが、今の自分ではどうしようも無い事もわかる。
「神様! 私に罰を! どうか至らない私に罰ををををを!」
どがしゃーん!
その瞬間、アルフィリーナに稲妻が落ち、そのまま気を失った。
ーーアルファン城謁見の間
「レジーナちゃん! 大変大変!」
盗賊キャロットがぐったりしたアルフィリーナを担ぎ込む。
「な! アルフィリーナではないか! 一体何があったというのだ! まるで稲妻にでも打たれたようではないか!」
事実稲妻に打たれたアルフィリーナは目を覚ます。
「こ……ここは一体……」
アルフィリーナはキョロキョロと周りを見回すと、ところどころ焦げて穴が空いていたり、やたらひらひらした服が気になる。
「なんで私、こんな格好を!」
目を覚ましたアルフィリーナに飛びつくレジーナ姫。
「良かった、生きておったか! もう、毎度無茶ばっかりしおって!」
レジーナ姫にされるがままの状態でぼーっとするアルフィリーナ。
「着替えを持て! 新しい修道衣は中央修道院から早めに取り寄せるのだぞ!」
「……はい……着替え」
魔法使いのカルディナは、スっとアルフィリーナに近づくと、着替えを落とす。
「あ……あ……あ……あ……」
しかし、何故か下着姿になったアルフィリーナを目の当たりにし、怯えはじめたカルディナ。
「ど、どうしたカルディナ?」
尋常ではなく怯えるカルディナに城内が静まり返る。
「…………」
アルフィリーナは下着姿のまま辺りを見渡すと、ボソッと呟いた。
「あなた達は、一体誰なんですか?」
記憶喪失のアルフィリーナは再び記憶を失った。
ーー村の入り口
アルフィリーナはぼーっとしながら、誰とも分からない人達にもらったフリフリな服に着替え、村の外を眺めていた。
「ここは一体……そして私は……」
見慣れない村、見慣れない景色、そして見慣れない自分の容姿。
「私……こんなに髪の毛長かったっけ?」
腰まである長さのサラサラな白い髪、顔に近づけるとすごく良い香りがした。
ぼーっと空を眺めて暇をつぶす、やがて地鳴りが近づくにつれ、村の様子が慌ただしくなっているのにきづいた。
「大変だ! トロールが現れたぞ! とにかく巨大な敵だ、みんな逃げろー!」
村の入り口に向かってトロールの大群が押し寄せてきたらしい。
「あんたも早く逃げろ! 兵士たちを呼んで来るからな!」
「…………」
寝転んでぼーっとしているアルフィリーナを置いて皆立ち去っていく。
「トロールかぁ……」
素手でオークキングを倒したアルフィリーナと言えどもこの大群を村に入る前に全滅させるのは厳しいかもしれない。
「なんだろう……すごく懐かしいな、この感じ」
アルフィリーナが右手を天に掲げると、光が集まり剣の形を具現化させる。
「伝説の聖剣エクスカリバー……まだあったんだ、この剣」
魔王の血の匂いがわずかに残るこの剣を見つめると、吐き気が込み上げてくる。
ポイっ!
投げ捨てても戻ってくる。
ヨーヨーのように何度も戻ってくるので、やむなく装備して立ち上がる。
アルフィリーナはエクスカリバーを地面に刺すと、全身が光に包まれ、盾鎧等の装備を具現化させた。
「未だ敵はやってくるんですね、やっつけないと……」
アルフィリーナは青白い勇者のオーラに包まれると、トロールの部隊に突っ込んでいった。
(数分後)
「な、な、な! なんだこれは!」
村の入り口には山のように積み重なったトロールの死骸と、その上でぼーっと空を眺めている女の子が一人。
「アルフィリーナか? いや、しかし、この感じ、拳で殴った感じではないぞ……」
「なんか、疲れちゃったな……」
ふらっと落ちてくるアルフィリーナをガシッと受け止めるレジーナ姫。
「鎧と剣……アルフィリーナは武器も鎧も装備が出来ないはずなのだが……」
ーー謁見の間
「という事があってだな、今はゆっくりと寝室で眠っているのだが、皆はどう思う?」
相変わらずカルディナは部屋の隅で怯えている。
「朝から変だと思ったんだよね」
「アルフィリーナが不思議な力にでも目覚めたんじゃないか?」
(なるほどな……朝に何かしらの現象が起き、皆は知らんが勇者としての記憶が目覚めつつあるのかもしれん)
「もしかしたら、アルフィリーナには特別な才能があり、今回の事で少し目覚めたのかもしれない、今後の経過を観察するがよかろう」
レジーナ姫は少し濁してこの会合を終えた。
ーー寝室
「……また知らない場所だ」
アルフィリーナは目覚める。
トロールの返り血が気持ち悪い。
シャワーを浴び、今までの記憶を整理する。
「魔王城に乗り込んで、私は魔王を抱えて逃亡した。でも、私は結局魔王をこの手にかけた、それで世界は救われたんじゃなかったの?」
アルフィリーナはシャワーを浴びながら記憶を探る、しかし肝心な所を思い出す事が出来ない。
「アルケミア……」
何故か涙が止まらない、思い出せるのは自分で魔王アルケミアを斬殺したという事実のみ。
具現化する剣も見たくない、温もりを遮る鎧も身につけたくない、そして『なんの役にも立たなかった回復魔法なんかいらない』
「それに、あのお姫様達は一体誰なんだろう……」
着替えを終えたアルフィリーナは、寝室に向かい言葉を無くす。
『あははははは! アルフィリーナ先輩、見つけましたよ、こんな所にいたんですね』
神父の服装をした優男風の男が、杖でポンポンと肩を叩きながら寝室に浮いていた。
「お前……何しに来た……私は私はああ!」
吐き気を催す邪悪! かつてアルフィリーナが誰よりも殺したいと思った相手が目の前にいる。歯を食いしばりすぎてアルフィリーナの唇は血を滴らせていた。
『おっと! 今日は挨拶に来ただけですよ、勇者の力が復活するまで探すのに苦労しましたけどね、あはははは!』
(神父アルダーク、全てはこいつが元凶だ、同じパーティにいながらも、パーティを全滅に追い込んだ! そして復活出来ないようにみんなを異次元に落とした……私はこいつだけは許さない!)
「みんなの無念を……思い知れ!」
魔王を手にかけた聖剣エクスカリバーを具現化! そして鎧、盾を具現化する!
アルフィリーナは我を忘れ、神父アルダークに切りかかる!
『相変わらず猪みたいな突進しか出来ない無能な勇者が、笑わせる!』
アルフィリーナは壁を突き破り、城から飛び出す、最上階だけあってかなりの高度、しかし、勇者アルフィリーナは空中で静止した。
「相変わらず逃げるのだけは上手いわね! でも、これならっ!」
アルフィリーナは詠唱を始める!
──母なる大地の精霊達よ、害なす悪の存在に大いなる呪縛を──
空中に大きな魔法陣が現れる、アルフィリーナは両手を高く掲げて叫んだ。
「プレッシャーオブ・ザ・グラビティソウル!」
『くっ! なんだこの魔法は……』
重力の呪縛がアルダークを包み込み、枷となる!
「あなたが殺した私の親友、カルディナの魔法よ、そのまま押しつぶされろ!」
『ぐ、がぁ……こ、こんなもの……』
身動きが取れないアルダークに迫るアルフィリーナ。
「皆に死んで侘びなさい! ステファンの必殺技……」
アルフィリーナの剣が十字をきると、強引な剣圧がアルダークを襲う!
「グランドクロス!」
『ぎゃああああああ!』
アルダークに致命のダメージを与える。
『リ……リカバリー!』
みずからの体に回復魔法をかけて耐えるアルダーク。
『くっくっく、なかなか……ぐはっ……やりますねぇ……』
「ステファンとカルディナの二人は……恋人同士だったのよ……それをあなたは……!」
とどめを刺そうと構えるアルフィリーナ。
『知っていたさ』
「だったら、何故!」
『くっくっく』
いつの間にか背後から聞こえる声。
『もともと僕は、お前達の甘々な仲間意識が気に食わなかった……それでも魔王を倒すまで我慢しようとはしたがな』
「くっ!」
アルダークの持つ拳銃が、三発火を噴く。
カンカンカン!
素早く剣でガードをしたが、残り三発、銃口はゆっくりとアルフィリーナに向けられた。
『魔王復活の日も近い、今日は挨拶に来ただけだ』
カンカン!
その後二発発射された弾を剣で弾く……
「くっ!」
二発目の弾が肩をかすめる。
『ふん、お前の能力も限界か?』
急激に能力に目覚めたアルフィリーナは、その反動でどんどん力を失って行くのがわかる、次に発射されたらかわすことは出来ないだろう。
銃口を見据えて、いつ発射されるか分からない弾丸を予測する。
しばらく緊張の沈黙が続いていたが、それを打ち消すかのように足音が近づいてきた。
「相変わらず汚い手を使うのね、アルダーク」
魔法使いカルディナだった。
「カルディナ! あなた何故……」
「私はステファンの仇を打つために、この城にやってきた」
『くっくっく、貴様が死ねぇぇえ!』
最後の弾丸は激しい火を吹き、カルディナの眉間に迫る。
「カルディナあああ!」
ーーオールレンジマルチプルディフェンス
すんでの所で弾丸からカルディナを守るセリーヌ。
「キャロットお! ダメだ! 耐えきれねえ!」
ーーインフィニテッドバースト!
光の速さでカルディナを弾道から遠ざけるキャロット、ギリギリ間に合う。
『くっくっく、また会おう』
「そんな簡単に逃がすとでも思うか?」
レジーナは背後からアルダークの首元に武甕雷(たけみかづち)を当てる。
『逃げるさ、かなうとも思えない』
レジーナが刺し貫こうとしたアルダークの体は、瞬間的に移動し、消え去る。レジーナの攻撃は、ただただ空を裂くのみだった。
「神父アルダークか……」
レジーナをよそに、カルディナは気絶しているアルフィリーナを抱き寄せる。
「アルフィリーナ……」
カルディナは魔法を詠唱すると、アルフィリーナの額を優しくなでる。
「まだ……目覚めてはならない、あなたの心はまだ……」
カルディナが詠唱を終えると、アルフィリーナの体から鎧と剣が消滅し、裸のアルフィリーナの姿に変わる。
カルディナはマントをかけてあげると、しばらくの間アルフィリーナを見つめていた。
「レジーナ姫……」
「ふむ、事情は分からんが、アルフィリーナの為ならばやむを得ないだろう、しかしそなたの言うとおり、このまま逃がして良かったのか?」
「アルフィリーナが勇者として目覚めない限り、あいつもこの世界では生きられない、次に目覚めた時は……」
「なるほどな、今度は私らでパーティを組んで戦わなくてはならない訳だ」
こくりとうなづくカルディナ。
しばらくアルフィリーナの頭を撫でていた。
(アルフィリーナの記憶を封印したのは私……ごめんなさい、私はまだ生きているの……)
涙を抑えきれないカルディナは、ついに声を荒らげて泣き出した。
ーー修道院
「ふぁ、なんだろう、頭がガンガンしますね」
全身の気だるさが抜けず、やたら肩がこっている。
「滝に打たれすぎて風邪でも引いたんじゃないですか? アルフィリーナ様」
スフィアの言うことも一理ある。
「レジーナ姫様が遊びに来てと、待ちわびていますよ、さあ、この聖堂衣に着替えて下さい!」
「はーい」
いつもと変わらない日常、でもなんか違和感を感じる日々。
アルフィリーナは首を傾げながら今日もレジーナ姫に会いに行くのであった。
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