絶体絶命の大勝負!

「エコエコアザラーク、エコエコザメラーク……」


 アルフィリーナは怪しげな儀式を始めていた。

 修道院にそぐわない不気味で巨大なツボに、トカゲの尻尾や怪しげな粉、その他もろもろ放り込み、ぐつぐつと煮込む。


 助手のスフィアは儀式の邪魔にならないよう、アルフィリーナを補佐する。


「エロイムエッサイム、我は求め訴えるなり!」


 ビシッとポーズを決めると光輝くツボ。


「おおお! アルフィリーナ様ああ!」


 奇跡を目の当たりにした村人たちは感動のあまりに号泣していた。


 こうして、リファールアルグレオ村に、謎の宗教団体が出来上がったのである。



ーーアルファン王国謁見の間



 アルフィリーナとスフィアは、レジーナ姫にグーで殴られ、しくしくと泣いていた。


「そなたらは馬鹿か! 調合の実演販売がきっかけで新興宗教を立ち上げたとか、今までの歴史で聞いた事がないぞ!」

「だって、スフィアちゃんが実演販売の方が薬が売れるっていうんですよ! 私はやりたくなかったのに、わああああん!」

「な、なっ! アルフィリーナ様、私のせいにしないでくださいよ! 結構ノリノリだったじゃ無いですか!」


 ギャーギャーと責任をなすりつけ合う二人。


「黙れ! 私は今回の件で非常に怒っているのだ! 原因はなんだ? 金か、金なのか!」


『金です(キッパリ)』


 あまりにも真顔で悪びれるわけでもなく二人が見つめてくるので、レジーナ姫は逆にたじろぐ……


 最初は借金をコツコツ返していたのだが『使えないメイド』のスフィアに、かなりの浪費癖があることが発覚、結局のところ全然借金が減らないのだ!


「この使えないメイド、引き取って下さい!」


 アルフィリーナはスフィアを差し出す。


「違います! 私はただアルフィリーナ様を喜ばせようと、新しいベッドや安眠枕、ジャグジーとかにお金をかけて!」


『それがダメだと言っとるんじゃ!』


 見事なまでにハモってしまう。


「あー、だいたい事情は分かった。金は私が支払おう、千万もあれば借金も返してお釣りが来るであろう?」


「……いえ、私はレジーナ姫が友達だと思うからこそお金だけは貰えません!」


「そうか……そう言われてしまうと私には何もできん。して、今後どうするつもりなのだ! 解決方がさっぱりわからん!」


 アルフィリーナはビシッとスフィアを指差す。


「このメイドを三百万ゴールドで売ります!」


「アルフィリーナ様ぁぁあああ!」


 スフィアはアルフィリーナに必死にしがみつくが、アルフィリーナは必死に振り払う!


 滑稽なやりとりが続く中、レジーナの影からひょこっと顔を出す魔法使いカルディナ。


 カツーン!


 魔法の杖に力を込めると、いきなり覚醒するのだった。


「貴様ら、レジーナ姫の手を煩わせるな! そんなに金を稼ぎたいのなら、城の兵士として奉公すれば稼げるだろうが!」


 普段おとなしいカルディナが怒るとものすごく怖い!


 そしてごもっともな意見。


 しかし、ふしゅるるると元に戻ったカルディナは、何事もなかったかのように子猫を追いかける。


「アルフィリーナやります!」


 ゴゴゴゴゴ! とやる気に満ち溢れたアルフィリーナは、借金返済の為、城の兵士として奉公する事になったのだった!



ーー訓練場



 武器を装備できないアルフィリーナは、内定を取り消された!



ーー謁見の間


「ええ、分かってましたよ! どうせこんな事になるだろうって思ってましたよ! わああああん!」


 城のmovにすらなれなかったアルフィリーナ。


「この村はリファールアルグレオ村ですと言うだけの簡単な仕事なんだがなぁ」


「私は鎧も武器も装備できないんです!」


「そうなると、定職に就くのもままならんか……」


 一応聖職者としての職には就いているのだが……


 カルディナはそっと職業安定所の地図を差し出す。


「……頑張って」


 頭を優しく撫でられたアルフィリーナは、職業安定所を目指して進撃した!



ーー職業安定所



 職業安定所は失業者でごった返していた。しかし職探しよりも失業保険を受け取ろうとやってくる者が多く、真剣に職探しをしている者は意外と少ない。


「この求人票見てみろよ! 残業十時間って書いてあるのに面接で百二十時間出来ないと採用しないとか言われたぞ!」

「私なんて日給一万ゴールドだから引き受けたのに規定があって週払いとか言われたんですよ! 日雇いと日払いは違うとか最初に説明してよね!」

「交通費と食事代だけで実質タダ働きだったぞ! 交通費よこせ!」


 正論を叩きつける無職の方々。


「結構な確率でブラックな企業があるんですね……」


 呟きながら『副業アルバイトコーナー』へと足を運んだ。


「やあお嬢さん、アルバイトをお探しかな?」


「はい! 副業としてやれる仕事が良いんですが……」


「そうか、君は見た目が美しく可愛いからこんなのはどうだろう?」


「ウェイトレスさんですか~時給1500ゴールドって結構高いですね!」


「うん、シフト制だから好きな時に入れるし、交通費も出るし、どうだろう?」


「これにします!」



ーー貧民街風俗店



 悪質なキャバクラだった。


「今日から入った新人のアルフィリーナ君だ、みんなよろしくな!」


「よろしくね!」


「は、はい! よろしくお願いします!」


 露出が少し多めなドレスが恥ずかしい。


「じゃあ、新人さんはナンバーワンのミルちゃんに研修してもらうから、すぐにヘルプについて!」

 

「は、はいっ!」


(ヘルプって『助けろ』って意味だった気がする)


「おー! ミルちゃん今日も可愛いねぇ!」


「いやだわ、お客様ってば……あら、新人のアルフィリーナちゃんじゃない、ヘルプ?」


「はいっ! 助けに来ました!」

「ふふふ、じゃあ、このお酒、盛り上げる為に全部飲んでね?」

「えええ! 私お酒なんて飲んだことないですよ!」

「まぁ、ヘルプも務まらないの? 全く使えない子ねぇ」


 ミルちゃんとお客様の冷酷な視線が絡みつく。


(なんだか無性にイライラしますねこの二人……しょうがない、あれやりますか!)


 アルフィリーナは酒をかき集めると、巨大なジョッキにどんどん注ぐ。


「まぁ、やるじゃない! 一気よ一気!」


 苛立ちのあまりに目が座ったアルフィリーナは、巨大ジョッキを両手で持つと、周りの客も注目する!


「いきますよ……」


 アルフィリーナはニヤリと笑みを浮かべて周りを見渡す。注目を集めた上での豪快な一気飲み、ジョッキからガブ飲みしていくアルフィリーナは美しく可愛いらしかった!


 ゴゴゴゴゴ!


『一気! 一気! 一気! 一気!」


(残り半分! このくらいならっ!)


 ゴゴゴゴゴ!


「ぷはぁ!」


 アルフィリーナは空になった巨大ジョッキをひっくり返すと、皆の拍手を煽る!


「やりやがった! あの子やべーよ!」

「よくみりゃすげー可愛いじゃん!」

「ヘルプってレベルじゃねーぞ!」


(ふっ……調合して回復薬にしたんですよ! さぁどうだ!)


「くっ……私の所はもういいから」

「そうですか じゃあ失礼しますね!」


 威風堂々と席を外し、待機所に戻ろうとした。


「アルフィリーナちゃん、ご指名です!」

「あら、私で良いんですか?」


 呼ばれた席に笑顔でついて、笑い話に付き合った。


「アルフィリーナちゃん休憩時間だよ!」


 休憩中に仲良くなった女の子達とわいわい盛り上がっていたら、ミルちゃんに呼び出されるアルフィリーナ。


「あんた……生意気よ! ちょっとお酒が強いだけでチヤホヤされちゃって!」

「そんな……」


 ミルちゃんはアルフィリーナをビシッと指差し宣言する。


「勝負よ! 今から閉店までの売り上げで、勝った方が負けた方になんでも言うことを聞いてもらうんだから!」

「ええー! な、なんでもですか?」

「そう! なんでもよ!」


 言い放つとミルちゃんは去っていく。


「ああ、言っておくけど、あんた負けたらオーナーの女になってもらうから!」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 意地でも負けられない勝負が開始された!


「ミルちゃんご指名です! シャンパン入りましたー!」


(ななな! いきなりシャンパン! こんなの勝てるわけないよ……)


「ミルちゃんご指名です! 団体様ご到着ー!」


(ええー! あんなに沢山の人が!)


「ミルちゃんご指名です! 石油王様ご到着ー!」


(うわ、ゴールドばらまいて歩いてるよ)


 これは仕組まれたレースだった。


 ぽつんと待機しているアルフィリーナを哀れむような目で見つめるミル。


(ふふふ、オーナーはかなりの変質者よ、今回あなたが入店してきた時点で、×××なアイテムや◯◯◯な衣装まで用意して、私を使ってこの勝負に引きづり込んだんだからねぇ)


 アルフィリーナは背筋がゾッとしていた。


(この勝負、負けられないです!)


 一旦店を出て客引きをするアルフィリーナ。


 残り時間は後一時間、売り上げの差は絶望的だった。


「あの子、可愛いから壊しちゃだめよ? 遊んだら私にちょうだいな」

「ぶ、ぶひ、ミルちゃん、おいらもう我慢できないお!」

「ふふふ、後一時間よ、それくらい待ちなさい……ふふふ、あーっはっはっは!」


 まだ早いが勝利の確信を得て余裕を見せるミル。


「客引きなんかで呼び込めるわけないじゃない、馬鹿なの? あの子は……」


 そう呟いた瞬間だった。


 バタン!


 アルフィリーナを庇いながら、ゆっくりと店内に歩みよってくる男が一人。


 フロアーの男が叫ぶ!


「アルフィリーナちゃんご指名です! 殺人犯到着しましたー!」


「俺は殺人犯じゃねぇ……」


 男はフロアーの男の胸ぐらを掴んで放りなげる。


「ふん! 汚え商売してやがる……」


 エターリア・フォルテスが参戦!


「お嬢ちゃんに話は聞いた……ミルとかいうナンバーワンに新人が勝てるわけないだろうが」

「や、約束は約束よ!」


 ミルは怖がりながらもフォルテスに言い返す!


「そうか……お前がミルか、ではこちらも約束通り、もしお前が負けたら、俺が自ら貴様を廃人に変えてやるぜ」


 珍しく怒りをあらわにするフォルテス、目に見えて殺気立ち、魔王の覇気をもはや抑えきれなかった!


「ミルちゃんに一体……な、何をするんです?」

「お嬢ちゃんは知らなくて良い……それより時間がない、テーブルに着くぞ!」

「は、はいっ!」


 テーブルについたフォルテスにおしぼりを渡して隣に座る。


「お嬢ちゃん……飲めるか?」

「いえ……でも複数のお酒を調合して回復薬に変えれば何杯でも!」

「なるほどな……見なお嬢ちゃん! この勝負、金をいくら使っても勝てるわけじゃないんだ、ミルとかいう女、一見すると勝っているように見えるが、もう飲んでねぇ、まだ追い上げるチャンスはある!」


 ミルのテーブルでは注文こそ多かったものの、無理矢理飲まされるヘルプ達にドン引き、客が注文をしていない!


「お嬢ちゃん……一番高い酒を持ってこい」


 恐る恐る『魔王殺しの十年モノ』と書かれた強いお酒を抱き抱えてくるアルフィリーナ。


「魔王はこんくらいじゃ死なねえよ!」


 一升瓶を一気に流し込むフォルテス。


「あ、まだ調合してないですよ!」

「構わん、どんどん持って来い! 生きるか死ぬかの大勝負なんだ!」

「はっ! はいっ!」


(時間がねぇ……)


 物凄い勢いで飲むフォルテスと、調合した回復薬をどんどん飲むアルフィリーナ。


 それを見てミルは叫ぶ!


「あんた達! もっとどんどん飲みなさいよ!」

「ミルちゃん怖いよ、私達だって頑張っているのになにさ! もう知らない!」

「あっちの方が面白そうだし、男の人かっこいいし、向こう行こうよ! べーだ!」


 ミルのテーブルについていた女の子達がアルフィリーナのテーブルに着く。


「お兄さんお兄さん! 私達も飲んで良い?」

「ああ、もちろんだ、好きな酒頼んで良いぞ、フルーツとかどんどん食べな!」


「わぁ、お兄さんやっさしー! 向こうなんて高い酒ばっかりだからつまんなくて」

「なになに? 好きなもの頼んで良いの? おーいみんなー! こっちおいでよー!」


 待機していた女の子達も集まって来た!


「フルーツ盛り合わせとパーティーポテト、あとはあとはー」


「ふっ……盛り上がって来やがる」

「フォルテスさん、かっこいいです!」


 フォルテスは笑いながらアルフィリーナの頭を撫でてやると、立ち上がって叫んだ!


「シャンパンタワー持って来い!」


 勝負は佳境に入り、もう少しで届く、そんな時だった。


「調合できるお酒がないです!」


「くっ、あとちょっとなんだがな……」


 電光掲示板に示された売り上げでは、あと一杯、後一杯飲み干せば勝てる所まで追い上げていた。


 アルフィリーナは覚醒する! 青白い勇者の闘気をまとい『勇者殺し』と書かれた酒を口に当てがう。


「勇者はこんなお酒じゃ、死なねえです!」


 グビグビグビグビグビグビグビグビ!


「お、おい、お嬢ちゃん……」


 グビグビグビグビグビグビグビグビ!


 いつ終わるかわからない終わりに向かって勇者は酒を飲む! どんどん飲む!


 ぷはぁ……


 飲み干したアルフィリーナは苦しさのあまりに倒れる。


 カンカンカンカン!


「勝負あり! この度の勝者は!」


(私に決まっているじゃない! ナンバーワンキャバ嬢を舐めるなぁ!)

(最後のお嬢ちゃんの気合いで覆したはず!)


「この度の勝者はああ!」


 ごくり


 両者緊張して電光掲示板を見つめる、勝者は一体……


「この度の勝者はこちらあああ!!」


 電光掲示板が点灯する!


「レジーナアルファン王女様御一行様!」


 ……へ?


「きゃはははは! みんな勝ったみたいだようちら! きゃはははは!」

「俺、こんな副業してるのバレたらみんなに笑われちゃうぜ……」

「セリーヌ、そなたの優勝だ! 胸を張ってよいぞ、新しい伝説の幕開けだ!」

「……美味しい……」


 なんと、キャバ嬢セリーヌと盗賊キャロット、レジーナ姫、魔法使いカルディナが、ダブルスコアーで勝利!


「しかしセリーヌよ、突然店に連れてくるとはな……少々驚いたぞ?」

「いや、だってさ、ムカつくミルがアルフィリーナちゃんと戦っているって聞いたら助けたくなるじゃんか!」


 閉店ギリギリに来て嵐のように注文しまくったのが勝因だった。


 酔ってふらふらになったアルフィリーナはレジーナ姫に近づく。


「はれ? レジーナちゃんらぁ……」

「お、おい! アルフィリーナ! やめろキスするな、むぐ!」

「うわぁ、アルフィリーナちゃん大人だなぁ……」


「えーへーへー」


(ふっ……今回は俺の出る幕じゃなかったようだな)


 ほっとしたフォルテスは、盛り上がっている皆を置き、勘定を済ませて去っていく。


「や、やめろぉ! むぐ! 服を脱がすな馬鹿もん! あ、そこは……やめてぇ……」

「カルディナも……混ぜて欲しい……」

「アルフィリーナちゃんって酔うとすごい大胆じゃん! きゃはははは!」


「さて、と」


 セリーヌはミルのもとに向かう。


「日頃馬鹿にしていた女の子に負けるってのはどんな気持ちだ? ナンバーワンのミルさんよお!」

「くっ……なにも言い返せないわ、私の負けよ! 好きにすれば良いじゃない!」

「そうかい! じゃあそうさせてもらうぜ!」


(翌日)



ーー謁見の間



「と、いうわけで今回は悪質なキャバクラの経営を正す事に成功したわけだが……」

 

 レジーナ姫は頬を赤らめてアルフィリーナを見つめる。


「へ? どうかしましたか? レジーナちゃん」


(わ、私のファーストキスが……しかも覚えていないし、女の子だし……)


「あれ? 覚えてないの? アルフィリーナちゃんレジーナちゃんと……むぐむぐ!」


 レジーナは慌ててキャロットの口を塞ぐ。


(一言でも言ってみろ……私はお前を……コロス!)


 暗殺者としての本能がそうさせる、こいつを殺せと!


(わ、わかったよレジーナちゃん!)


「こほん、アルフィリーナよ、またしてもそなたの活躍で村の治安が良くなった、ミルという嬢も、生まれ変わったように反省して後輩の育成に力を入れているそうだ」

「それは良かったです!」

「フォルテスという者も姿を消してしまったが、今回の件でお礼を言っておいてもらえると嬉しい、以上だ!」


 こうして今回の事件は解決したのだが……『アルフィリーナにお酒を飲ませるのは禁止』という謎のおふれが配布され、レジーナはしくしくと涙するのであった。

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