元魔王様の休日
魔王であるエターリア・フォルテスは、
空は青くどこまでも続いているようで、ぽかぽかとした日差しは
これが魔界の場合、紫色の空に黒い雲が広がっていてなかなか不気味なのだが、この世界の空はそれとは違い、本当に美しく感じられる。
『コミュニケーションの取り方
これをマスターすれば、どうやら普通に会話を楽しむ事ができるものらしい。ちなみに修道院へ顔を出した
「なになに……第一印象を良くするために重要なのは
本にはアルフィリーナの文字で『がんばです!』と書いてある。
「ふっ……」
(
魔王として生活していると、
(そういえば
当時のアルフィリーナの笑顔を思い浮かべ、思わず
「あんたの言う通り……平和な世の中というのも、なかなか悪くはないな……」
なんだかんだでフォルテスも、この村での生活が気に入っていた。
ふと、近くで遊んでいる子供達のボールがこちらに飛んできた。本を置きボールを取ってやると、子供達に返す。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「ああ……」
しかしどうしたものか、持って生まれた魔王の
そして子供の目を見つめるフォルテス。
しかしその
「うわあああん!」
遠ざかる子供達を
(
『こんにちは』と
ーーギルドホール
フォルテスはギルドホールの受付カウンターに腰をかけると、
ちなみに『遊び人』として登録しているフォルテスは、誰に誘われる事もなくいつも
村に被害が出そうなものだけを選択して
勇者が『力の存在』とすれば、魔王は『知の存在』と言われるほど魔法に
だがフォルテスは殴るのや
殴った瞬間爆発で吹っ飛ばしたり、
まぁ、よっぽどの事がない限り、普通に格闘のみでクエストをこなす
そんなフォルテスに受付
「あら、フォルテスさんじゃない、珍しいわね、今日はどうしたんです?」
「ちょっと……な」
笑顔で話しかけてくれるニーナに対してもやはり会話が続かない、人間界に来てから『コミュ
受付
「すまないな……」
しかし、ニーナはその言葉に優しく笑顔で返してくれた。
フォルテスはタバコに火をつけつつ、
(ん?)
「会話の基本は相手の目を見つめる事。相手の目を見て相手の話に
カウンター
「あ、あの……どうしたんですか?」
「気にするな……会話の続きだ」
これには
「そ、そうだ! クエストがありますよ! 近くのダンジョンにゴブリンがわいたとか!」
「……そうか」
「ひ、一人じゃ
「……そうだな」
(なるほど、なかなか良い感じだな、会話が勝手に進んでいくようだ)
「じゃ、じゃあ! クエストの
「……ああ、わかった」
ーー近くのダンジョン
気づいたら
「……どういう事だ?」
思わず首を
フォルテスは
「ただし、
やれやれといったそぶりをみせるが、
フォルテスはダンジョンに
ゴブリンというモンスターは非常に
通常なら
しかし、フォルテスは本を読みながらそれぞれのゴブリンが
格闘を得意とするフォルテスは、敵の間合いを
「なになに、ダンジョンでは他の冒険者に
フォルテスは右手で本を読みながら左手でゴブリンを壁に
トラップが作動し、無数の矢が飛んでくるが、フォルテスは一本
落とし穴のトラップが作動する。
フォルテスは穴など存在しないかのように
巨大な岩が転がって来たが、ぶつかった瞬間
宝箱を見つけると、ミミックの方から逃げて行った。
なんだかんだで一般的には非常に難易度の高いダンジョンなのだが、フォルテスには大した事はないのである。
「ふむ、この先が行き止まりのようだな」
さらなる無数の
到着した
「結構多いな……(話す相手が)」
『ふはははは! よくぞここまで来たな冒険者よ、
「なかなか手こずりそうだ……(会話に)」
『一対一の戦いを望むなら、相手を指名しても良いぞ? がははは!』
「それは助かるな……(主に会話が)」
フォルテスは本を
(大した強さではないが、一番よく
フォルテスはゴブリンロードをゆっくりと
(よく
『ふははは!
「なかなか
『ほざくな!
ゴブリンロードの
「ふんっ!」
フォルテスの
『ぐはっ!』
飛び
「……」
『死ねええ!』
「ファイヤーボルト!」
ゼロ距離魔法を大爆発させて、
「失敗だ、
ゴブリンナイトが
『なかなか見どころがある、
「そうか……」
(こういう
二刀の
「くっ……!」
フォルテスは両手をクロスして受けると、少し後方に押し出された。
『か
「俺の体はちょっと
血の
その
カンカンカンカン!
フォルテスのさばきによる
フォルテスは回転しながら一手、また一手と、
右手の剣がフォルテスの
『人間よ、そろそろ
とどめの一撃を振りかぶり、フォルテスに襲いかかる。
!?
あまりにも速い剣撃は、フォルテスを
……かのように見えた。
「おいおい、さっきから誰と戦っているんだ?」
背後から聞こえるフォルテスの声。
!?
「
『い、いつの間に!』
「……
フォルテスの手が背中に
『ば、ばかなっ!』
ゴブリンキングは驚きを隠せなかった。
「さぁ、あんたが最後だぜ……いや『あんたの最期だぜ』という方が合っているかもな」
『お、面白い、この俺様
ゴブリンキングは
「おいおい、お前
『
「そうか……」
フォルテスは人には
『
ゴブリンキングの言うように、この世に呼び出せる魔族の数は限られている。これ以上の存在を呼び出すとしたら神か天使か……実際のところフォルテスは少し迷っている。
!?
(この世に……呼び出す?)
しかし、吹っ切れたようにフォルテスは
「
地面に魔法陣が現れたかと思うと、デーモンとオークキングが吸い込まれていく。
「な! なぜだ! 俺様の体があああ!」
「
フォルテスはこの世のデーモンとゴブリンキング、ついでにゴブリンロードとゴブリンナイトを
魔界から魔物を呼び出す事ができる
「今ごろ
フォルテスは、いじめられていた女の子冒険者達の前に行くと、回復薬を手渡す。
「
「いえ、全員
『ありがとうございます!』
フォルテスは
(ありがとうございますは、最大級の
「そういえば、ボールを拾ってやった子供も、ありがとうと言っていた気がする」
『以上、初級者のコミュニケーションは達成しました、お疲れさまです』
本は光り
「おい、ちょっとまて、ありがとうと言われたら、俺はなんて答えれば良いんだ!」
『どういたしまして』
!?
アルフィリーナの
「どういたしまして……か」
フォルテスは女の子達を
(……気のせいか、
フォルテスはゆっくりとダンジョンを戻って行った。
ーー修道院
『修道院では
と、書かれた募金箱に、今回
「……」
(何やってるんだろうな、俺は)
目を
『魔王とか勇者なんて関係ありません! 傷つき倒れている者を救うなんて、当たり前の事じゃないですか!』
!?
(まただ……勇者アルフィリーナを思い出すと、右目が
『あっれー? 勇者が魔王を
(ヤメロ……やめろおおお!)
『あはははははははははははははは!!』
光り輝く右目を押さえ、よたよたと修道院の壁にもたれかかるフォルテス。
「……おさまった……か?」
(アルフィリーナ以外に誰かがいた……俺はその事をまだ思い出せない……)
ふらふらとふらつきながら、その場を立ち去ろうとするが、うまく歩けない。
「あれー? フォルテスさんじゃないですか!」
「ああ……」
(やばいな、お嬢ちゃんに見つかったか)
「すごいですね! さっきニーナさんに聞きましたけど、ゴブリンの討伐で女の子冒険者さん達を助けたらしいじゃないですか!」
「ああ……たまたま、だなあれは」
「そんなことないですよ! すごいです!」
「ああ、ありがとう」
心地よく優しい時間が、しばらくの間続く。
例えそれが元勇者と元魔王のものだとしても、その大切な時間を取り払う事は、誰にも出来ない……
「ところでお嬢ちゃん、お金はできたのかい?」
「いえ……ごめんなさい、まだまだ足りなくて、でも! 私頑張りますっ!」
「そうか……まぁ、大金だからな、
「フォルテスさん……」
(いつかきっと俺もアルフィリーナも過去を思い出す時が来るだろう、その時俺は俺でいられるのか……それはわからないが、俺は今後アルフィリーナを守ってやろうと思う、今の俺が出来る事、それはこいつに関わり続ける事……)
「あ、そうそう!
「そ、それをフォルテスさんが言うんですか?! 優しい人だと思っていたのに!」
アルフィリーナはぽかぽかと
!?
『私があなたを、殺せる訳がないじゃないですか! それに約束は……約束は!』
『俺は、いずれ復活する。お前が手に持つその剣を貸せ、俺を滅ぼしたのは勇者であるお前でないとダメなんだ……』
勇者の剣は
『また会おう……アルフィリーナ……』
『いやあああああああああああああ!!』
遠い目で過去を思い出すフォルテス。
(ふっ……)
「ははは……まぁ気長にな、ちょくちょく遊びにでもやってくるさ、じゃあなお嬢ちゃん!」
こうして魔王アルケミア、もといエターリア・フォルテスは、アルフィリーナに後ろ手で手を振ると、笑いながら去っていくのであった。
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