第18話 6月の雨

(1)


6月と言えば梅雨。

梅雨と言えば雨。

雨が降るとどこにも出かけることが出来ない。

厳密にいうと出かける気が起きない。

学校に行く気すら起きない。

とは、言っておられず……。


「冬夜君おはよう!」


梅雨とか関係なく、愛莉は元気だ。

あの晩以降かもしれないけど、急に明るくなった。


「おはよう……うーん、今日も雨か」


雨に打たれる窓を見ながら、ぼやく。


「雨もいつかは止むんだよ!ほれ、起きる起きる!!」

「わかったから……」


そう言って僕は手で愛莉に外で待つよう促す。


「は~い」


そう言って下へ降りていく愛莉。

もそもそと着替えて降りるといつもの3人がいた。

雨が降っていると朝練が無いらしい。

誠もいる。


「相変わらず朝弱いんだなぁ」


そう言って誠はコーヒーをすすっている。


「お前らが朝から元気すぎんだよ……」


そう言いながら自分の席に着き朝食を食べる。


「冬夜もサッカー続けてたらそうならなかったろうにな」

「受験があるから部活はやるなって言ったのは父さんだろ?」


朝食を食べ終わると、洗面所に向かう。


「トーヤサッカーやってたんですか?」

「うん、小5の時から2年だけね。中学に入ってから止めちゃったけど、今思うと勿体ない気がするのよねえ」

「多田君と良いコンビだったもんね」

「あいつほど正確なパスできるのは今でもいませんよ」


5人が盛り上がってる中準備をすませる。

僕がリビングにもどると3人は立つ。


「それじゃ行こっか」



雨の中、当然皆傘をさしている。

当然一人が占める道幅は広がるわけで。

手を繋ぎながら歩くなんてことは傘が邪魔してできない。

で、前方の二人、カンナと誠は、誠が傘を差しカンナが腕にしがみつき相合傘で登校している。

当然周りの注目を浴びる。

そんなことはどこ吹く風のカンナ達だった。

ふと右隣にいる愛莉の視線に気がつく。

上目遣いで何かを訴えているようだ。


「……したいのか?」


僕がそう言うと、にっこり笑って頷く。


「……ほれ」


そう言って傘を右手に持ち替える。

すると愛莉は自分の傘をたたみ、僕の右腕にくっつく。

くっつきすぎだろ……。


「おい、もうちょっと端いけよ……」

「だって濡れちゃうも~ん」


僕の肩はずぶぬれだった。

まあ、喜んでるしいいか。

周囲の目線が気になったが、開き直るしかないよな?



(2)


翌日僕は風邪を引いた。

理由は言うまでもない……。

半分以上濡れてた上に昨日は冷えたから。


「冬夜君おっはよ~」

「……おはよ」


鼻水を垂らしながら答えた。

熱っぽい。

頭がぼーっとする。


「やだ、風邪ひいたの?」


愛莉が自分の額を僕の額にくっつけてくる。


「うわ、熱あるじゃない!体温計った?」

「……今起きたばっかりだよ」

「昨日ちゃんと暖かい格好して寝た」

「……見ての通りだよ」


上は半そでのTシャツだった。


「ちょっと麻耶さんに言ってくるね」


そう言って愛莉は部屋を出て行った。



「あら、風邪かしら?今日は休んだ方が良いわね」

「大丈夫だよこのくらい……ゲホゲホ!」


僕は起き上がろうとする。

すると愛莉が押さえつけた。


「寝てなきゃダメ!風邪は引きはじめが肝心なんだよ!」

「風邪くらいで学校休めないだろ……」

「ダメよ」

「だめ!」


こうして僕は今日休むことになった。

午前中に僕は病院に連れていかれ、注射を打って、薬をもらい帰ってきた。

昼まで寝ていた。

注射が効いたのか、熱は下がってきた。

だいぶ楽になった。

こうなると午前中暇になる。

今日も雨が降っていた。

僕はゲームをしていた。

熱がある時にゲームなんてするもんじゃない。

すぐに熱が上がってまたベッドに戻される。

しかし暇だ。

漫画を取って読んでいた。



ガチャ

母さんかな?

その予想は外れた。

愛莉だった。


「病院行った?」

「行ったよ。やっぱりただの風邪だって」

「ごめんね、わたしのせいだよね」


今にも泣き出しそうな声だ。

自分の体の弱さを呪う。


「違うよ、だって誠は風邪ひかなかったろ?」

「そうだけど……」

「気にするな、こう見えて結構楽しかったし」

「うん……」


そう言うと愛莉は鞄から荷物を取り出す。


「これ、今日の授業の写しと……あとお見舞い」


学校近くのコンビニで買ったティラミスだ、


「お、サンキュー」


早速食べる。美味しい。


「うん、上手い!」

「良かった!」


ガチャッ


またドアが開いた。


「よぉ~風邪とはだらしねーなー」


カンナだ。

誠は部活があるらしい。

フィジカル面の強化らしい。


「ほれ、これお見舞い」


栄養ドリンクとカスタードプリンだった。


「じゃ、私はこれで」

「え、神奈もう少しいようよ」

「いやあ、二人でゆっくりしてなよ」


そう言うと部屋を出て行った。



僕は漫画を読み、愛莉は単語帳を見ていた。


「あ、そろそろ帰らなきゃ」


時計は6時を指していた。


「じゃあ、お大事にね」

「ああ、ありがとな」

「早く元気になってね」


そう言うと愛莉は部屋を出た。



7時過ぎ。

ご飯を食べて、部屋で休んでいた。


コンコン

誰かがノックする。

誰だろ?


カンナと誠だ。


「よぉ!」

「冬夜!大丈夫か!?」

「ただの風邪だよ。平気だよ」

「風邪を甘く見るなよ、こじらせたら大変だぞ」


カンナが言う。


「神奈さんの言う通りだぞ。今日は安静にしてろよ」

「わかってるよ」


カンナは、この前の漫画の続きを探している。

誠はカンナに気づかれないように耳打ちする。


「神奈さん、ああ見えて心配してたんだぜ」

「そうなのか?」

「ああ、顔色悪くしてたから、じゃあ見舞いに行こうって無理やり連れてきたんだ」

「……そうか。悪いな」

「気にするな、お前の為じゃない。神奈さんの為だから」

「な~に、こそこそ話してんだよ」


カンナが、話に割って入ってきた。


「別になんでもないよ」

「そうか?」

「神奈さん、俺先に帰るからゆっくりしててよ」


カンナが「えっ!」と言いたげな顔をする。


「ご飯食べてないんだ。腹減ってさ。先に帰るよ」

「じゃあ私も帰るよ、晩御飯食ってないし」

「いや、神奈さんは……」

「……二人で帰ればいいじゃないか」


僕が間に入った。


「いや、でも……」

「誠も余計な気を遣うなよ。カンナはお前の彼女だろ?責任もって送って行けよ」


僕がそういうとカンナの気に障ったらしい。


「トーヤもそう言ってるんだし帰ろうぜ!」


やや不機嫌だった。


「冬夜、そう言う言い方ないだろ?神奈さんは……」

「良いから早く!」


最後は誠が折れた。


「じゃあ冬夜また明日な」


誠がそう言って二人は部屋を出た。

僕は何をイラついてるんだろう?


(3)


「良かったの?神奈さん」


トーヤの家を出た後に誠が聞いてくる。


「迷惑みたいだったからな、にしてもあんな言い方ないよな!折角見舞いに行ってやったのに」


そう言うしかないと思った。

誠はじっと聞いている。


「誠も余計な気を使うなよ!あいつはああいう奴なんだから」

「それは誰に言ってるの?」

「え?だから誠に……話聞いてたか?」


私は笑ってみせた。


「僕には神奈さん自身に言い聞かせてるように聞こえたけど」

「え?」

「最近無理して冬夜を遠ざけてるように見えるんだけど……」

「気のせいだよ」

「そう?」

「しつこいぞ!」


いらつく。

勝手に決めつけんな。


「気を悪くしたらごめん。でも……」

「もうこの話はやめようぜ!」


トーヤの話になると妙にいらつく。

トーヤが愛莉と仲良くしてるといらつく。

トーヤのことになると何でこんなに胸が苦しいんだ。

私の家に着いた。


「じゃあ、また明日。メッセージ送るよ」

「おう!じゃあまたな」


そう言って家に入る。

部屋にはいると鞄を投げつけてた。

何でこんなにイラついてんだよ。

何でこんなに胸が苦しいんだ。

自分の気持ちが分からない。

それが余計にイライラを募らせる。


ぴろりーん


誠からメッセージだ。


「さっきはごめん。じゃあ、おやすみなさい」


誠は良い奴だ。

優しくてかっこよくて頭よくて。

言うことないじゃないか!?

なのになんでこんなにトーヤの事が気になるんだ。


寂しい……


気がつくと私は泣いていた。

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