第19話 夏が来る
(1)
7月に入るとやることが二つある。
一つは期末テスト。
もう一つは……
「おーい冬夜!いったぞー!」
「あいよ」
トーヤは飛んできたボールを蹴る。
そのボールは誠に向かって飛んでいく。
誠は胸でトラップするとゴールにむかってドリブルする。
クラスマッチ。
体育系、文科系の各競技のポイントで優劣をつける対抗戦みたいなもの。
私はバレー、愛莉はオセロをやっていた。
試合の合間にサッカーに出てる、誠とトーヤを応援に来てた。
誠は水を得た魚のように動き回っている。
流石サッカー部のエース。
サッカーに疎い私でも目立って見えた。
彼氏びいきといわれたらそれまでかもしれないけど。
それに引き換えトーヤは……
「あいつ全然動かないじゃん」
そう、センターラインを越えることなく自陣でボーっとしている。
「冬夜君はあれでいいの」
愛莉はニコニコしながら言ってる。
あいつサボりたがりだからサボってるだけじゃないのか?
「よく見てたら分かるよ」
愛莉が言うので見てみた。
中学生のクラスマッチだ、サッカーなんて専門的知識があるわけがない。
所謂縦ポンサッカーを繰り返してるだけ様に見えるのだが。
うちのクラスの陣に来たボールは全部冬夜が返してるように見える。
しかもファーストタッチで返してる。
誠をいつ見てるのか分からないけど返したボールは全部誠に返っている。
「狙ってるのか?」
「気づいた?」
愛莉は嬉しそうだ。
「小学校の時にサッカーやってたって言ってたでしょ?その時からああなのよ」
「あんなにうまいならもっと前に行けばいいのに」
「出る時は出るよ。あ、出た」
愛莉が指さす。
確かにトーヤがセンターラインを初めて超えた。
それに気がついた誠が素早く右サイドにパスを出す。
トーヤはそれを下を向いたままファーストタッチでクロスを上げた。
……かのように見えたボールは相手ゴールポストの左上隅の内側に当り跳ね返ってネットを揺らす。
「ナイス冬夜!」
ガッツポーズをする誠とは対照的に何も言わずに自陣に戻るトーヤだった。
ドリブルで侵入してもパスをことごとく読みファーストタッチで誠にパスを送る。
「トーヤにも特技があったんだな……」
「サッカー止めたの勿体ないって意味わかったでしょ!」
愛莉は自分の事のように喜んでる。
褒めてやるくらいしてもいいかな。
その後もずっとトーヤを見ていた。
あんな調子じゃ誰も警戒しないよな。
その後も一方的な試合展開になりうちのクラスが勝った。
後の試合は観てないけど、全勝らしい。
オセロも愛莉が全勝。
他の対戦がしっかりしてたらうちのクラスが首位で終わっただろう。
(2)
翌日の朝。
「おはよう冬夜君」
今日は素直に愛莉のキスを受け入れた。
体が動かない、筋肉痛だ。
久々に動いたからなぁ……。
「大丈夫?」
「……なんとか。先降りてて」
愛莉は頷くと部屋を出て行った。
腕を上げると痛い。
足もだ。
痛みをこらえて、着替えると下に降りる。
階段を下りるのも辛い。
ダイニングにはカンナと愛莉が待っている。
「おっす!」
カンナは普通に挨拶する。
「おはよ」
返事を返すと席に座りご飯を食べる。
「だらしないなぁ2日動いただけでその体たらくかよ」
「仕方ないだろ。体動かしたの久しぶりなんだから」
「じじいか、お前は」
「うるさい」
その後、洗面所に行って準備をする。
「全く普段運動しないから」
「でも久しぶりの割にはすごかったですよ、昔と変わらないくらい」
「昔はもっとすごかったのか?」
「そりゃいつも地元大会でトロフィー総なめしてたんだもん」
「そんなにすごかったのか。ま、納得できるな……あれなら」
「大したことじゃないよ。ほら準備出来たぞ」
僕が戻るとカンナは急いでコーヒーを飲み干す。
「じゃ、行くか」
もう皆夏服だった。
女子が夏服を着ると色付きの下着が透けて見える。
「あいつ、今日のブラ何色だぜ!」
とか友達と騒いでたっけ?
愛莉に聞いてみると笑い出し、セーラ服をめくった。
タンクトップだった。
赤面する僕を見て更に笑ってたっけ?
そんなこと考えて歩いてた。
珍しく登校中は僕の話題が中心だった。
「何でサッカーやめたんだ?」
「受験があるから部活は止めとけって言われたんだよ」
「サッカーで飯食って行けんじゃね?」
「そんなに甘いもんじゃないよ」
「でもお前のプレイ凄かったぞ。……やる気はなさそうだったけど」
「ねえねえ、どうしてあんなに正確にキックできるの?」
愛莉の質問に、少し考えてから答えた。
「壁蹴り……の成果かな?」
「壁蹴り?」
「小学校の法面あったろ?あそこにボール蹴ってたんだよ。そしたらさ、斜面になってるし凸凹だからどこに飛んでいくかわかんないだろ?それで一点だけを狙って自分が動かなくても蹴り返せる場所探してたんだよ」
「すごい……」
「パス練してくれる相手いなかったからな。最初はゴールポストでやってたんだけど、邪魔って言われて仕方なくな」
「ぼっちだったのか?」
「まあな……」
僕は肩をすくめてみせた。
「で、監督の話聞きながら壁打ちしてたら誠が寄ってきてさ『パス練の相手してくれよ』って頼んできてさ。仕方なしにやったんだ。それを監督に見られてさ」
「起用されたんだ?」
「ああ、最初はトップ下を勧められたんだけど、動き回るの面倒だなって。で、DFにしてくれって頼んだんだよ。そしたらリベロな!って言われてさ」
「ふーん、めんどくさがり屋は相変わらずだったんだな。そもそも何でサッカー始めたんだ?」
「誠に勧められてかな?」
「断ればよかったのに」
「そうだな……」
そう言われたらそうだ。なんで受けたんだろ?
「それより、カンナ大丈夫か?期末テスト今週末だぞ?」
「もう大丈夫だよ。毎日ばっちり勉強してるしな」
授業中寝てるのさえ直ればもっと点とれるのに。
「神奈がんばってね」
「おうよ!」
ガッツポーズするカンナ。
期末テスト。
僕の出来はいつも通りだった。
カンナは上出来だったらしい。
まあ、カンナの言うことだし……。
愛莉も今回は納得できる出来だったらしい。
誠は何時も大体僕と同じくらいだ。
そして翌週。
結果が張り出される。
1位は愛莉だった。
僕も50位以内と中々健闘してみせた。
どよめきが起きる。
原因はカンナだった。
カンナの成績が中間くらいにあったのだ。
カンナと愛莉が抱き合って喜ぶ。
「これなら防府いけるね!」
「そうか!いけるのか!」
それを蔭から悔しそうに見つめる佐伯さんと仲摩がいた。
「よかったなカンナ」
「ああ、二人のお蔭だよ。愛莉も、私が足引っ張ってなくてよかったよ!」
「そんなことあるわけないじゃない!」
そうして1学期の行事は大体終わった。
誠たちは県予選に向けての練習がはじまっているが。
終業式。
通知表をもらう。
悪くはない。
愛莉もいつも通りだ。
カンナも余程良かったんだろう、大喜びして愛莉と抱き合ってた。
「愛莉は夏休みは旅行か?」
「うーん、盆にお父さんの実家に帰るくらいかな」
「そうか」
「神奈は?」
「特に予定なし」
「冬夜君は?」
「俺も特に予定ないかな?」
「そっかぁ……、私も家に残ろうかな?」
「え?」
「なんでそうなるんだよ!?」
僕とカンナは一斉に愛莉を見る。
「だって、夏休みと言えばプール行ったり山に行ったり海に行ったりお祭りに行ったり……楽しい事目白押しじゃない」
「盆くらい家族とすごせよ」
「それに……神奈は誠君といっしょでしょ?冬夜君寂しくないの?」
「大丈夫だよ!」
子供じゃないんだから。
「俺の事なら心配しなくていいから、いつも一緒にいて親もたまには家族でどこか行きたいだろ?多分うちもそうだと思うし行きなよ」
「うーん……」
まさかこの事が現実になるとは、この時知る由もなかった。
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