第9話 歓迎会

(1)


日曜日、地元にあるショッピングモールは人でたくさんだった。

僕は自転車でショッピングモールに向かう。

待ち合わせは広場で。

他の2人も自転車できていた。

先を越されたのはいつもの事だが。

朝起きたら9時半。

待ち合わせは10時。

間に合わないだろ。

家からショッピングモールまで大体20分くらいかかる。

朝の仕度をしていたら、あっという間だ。


「ったくおせーなぁ」


カンナが開口一番文句を言う。

私服はスカートじゃないんだなと思った。

ジーンズのショートパンツにショルダーブラウスを着て下にはタンクトップを着ていた。

やっぱり将来モデルになるんじゃないかといった体形だった。


「おはよう、遅刻だよ、冬夜君」


愛莉は笑っているが、やんわりと注意された。

まあ、愛莉とはよく遊びに行ってるが、大体いつも遅刻する。

酷いときは2時間待たせたことがある。

その時はさすがに一日中不機嫌だったが。

愛莉はワンピースにカーディガンと割と清楚な格好だった。


いずれにしろ可愛い。


因みに僕はTシャツの上にデニムシャツを羽織り、7分丈のパンツをはいていた。

二人は道行く人の視線を集め、僕は影薄くなっていた。


「で、どこ行くんだ?」

「冬夜君、ちゃんと考えてきた?」





実は愛莉に昨夜電話を受けていた。


「明日行くとこ考えておいてね?」

「え?ショッピングモール行くんだろ?」

「だから、どこで遊ぶか考えておいてって」

「いつも通り映画観てゲーセンでいいんじゃね?」

「映画何見るの?」

「カンナどんなのが好きなんだろ?」


愛莉といくときはだいたい愛莉が見たいのを見る。

今回はカンナの歓迎会っていうくらいだからカンナの見たいのを選べばいいんじゃないか?


「もう少し真面目に考えなさい!」


と、注意された。


「じゃあ、どこがいいんだよ?」

「それを考えるのが冬夜君の役割だよ。じゃあ考えておいてね」


と、言われ、電話は切れた。

その後カンナに聞こうとしたらメッセで「神奈に聞くのは無しだからね」と釘を刺された。




てな、わけで取りあえず考えてきたんだけど……。


「とりあえず隣のボーリングにでも……」

「折角だから店見て回ろうぜ!私ここ来るの初めてなんだよねえ」


考えるだけ無駄だった。



「お、愛莉こんな服どうだ?」

「ええ、私そんなスタイル良くないし」

「そんなことねーよ、意外と胸あんじゃん?こういう服着てとーやを誘惑してやれよ」


とか。


「これはちょっと派手過ぎるよ。りえちゃんに怒られちゃう」


りえちゃんとは、愛莉の母親の事だ。

うちの母さんと言い、愛莉は下の名前で呼ぶことが多い。


「馬鹿、こういう下着もってないとトーヤといざってとき困るぞ」

「そんなことあり得ないから。まだ中学生だよ」

「だから、わかんねーって。トーヤだってもう13だぜ。トーヤも良いと思うよなぁ!?」


女子の下着売り場で大声で呼ばれても困る。

周りの女の子の冷たい視線を浴びながら僕は耐えていた。


「へぇ、これ可愛いじゃん」

「あ、本当だね」

「しかし何でもそろってんだな。ここ」

「東京にはないの?」

「あるんだけど、大体個々の店で買っちゃうかな遠いしな」

「ふーん」


とか話しながら雑貨屋3件回っていた。


「おーいトーヤ。こっちこいよ」

「なんだよ」

「これとか似合ってんじゃね?」


僕にまで振ってくるか。

カンナは僕に服をあててみる。


「なあ、愛莉。似合ってると思わね?」

「そうだね、冬夜君こういう服も買ってみたら?」

「サイズはいくつだよトーヤ」


なんか買うことが決定したらしい。

言われるがままに買わされた。

女子に服を選んでもらうってうらやまなのかもしれないが。


「光栄に思えよトーヤ」


まあ、悪くないのかもしれない。



「いい加減腹減ったなぁ。飯にしようぜ」


もう2時間も経っていたんだな。

普通にハンバーガーショップで食事をした。

店は混雑していた。

そう言う時間帯だから仕方ない。


「で、昼からはどうするんだ?」


オレンジジュースを飲みながらカンナが聞いてきた。

ショッピングモールは大方見つくした。

後考え着くのはボーリングかカラオケくらいだ。

距離を考えるとボーリングなのだが……。


「ゲーセン行こうぜ!」


と、カンナ。

決まっているなら聞くなよ……。


「その前に本屋よってもいいかな?ちょっと欲しい本があるの」


と、愛莉。

もう勝手にしてくれ。



(2)


ゲームセンター。

アミューズメント施設とも言われる。

文字通りアーケードゲームやクレーンゲーム、スポーツゲームや、プリクラ等がある。

実はあまり好きじゃなかった。

対戦ゲームは弱いし、クレーンゲームは下手だし、音ゲーもリズム感ないから無理。

ていうか最近の音ゲー難しすぎ。

カードゲーム等もあるが、お金の無駄だと考えている。

と、いうわけでやることがない。

ジュースを買って椅子に座って、他の人がゲームするのを眺めていた。

すると必ず聞こえてくるんだ。


「おーい冬夜君。プリ撮ろ?」


偶に愛莉とデートに来ては必ず撮らされるプリ。

何でそんなに撮りたがるのか僕には不思議だった。


「なんでそんなところでのんびりしてんだよ。じじいかお前は」


そう言って腕を引っ張るカンナ。

3人で何種類かのプリを撮った。

まず、僕と愛莉。そして3人で、次に愛莉とカンナ。最後に……カンナと僕。


「いいのか?」


カンナが愛莉に聞く。


「今日は特別だよ」


そう言って笑う愛莉。

目が笑ってなかったが。


「じゃ、撮ろうか」


そう言ってプリ機の中にはいるカンナと僕。

慣れた手つきで操作するカンナ。

その間、画面に映る僕とカンナを見て思う。


絶対不釣り合いだよなぁ。


「なにぼーっとしてんだよ。ほら撮るぞ」


そう言って体を密着させてくるカンナ。


「そ、そんなにくっつくなよ」

「しょうがねーだろ。フレームに入らないんだよ」


一々照れてるんじゃねーと視線はカメラに向けたまま話すカンナ。

ちらりとカンナを見る。

化粧してるのか上気してるのかほのかに頬が赤い。

見とれてる時に……。

パシャッ!

しまった!

完成した画像を見てカンナが起こる。


「どこみてんだよ!しっかりしろよ!!」

「ちょっと離して!」


それはほぼ同時だった。


外から愛莉の悲鳴が聞こえる。


「後やっとくからトーヤ見て来いよ」


と、カンナが言うので、外に出る。

するとなんでか浦島がいた。

よれよれのシャツと破れたズボン姿。

このエリアは男性のみの入場は禁止のはずだが。

愛莉をみつけてやってきたらしい。


「なんだ、片桐かよ」


僕を見つけた浦島は吐き捨てるようにいった。


「何してんだよ、浦島」


俺は浦島に問いただす。


「なんでもねーよ、ただ遠坂さんとプリ撮るんだよ」

「勝手に決めつけないで」

「愛莉嫌がってるだろ。手を離せよ」

「うるさいな、僕と遠坂さんが話してるんだから口出しすんなよ、だいたいお前こそ誰とプリ撮ってたんだよ」

「なんだ、お前かよ」


カンナが出てきた。

浦島は何も言わずにその場を立ち去った。


「なんだあれ?感じ悪いなぁ」


立ち去る浦島を後目に吐き捨てるように言うカンナ。


「ありがとね。大丈夫?」


愛莉に礼を言われる。なんだか照れくさい。


「あれくらいなんでもないよ。で、なんであいつがいたの?」

「それが……」



僕たちがプリクラを取ってる間に、浦島が愛莉を見つけたらしい。

浦島は「やあやあ」と言いながら愛莉に近づいてきた。


「一人で何してるんですか?」

「プリ順番待ちですか?」

「こっち空いてますよ?」

「どうせなら一緒に撮りましょう」


と、言い手を引っ張られているところに僕が現れたらしい。



「気持ち悪い奴だな!」


コーヒーショップでエスプレッソを飲みながらカンナは言った。


「愛莉も大変だな。変なのに目をつけられて」

「昔っからだから慣れてるんだけどね、男子がどうも苦手で」


僕の隣でフラペチーノを飲みながら愛莉は答えた。


「男嫌いなのによくトーヤと付き合い始めたな」

「小学生の頃、男子だけじゃなくて女子からも虐められてたのよ、それを冬夜君が助けてくれて……」


愛莉が何かを思い出したらしく笑いだした。


「どうしたんだ?」

「あの頃の冬夜君思い出したらおかしくて、助けてくれるのはいいんだけど、ムスッとむくれてて嫌われてるのかどうか分かんない時があってさね」

「あ、それ私もある」

「神奈も?」

「私もこっちにいた頃は虐められててさ。で、助けてくれるんだけど『お前音無の事好きなのかよ』って聞かれると『そんなんじゃねーよ』って怒ってさ」

「そうなんだ……」


僕は何も言わずじっと聞いていた。

ただ恥ずかしい。

その後も僕の話で盛り上がっていた。

少なくとも、僕がカフェオレを飲み干すまでは。


「そろそろ出ない?」


僕がそう切り出した。

このままだと、話が終わりそうにない。


「あ、もうこんな時間」


愛莉が腕時計を見る。


「さて、帰ってお勉強の時間だね」

「私は今日はパスするわ……休みの日くらい勘弁してくれ……」

「受験生に休みはないんだよ。神奈」

「今日は疲れたし明日するよ」

「しょうがないなあ。冬夜君はするわよね?」


にこにこしながら愛莉が尋ねてくる。

拒否権はないようだ。

無言の圧力に負けしぶしぶ頷く僕。


「じゃあ、帰りましょう」


(3)


帰りはとりあえず愛莉の家まで一緒に行き、カンナを送ることにした。

と、いっても自転車だからすぐだけど。

カンナは駐輪場に自転車を止めると僕のそばにやってきた。


「今日は私の歓迎会だったんだよな?」

「……?そうだけど?」

「じゃあ、最後に私のお願い一つ聞いてもらっていいかな?」

「……なんだよ?急に」

「目を閉じて!」

「……?」


よくわからないけど言われるがままに目をつぶる。


!?


唇に感じるのは柔らかい触感。


慌てて目を開けると終わっていた。


「じゃあまた明日」


カンナはすぐさま振り返り、家に帰る。


僕はしばらくの間呆然としてた。

どうしたんだ急に。

心臓がバクバクなっている。

暫くの間頭が真っ白だった。

その日の勉強が手に付かなかったことはいうまでもない。

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