第8話 僕の彼女は
(1)
午前7時半。
正確に彼女は現れた。
そして布団をめくる。
「おはよう!冬夜君!」
寝起きにはきつい明るく元気な声。
僕は上体を起こすもぼーっとしている。まだ眠い。
「ね~え?起きてる?」
愛莉は僕の顔を覗き込む。
ダメだまだ頭がぼーっとする。
する愛莉は両手で僕の両頬をつねるとギューッと引っ張る。
「い、いてーよ!!」
目が覚めた。
「お、起きた」
愛莉は僕の反応を見て満足気だ。
起きたことを確かめると立ち上がる。
「下で待ってるね」
そう言うと部屋を出て行った。
僕はそれを確認すると、ゆっくりとベッドから立ち上がり着替えを始めた。
下に降りると愛莉が紅茶を飲んでいた。
カンナはまだ来てない。
愛莉の隣に座ると朝食が準備された。
それをもそもそと食べ始める。
その間愛莉は何も喋らない。
機嫌がいいのか悪いのか分かりかねていた。
昨日の今日だ。
どっちだろう?
「冬夜君」
愛莉が口を開いた。
一瞬動きが止まった。
愛莉は時計を指さす、
時計は7時40分を回っていた。
「急がないとまたいつものパターンだよ?」
結論:マイペースだ。
とか、そんなこと考えてる場合じゃない。
急いでご飯を食べて、洗面台に向かう。
その間に呼び鈴が鳴った。
カンナだ。
急いで髭を剃る。
寝ぐせは……ない!
軽く櫛を通して、今に出る。
「神奈ちゃんはコーヒーと紅茶どっちがいい?」
「あ、じゃあコーヒーで」
「ミルクとか入れる?」
「いえ、ブラックで」
そんな会話のやり取りがされていた。
「お、来た来た。冬夜、お前モテるなぁ」
父さんが新聞を読みながらそんなことを言っていた。
それで気づいたカンナがこっちを見る。
「お、トーヤ。オッス」
そう言って手を振るカンナ。
ちらりと時計を見る。
7時50分を回ったあたりだ。
ふぅ、と息をついてリビングのソファーに座る。
カンナがコーヒーを飲み終わると「じゃ、いくか?」と席を立つ。
「おばさんご馳走様でした」
「麻耶さんご馳走様」
そう言って二人は、玄関に向かう。
僕も慌てて立ち上がって玄関に向かった。
その時母さんが耳打ちする。
「で、どっちが本命なの?」
僕は答えなかった。
家を出るとカンナと愛莉が仲良さそうに話をしている。
その二人の後ろを歩いていた。
後ろから見てわかるが標準くらいの愛莉に比べて、カンナの背丈はかなり高い。
しかもスタイルもいい。
中2でこれだから将来モデルにでもなれるんじゃないかとさえ思う。
当然道行く人々の注目の的だ。
もちろん、愛莉も背は高くないもの同世代の子の中ではかなり可愛い部類だ。
そんな二人を連れて歩いてると自然とうつむいてしまう。
標準でごめんなさい。
「……で、どうする?冬夜君?」
そんなことを考えていたので話の内容がさっぱりわからない。
「ぼーっとしてんなよ?あぶねーぞ」
そう言って僕の頭をぽんぽんと叩くカンナ。
「で、どうする?今度の週末」
「3人でショッピングモールに行こうと思うんだけど!ほら神奈の歓迎会もかねて」
そんな話をしてたんだ。
勉強の虫の愛莉がそんな提案をするとはめずらしい。
「いいのか?勉強は?」
「たまには息抜きしないとね!そのかわりゴールデンウィークはみっちりするんだからね!」
恐ろしいことを言って笑う愛莉。
「おはよう遠坂さん」
そう話しかけてきたのはクラスメートの優弥だ。
最近妙に愛莉になれなれしい。
「おはよう浦島君」
「いやだなぁ、優弥でいいよって言ったじゃん」
そう言って愛莉の肩に手を回そうとするも、愛莉は無言で払いのける。
「じゃ、また教室で。」
そう言って去っていく優弥。
何とも思ってないらしい。
「なんだあいつ、妙に馴れ馴れしいけど」
カンナが尋ねてきた。
「浦島優弥。1年の頃から同じクラスでさ……」
愛莉にまとわりついてる。
愛莉はどう思ってるのか知らないが。
特に嫌がってる感じではないし。
「まあ……心配はないと思うけどな」
だと、いいんだけど。
偶に不安になるときがある。
そのうちとられちゃうんじゃないか?
そんな不安はたまに的中するときがある。
それが今日だった。
放課後
「先に校門で待ってて。ちょっと用事があるから」
愛莉はそう言って、教室に残った。
その時気づくべきだったのか、浦島がいることに。
しばらくたっても一向に愛莉が来ない。
よくあることだったんだ。
愛莉はモテるから何回も告白されてる事は愛莉から聞いてる。
こんなに時間がかかったことはなかったけど。
一緒に待って話をしていたカンナもおかしいと思ったのか。
「なあ、一回教室にもどったほうがいいんじゃね?」
と、聞いてきた。
「でも、教室にいるとは限らないし」
「いなかったら他探せばいいだろ?私校門で待っててやるから。来たら電話する」
「そうか、悪いな。ちょっと見てくる」
そう言って僕は教室に戻った。
「ちょっと、離してよ!」
教室に入ろうとすると、愛莉の叫び声が響いた。
当然他の生徒も聞こえたらしく教室に人が集まる。
「だから~俺の方が絶対良いって」
「そんなの人の勝手でしょ!」
「俺の方が性格も見た目も良いと思うけど」
「そう言うところが嫌いなの!」
愛莉と口論してる相手は……浦島だった。
どうやら、今回のお相手は浦島らしい。
いつもなら待ってるんだけど。
愛莉も見られたくないだろうし。
しばらくしてたらもどってくるさ。
そう思って教室から立ち去ろうとした時浦島に見つかった。
「よう片桐、どうしたんだよこそこそして」
浦島に声をかけられる。
ハッと振り返る愛莉。
「冬夜君!どうして!?」
気まずそうな顔をしている。
やっぱり来るんじゃなかった。
「ちょうどいいや、片桐からも言ってやってくれよ。遠坂さんの相手は俺がふさわしいって」
「ちょ、ちょっと浦島君、やめてよ」
困った顔をしている。
今にも泣き出しそうだ。
「どうしたんだよ。まさか遠坂さんの相手って片桐なのか?」
直球で聞いてきた。
僕は黙ってた。
愛莉も黙ってた。
僕たちが付き合ってることは内緒だったから。
お互い了承していた。
「違うよ」
僕はそう呟いていた。
「だよなぁ、つり合いとれねーよなぁ」
愛莉は黙ってうつむいている。
このままでいいのか?
「でも遠坂さんの親友なんだろ?一声かけてやってくれよ」
もはや教室の周りに残っていた生徒が集まってきている。
何も言わない僕に何を思ったのかしらないが
「もういいよ、片桐。遠坂さんと大事な話があるから、ちょっと待っててくれない。ていうか先帰ってて」
そう言われ僕は言うとおりに教室をでる。
「じゃあ、そう言うことで遠坂さん話の続きを」
「……だよ」
僕は耳を疑った。
愛莉の微かな声がはっきりと聞こえた。
「え?なんだって?」
浦島が聞き返す。
「だから私は冬夜君と付き合ってるの!」
その声は教室中に響き渡る。
え?内緒だって言ったろ?
慌てふためく僕の顔をじっと見つめる愛莉。
「え?だって今片桐が違うって」
慌てているのは浦島も一緒だった。
どうしたらいい?
ここで否定したら愛莉の立場は無くなる。
むしろ愛莉との関係も無くなってしまうかもしれない。
けど、肯定すれば冷やかしの的になるだろう?
それも嫌だ。
どうする?
「片桐どうなんだよ!はっきり言えよ!」
煮え切らない態度にいら立ちを隠さない浦島。
不安げに僕を見る愛莉。
彼女にここまでさせて逃げるのか?
今までだって全部愛莉に苦労をおしつけてきたんじゃないのか?
愛莉は何も言わないけど。
僕は意を決した。
「僕は愛莉と付き合っているよ」
まじかよって表情を浮かべる浦島。
意外にも愛莉も驚いている。
「さっき違うっていったじゃねーか」
狼狽える浦島。
「僕と愛莉じゃつり合いが取れない、そう思ってた。けど愛莉がそう言ったんだ。愛莉は僕を見てくれている。だから僕も愛莉に真っ向から向き合う」
そういうと、まわりからヒューヒューとはやし立てる声が。
「遠坂さん、なんか片桐に弱み握られてるの?」
浦島が悪あがきをする。
「さっき冬夜君が言ったでしょ?『私だけを見てくれてる』って。ていうかいい加減しつこいよ」
愛莉がそう言うと周りが賛同した。
「空気読めよ浦島」
「みっともないぞ」
「てか、そんなんだから振られるんだよ」
周りの罵声も浴びて立つ瀬が無くなった浦島は鞄を手に取り教室から立ち去った。
「大丈夫か愛莉?」
愛莉に近づくと、愛莉は泣いていた。
「ごめん、僕がちゃんと態度をはっきりしていれば」
愛莉は首を横に振る。
「ううん、嬉しかった。あんなに隠していた冬夜君が言ってくれたこと。私心のどこかで避けられてるんじゃないかと思ってた」
「ごめん、謝らないで……ちょっと教室の外で待ってて。立て直すから」
言われた通り、教室の外で待ってると愛莉が出てきた。
「じゃ、いこっか。神奈待たせてるんでしょ」
そうだった。忘れてた。
急いでカンナのスマホに電話する。
「どうした?やっぱなんかあったのか?」
「いや、大丈夫。今から出るから」
「ああ、わかったよ」
そう言って電話を切った。
「じゃあ、行こっか」
「うん」
と、言いつつも愛莉は立ち止まっていた。
何か考えてるようだ。
その答えはすぐにでた。
「付き合った時からやってみたい事があったんだ」
それは……。
愛莉が突然僕の手を取る。
「手を繋いで歩いてみたかったの。公の場でね」
そう言って愛莉が笑う。
少し照れくさいけど、愛莉が喜んでくれるなら。
そのまま学校を出て校門で座って待ってるカンナに声をかける。
神奈は僕たちが手をつないでるのにすぐに気が付いた。
そしてにやいやする。
「そうか、やっと冬夜も覚悟決めたか。これから大変だぞ?」
「決心は固まったよ」
「まだ中学生なのに立派だねぇ」
そう言ってにんまり笑う。
「じゃ、帰ろっか」
そう言って愛莉は先を急ぐ。
釣られるように僕もついていく。
後からついてくるカンナが酷く落ち込んでいるのに僕は知る由もなかった。
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