第7話 告白

(1)


学校・部室棟裏。

体育館裏よりも狭く、また木が植えられている為、不良たちがたまりやすい場所。

カンナと僕はここに矢口先輩と和田先輩に連れられた。

正直膝が震えている。怖い。

しかし、意外と和田先輩の方がおどおどしている。

何か様子が変だ。

妙な沈黙に包まれる。

和田先輩、変な汗流れてますよ?

重たい空気に耐えかねたのか、矢口先輩が口を開く。


「和田ぁ!男だろ!気合いれてしゃきっとしろや!」


そう言って和田先輩の尻を蹴飛ばす。


「音無ぃ!!」


気合を入れられた和田先輩が叫ぶ。


「はい!?」


いきなり呼ばれ、びっくりするカンナ。


「一目惚れっす。好きです。付き合ってください!」


突然の告白。

沈黙が流れる。

どうしたらいいか分からない。

確かにカンナは可愛い部類だ。

一目惚れされてもおかしくないだろう。

これまでにも何度も告白をうけているかもしれない。

と、思ったのだがそうでもなかったようだ。

顔を真っ赤にしてもじもじしている。

ヤッパリ可愛い。

なかなか返事を切り出せないカンナ。


「音無、こいつ見た目は悪そうだけど中身は良い奴なんだぜ?付き合ってやってくれねーか?友達からとかでもいいからさ」


矢口先輩がそう言うも中々答えが出ない。


「じ、自分じゃ、不満ですか?」


和田先輩は緊張していた。

ようやく、カンナが口を開いた。


「ごめんなさい、他に好きな人がいるんです」


本人はばれない様にしたつもりなのだろうが、ちらりとこっちを見ているのが分かった。

え?


「だ、誰ですかその野郎は!」


和田先輩の語気が荒くなっている。

しめるつもりか?


「言えません、本当にごめんなさい……」


申し訳ないとおもったのか、カンナの声は微かに震えていた。


「そうか……」


和田先輩はそう言って肩を落とした。

気のせいか目に涙をためているかのように見えた。


「まあ、こういうこともあるさ。めそめそすんな」


矢口先輩がそう言って和田先輩の背中をたたく。

励ましてるつもりだろうか。


「さてと、次は私か……」


そう言って矢口先輩が僕の方を見ると詰め寄ってくる。

ま、まさか……。

嫌な予感がする。

それが僕の自意識過剰ならいいんだけど……。


「お前さ、度胸あるよな。下級生で私に逆らってきたのはお前が初めてだぜ?」

「そ、そうですか?」

「気に入ったよ。私と付き合う気無いか?」


こっちもまたストレートだなぁ。

言い方は軽いが矢口先輩の目は真剣だ。

どう返したらいい?

下手に返事したらどつかれそうだ。

カンナの気持ちが少しだけ解った。解りたくはなかったが。


「どっちなんだよ。はっきりしろよ」


半分脅しに近い。

益々言いづらくなった。


「矢口先輩、とーやには彼女が……」


カンナが助け舟を出してくれた。のか?


「んだと?本当なのか!?」


矢口先輩の表情が険しくなる。

僕は黙ってうなずいた。


「なんだよ、そうならそう言えよ!」


矢口先輩はそう言って笑う。

泣きそうな自分を誤魔化すように。


「で、誰なんだよ?まさか音無か?」

「違います、朝一緒に登校してきた女子です」


カンナが代わりに答えた。さっきから一言もしゃべってない僕。


「ああ、遠坂か、有名だよな。ってスゲーのと付き合ってんじゃん!やるなぁ」


愛莉の噂は3年生まで伝わってるらしい、ファンもいるとか。


「色々と大変だと思うけど、まあ頑張れよ。もし駄目になったらいつでも私のところに来い」


そう言って矢口先輩は僕の背中をたたく。


「矢口先輩、すいません……」


僕は意味もなく謝った。


「馬鹿!謝るんじゃねーよ。こう見えてお前らの事気に入ってんだぜ。矢口先輩はやめてくれよ。京香でいいよ」

「はぁ……」

「俺もお前らの事気に入った。なんか問題あったら俺に言って来いよ」


和田先輩それはお断りします。

心の中でそう思った。


「こらぁ、お前ら始業のチャイムはとうになってるぞ!和田と矢口またお前らか!?あとの二人は誰だ!?」


生徒指導の先生だ。


「やばい!あの禿だ!お前ら先に逃げろ!」


そう言って和田先輩と矢口先輩が道をふさぐ。

僕たちは反対側に逃げ出した。


(2)


2-1教室


「トーヤ!見てたぞ!和田先輩たちに絡まれてたな!?何があったんだよ」


休み時間に誠がやってきた。

愛莉も同様の理由で、やってきた。もっとも誠みたいに興味本位ではなくて、心配してるのだろうが。

カンナは隣の席で寝てる。


「大したことじゃないよ」


言いふらすことじゃない。が、愛莉に心配はかけたくない。

僕は何気なく携帯を取り出し愛莉の携帯にメッセージを送った。


帰ったら家で話すよ


バイブに気づいた愛莉が携帯を取り出しメッセージを確認すると、自分の席に戻った。


「噂だけど、お前矢口先輩に告られたんだって」


声がでかい。

皆の注目を一身に浴びる。


「ノーコメント」

「ってことは本当なんだな。で、付き合うの?」


その言葉に反応する愛莉が見えた。


「ノーコメント」

「多田ぁ!余計な事詮索してんじゃねーよ」


カンナが起きるとそう言った。


「音無さんも和田先輩に告白されたって」


バァン!


カンナが机をたたきつけ立ち上がる。


「いい加減にしろよ!」


カンナの剣幕にたじろぐ誠。

それくらい怖かった。

本気で怒っていたようだ。

その時チャイムが鳴り次の授業の担当の先生が教室に入る。

誠は逃げるように自分の席についた。


(3)


僕の家


「……ってなわけだよ!」


僕と愛莉とカンナは3人で勉強しながら話をしていた。

今朝起こったことを愛莉に説明していた。

カンナが大体話してくれたが。

愛莉は黙って聞いていた。

話が終わると静かに言った、


「それで、冬夜君はどうなの?」

「え?」

「冬夜君は矢口先輩の事どう思ってるの?」

「どうも思ってないよ!」


ていうか、何でそうなる?


「ていうかさ、冬夜君は誰が好きなの?」


何か愛莉を怒らせること言ったか?


「冬夜君は誰と付き合ってるの?」

「愛莉だろ?」

「だろ?って他人事みたいな言い方だね!」


まずい、愛莉を怒らせたみたいだ。

するとカンナがフォローに回ってくれた。


「まあまあ、冬夜も矢口先輩に気圧されてたんだし。仕方なかったんだよ。でも、トーヤもはっきり言うところは言わないと」

「そうだなぁ」

「『そうだなぁ』って本当にわかってるの!?」

「わかってるよ、ごめん。僕が好きなのは愛莉だから……」

「そう?ならいいんだけど……」


怒ったり沈んだり忙しい奴だ。

その時、気づかなかった。

カンナの表情が曇っていたことに。


(3)


勉強も終わり(ほとんどしてないけど)帰り送ることになった。

今日は愛莉だけじゃない、カンナも送らなきゃいけない。

まずは愛莉の家。

家の前で見送る。

今日はカンナがいるので流石にキスはないと思ったが。

甘かった。

3度目のキスだ。

しかもその後抱きついてくる。


「信じていいんだよね?」

「何を?」

「私が好きって……」

「ああ、信じてくれよ」

「わかった」


そう言うと元気になったようだ。

愛莉は大きく手を振って家の中へと消えていった。


「見せつけてくれるねえ」


にやにやしながら俺の顔を見るカンナ。


「オヤジかよ」


そう言いながらも顔が熱い。

しかし暗い夜道のおかげでそこまで気取られずに済んだ。


「今日は大変だったな」

「そうだな。ところで……」

「なんだ?」

「お前好きな人いたんだな?クラスの人か?」


朝言ってた言葉を思い出した。


「まあ、そんなところだな」


転向して3日目で好きな人ができるとは。

でも、誰ともそんなに話してるようではなかったが。

むしろ浮いてるようにも見える。

カンナと親しそうなのは……


「……誠か?」


僕がそう言うとカンナは思いっきり俺を蹴飛ばした。


「いてっ!」

「でまかせに決まってるだろ!チャラいのとかそう言うのは苦手なんだよ」

「和田先輩はちゃらくはないだろ……」

「ああいうのもタイプじゃないんだよ!でも正直に言うと面倒だろ?」

「じゃあ、どういうのがタイプなんだよ!」


僕はもう一発蹴りをくらった。


「トーヤには関係ないだろ!そんな事考えてる暇あったら愛莉の事大事にしろよ」

「分かってるよ」

「分かってねーよ……」


意味深に呟くカンナ。

その真意を聞く前にカンナの家に着いた。


「ここまででいいわ」


カンナの家は目の前のアパートだという。


「じゃ、ありがとな」


そう言うと部屋に入っていく。


「じゃあ、また明日な」


そう言えって僕も帰路についた。

カンナのタイプ……わかんない。

考えながら帰っていたため気づかなかった。

僕の姿が消えるまでカンナが見送っていたことに


「気づけよばーか」

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