第6話 待ち伏せ
(1)
「もしもしとーや?」
カンナからだった。
「どうしたんだよ?」
「いやぁ、暇だったからさ。……ひょっとして寝てた?」
「いや、これから寝るところだった」
「あ、そうか。ごめんな……」
申し訳なさそうなカンナの声。
「いや、気にしなくていいよ。まあ、俺も眠れないしな」
嘘はついてない。
「そっかぁ、そうだよな」
カンナの声が明るくなった。
「カンナはいつも何時に寝るんだ?」
「んーその日の気分かな。テンション高いときは朝までおきてるぜ」
次の日休みの時だけだけどな。と付け足していた。
「結構遅い時間だけど、明日大丈夫なのか?」
「ああ、おふくろが出る時に起こしてもらうから大丈夫」
そういや、カンナのお母さんは朝早くから夜遅くまで仕事してんだっけ?
「あと、学校で寝てりゃいいしな」
そう言ってカンナは笑う。
寝るなよ。
「とーやは大丈夫なのか?朝そんなに強くなかった気がしたけど」
「愛莉に起こされてるよ」
「あ、そうか……。いい彼女だな」
「まあな」
「大事にしろよ!お前にはもったいないくらいだぞ」
「言われなくても解ってるよ」
「ならいいんだけどな……」
またカンナのトーンが下がる。
話題変えないとかな?
そういや、気になってたことがあったんだった。
「なんで、今みたいな性格に変わったんだ。昔あんなんじゃなかったろ?」
そうだ。
もっと大人しくて、むしろ虐めらてて、僕が見るに見かねて庇ってあげたら、「二人はできてる」と冷やかされたんだっけ。
「意識改革だよ」
「意識改革?」
「転向した時にさ思ったんだ。どうせ誰も知らないところに行くならバーッて弾けてやろうって」
「それだけ?」
「そ?後は向こうのファッションに気を使ってまた虐められないようにとかかな?こっちだと逆に浮いてしまって。変なのに目をつけれたけどな」
そう言ってカンナは笑う。
親の喧嘩でグレたとか、そんなのではないらしい。
カンナは嘘のつける子じゃない。
そう思ってた。
「4年も経てば性格だって変わるんだぜ」
「そうか……」
言葉に詰まってしまった。
「あ、母さんが帰ってきた。じゃあまたな」
「あ、ああ」
「なんならモーニングコールしてやろうか?」
「な!……かんべんしてくれ」
「冗談だよ……。じゃあおやすみ。あ……」
何か言いたい事がありそうだった。
「なんだ?」
「今日のとーやかっこよかったぜ!じゃあな」
電話が切れた。
時計は0時を回っていた。
眠気のせいか頭が良く回らない。
その後すぐ寝た。
(2)
「冬夜君おはよう」
愛莉の声だ。
昨日遅かったせいかまだ眠い。
「もう30分……」
そう言って布団に潜り込む。
「うーん、そう来たか。じゃあ……一度やってみたかったんだよね。そりゃあ!」
そう言って愛莉は布団の端を掴むと思いっきり引っ張る。
布団を奪われただけでなく、勢いでベッドから転げ落ちてしまった。
「痛ぇ!」
「さ、早く着替えて降りてきてね」
そう言うと愛莉は踵を返して部屋を出た。
なんなんだよ全く。
時計は7時半だった。
相変わらずの正確さだな。
取りあえず着替えて下に降りる。
「お、今日も早く降りてきたな」
父さんが僕を見るなりそういうが、まだぼーっとしていてよく聞こえていなかった。
そのままいつもの席に座る。
「先に顔洗って来たら?」
僕の顔を覗き込むように見る愛莉。
シャンプーを変えたのか?いつもと香りが違う。
それに……。
間近で見た彼女の唇は妙につやっぽい。
昨晩の事を思い出した僕は一瞬にして目が覚める。
「だ、大丈夫だよ」
「そう?眠そうだよ?夜更かししてた?」
「まあね……」
「なにしてたの?」
「別に」
「ああ、隠し事してる!」
「そんなんじゃないって!」
「朝から元気だねえ」
「仲良いことは良いことだな」
父さんも母さんも勝手な事言ってる。
「ところで、また昨日のパターンだよ?」
はっとして時計を見る。
やばい!
ご飯をかきこんで、支度にとりかかった。
仕度が終わったときには8時前。
本当にいつもと変わらないな。
変わったのは……。
ピンポーン。
着た。
「あら?誰かしら」
昨日のやり取りを知らない母さんが迎えに出る。
「あら?神奈ちゃん。どうしたのその格好」
「おはようございます。まあ、色々あって……。とーや達います?」
「まだいるわよ。冬夜、急ぎなさい」
カンナが来たみたいだ。
「じゃあ、行ってきます」
一人ダイニングに取り残された父さんにそう言うと急いで玄関に向かう。
「よっ!間に合ってよかったよ」
「きゃあ、神奈おはよう!」
「おはよう愛莉」
二人はそう言って抱き合う。
いつも思うけど、どうして女子ってすぐに抱きつきたがるんだろ?
靴を履きながら見てたらカンナが僕の視線に気づいたようだ。
「なんだ?トーヤも抱き着いて欲しいのか?」
「神奈、それはだめ!」
にっこりと釘を刺す愛莉。
その笑みがかえって怖い。
「冗談だよ、愛莉。トーヤも抱き着くなら愛莉のほうがいいよな?」
「そりゃまあ……」
言葉を濁す。
「なんだよ、しゃきっとしろよ」
神奈が僕の背中をバシッと叩く。
「冬夜君、昨日夜更かししたみたいで眠そうなの」
愛莉がそう言うと、神奈が「あっ!」とした顔をして。すぐに真顔に戻る。
「そ、そうか夜更かしかぁ」
そう言いながら悠々と携帯をとりだし何やら打ってる。
「神奈、歩きスマホはよくないよ?」
「ちょっとだけだから」
そうすると僕の携帯が鳴った。
ちょっとだけ見る。
昨夜は悪かったな。
カンナからのメッセージだった。
すぐに返信する。
きにしなくていいよ
「あ、冬夜君も、危ないよ!」
何も知らない愛莉。
なんか悪い気がした。
「もう済んだよ」
「なら良し」
それからは何もなかったかのようにぺちゃくちゃとおしゃべりしてるカンナと愛莉。
それを聞いていた僕。
主に東京での生活を聞いていたようだ。
やがて学校に着く。
校門あたりが騒がしい。
その原因がすぐにわかった。
矢口先輩と和田先輩が校門で立っている。
矢口先輩の姿を確認したカンナの表情が曇る。
「大丈夫だよ」
(たぶんな)
だが、期待は外れた。
二人は僕たちを見るとズンズンと歩いてきた。
「おい、お前が音無の男か?」
和田先輩がどすの利いた声で聞いてきた。
和田先輩はこの中学のボス的存在だ。
とんでもないのに目をつけられた。
「そんなんじゃありません」
そう言ったのはカンナだった。
「そうか……。まあ、いいやちょっと二人ともこっちこいや」
そう言って肩を掴まれる。
「冬夜君。神奈」
心配そうに声をかける愛莉。
「あれは誰だ?」
「とーやの彼女です」
「おおそうか!」
若干和田先輩の声が明るくなる。
そして僕たちは部室棟の裏に呼び出されたのであった。
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