第17話 クローンボットと給電スフィア
拠点を留守にするための準備は二日間も掛かった。
まず着手したのが[ビルダータワー]というビルダーの機能を持った建物の建設だった。これを建てることにより、ブループリント機能で仮設置した物を材料が溜まり次第自動的に建ててくれるのだ。ブループリントで拠点の周囲に土壁を作ることによってこれを採掘で出た残土処理とした。
ビルダータワーから採掘機と同じようなカニ型のドローンが出発した。しばらく立ち止まり[圧縮コンテナ]を感知すると、そこからビルダータワーが要求した資材を取り出しビルダータワーへと運搬していく。ドローンが往復するたびにじわじわと拠点の周囲に土壁ができていっている。
次は、『流石に誰もいないのは不安なので……』というティエルの要望に答えてクローンボットを作ることだった。クローンボットとは、AIをコピーした別のボディのことでティエルが二人になるようなものだ。一度通信が途絶えても記録を合併すれば元に戻れるのです。
クローンボットに選んだボディというのが作業用の大型パワーローダーだった。人形で手と足がある私の身長の倍ほどある大きな黒いボディで、これの材料を集めるのに殆どの時間を費やした。主な資材に
しかし、このCFRPが曲者だった。原料はバイオ燃料の副産物である炭なので問題はなかったのだが……。まず炭を炭素繊維に編み上げるのに時間がかかったし、さらに木材からバイオプラスチックを作り出すのにも苦労した。寝ているとき以外はずっと伐採と運搬を繰り返していたよ。
しかし、苦労したかいがあって私は木材運搬から開放された。今はクローンボットのティエルが伐採(根がついたまま引き抜く)して粉砕機まで運んでくれるようになったからだ。初めて手足を手に入れたクローンのティエルはとてもはしゃいでいた。
近くにいればクラゲボディのティエルも記録を共有しているので黒いデカブツとクラゲは揃ってご機嫌だった。
◆
『では、留守番をお願いします』
『任せてください』
そう言って黒いデカブツは親指を立てた”いいね!”のハンドサインをクラゲのティエルに向けてぐっと突き出す。
指があるのが嬉しいらしく黒ティエルは無闇矢鱈とハンドサインを繰り出す癖がでしてしまった……。
「ゴーレムのティエルさんはいつも陽気ですね」
私に背負われているガムちゃんが呆れた様子でその光景を眺めていた。昨日の夜に身振り手振りを何時間も見せられた私はイラッとしてティエルを急かした。
「ほら! もう行くよ!」
クラゲティエルを捕まえて強引に右腕の空間圧縮スペースに押し込んだ。
たとえ拠点が全滅しても、私とティエルそれにバックパックにあるナノドローン生産機とデータボックスがあればとりあえず一からやり直すことは出来る。準備万端でも最悪を想定しておくのが私流です。これはネガティブなんかじゃないんだからね!
「よーし!目標は森を南方に抜けたスネーブ公国の街[ヒズ]よ!」
名残惜しく拠点を振り返ると、ビルダータワーによってまた土壁が一枚増えたのが見えた。後ろ髪を引かれる思いを断ち切り朝焼けの森を南に向かって歩き出した。
現地の知的生命体と出会うため遭難してから初めての旅が日の出とともに始まったのだ。
◆
スーツのパワーアシスト機能がシュインと音を鳴らし地面をける力を増幅させ跳ねるように森の中を走る。それと同時にティエルが感知していたゴブリンに向けてプラズマカッターを構えトリガーを引く。頭を失ったゴブリンはその場に崩れ落ち、私の走りを阻害する者は消えた。
足場の悪い地帯があれば、腕を大きく振り上げ大きく跳ねて飛び越える。進行方向に邪魔な木があればプラズマカッターで幹を切った後に、木が倒れ込む前に飛び蹴りを食らわせてなぎ倒す。
しばらくこのようにして進んでいると、スーツ内にピピピピピピと警告音が響く。私はそこで立ち止まると警告音を解除するための行動をすることにした。
「まず1つ目はここでいいかな」
警告音はここが無線充電が届く範囲の端だということを示しているのです。私は頭の大きさぐらいの淡く青色に光る球体を取り出し作業に取り掛かる。
『そうですね少し余裕を持って、このあたりに給電スフィアを埋めるのがいいでしょう』
私は犬のように手で深さ50cmぐらいの穴を掘りその球体を埋めた。
「それはなんですか?」
ガムちゃんの問に私が答えた。
「これは充電と通信の安易を広げるための装置だよ。森は開拓されないって聞いたから森の際までは充電できるようにするんだ」
森の中はゴブリンでいっぱいなので、プラズマカッターが無いとかなり面倒なので森の中に送電網を作ることにしたのだ。
「ゴブリンを倒すのに電力を多用していたのは、そういう訳だったのですね」
ガムちゃんはエネルギーを景気良く使ってゴブリンを倒していたことに疑問を持っていたようだ。しかしその疑問も晴れまた誰も話さず淡々と森の中を進むことになった。
出会うゴブリンをプラズマカッターで切り刻みながら進み、次の充電境界に近づいたらスフィアを埋めるという作業を繰り返しながら森を南へと進んでいった。
とくにトラブルもなく日暮れ前には森を抜けることができた。
最後のスフィアを埋めているとガムちゃんは感心した口調で話しかけてきた。
「森に慣れているのですね。まるで歴戦の森林ハンターも真っ青な素晴らしい足運びでした」
私はガムちゃんのお褒めの言葉に「ああ、それはね」と説明しようとするとティエルに説明を横取りされた。
『私の機能で足元を安全、注意、危険で示してサポートしているので万全です!』
「おお! ティエルさんは相変わらず多機能ですね素晴らしい!」
『そうでしょう!』
最近思ってたんだけど、やっぱり私の予想が正しいかもしれない……。
ティエルはガムちゃんに対してマウントを取っている。同じ意識のある無機物として対抗意識を燃やしているんだと思う。しかしガムちゃんの方は、そんなこと全く思っておらずに素直に凄いと褒めている。
指摘するのも面倒なので飽きるまでやらせておこうかな……。
それからスフィアで領域を拡大しつつ、森の中を走り続け太陽が天辺まで登る頃には森を抜けることができた。
夜までに抜けられるかハラハラしていたのが馬鹿みたいだなと思った。しかし最後のスフィアを埋めながらの雑談でガムちゃんから得た情報で納得がいった。
ガムちゃんが言うには通常なら森の中で一泊しなくてはいけないほど時間がかかるらしく、私の速度は異常に速かったみたい。
それを聞いて森に入る人がいない理由を理解した。野営中にあのゴブリンとトロールに囲まれれば、ひとたまりもないだろうね。
ついでに聞いた情報ではガムちゃんの前の持ち主はあの襲撃を一人で乗り切ったらしい。調子に乗るには十分強かったみたいだね。
でも、それを撃退したドラゴンはもっと強いんだねぇ……。ってスーツ越しに私を蒸し焼きにしたってことは大型艦のアフターバーナーより高温だったんだよね。
私ってよく生きてたな……。
恐怖で身震いしていたところに余計な追加情報が頭に浮かんだ。北の山脈に魔物じゃない本物のドラゴンとかいうやばい存在がいるっていう話だ。思い出したら余計怖くなってきた。
え?ちょっとまって? 今はその北の山から離れられたから安心なのか! そう思うと拠点を離れた不安が消し飛び結果的に気分が少し軽くなった。
最後のスフィアを埋め終わるとティエルが警報を発した!
『未確認の生命体反応を検知しました。南西方向に800m地点です』
私はすぐにその方角に向かって歩を進めた。
宇宙船が不時着したのは、ファンタジーな星でした! タハノア @tahanoa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。宇宙船が不時着したのは、ファンタジーな星でした!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます