第16話 金を求めて

 家の中に入ると珍しくティエルが私の部屋にいた。なにをしているのかと思ったらガムちゃんをリペアポットに入れて小さな傷が修復できるか試しているようでした。声をかけようとしたところ、ちょうどポットが開きティエルが残念そうにつぶやいた。


『だめですね。資材:[名称不明]が不足とエラーが出ます』

「そうですか、やはり無理でしたか」


 何かにがっかりしているみたいだけど、だいたい察しが付く。きっと魔力が含まれているからこのポットでは修理対応していないということなのでしょう。


「残念だったねー」


 私が声をかけると、ティエルはくるっと回転しながら返事をする。


『しかし、機体情報は取れましたので、魔力さえ扱えるようになれば修復やコピーは可能のようです』

「コピー?」


 ティエルの言葉に聞き慣れないものがあったようで、ガムちゃんが疑問を投げかけた。


『あなたの複製が可能になるということです』

「なんですかそれ!怖いのでやめてください」


 ガムちゃんは、自身が増えるなど耐えられないと拒絶反応を起こした。


 まあ、普通はそうだよね……。ガムちゃんはどちらかというとAIより人間に近い感性を持っているようだね。


 おっと!そんなことより金の入手方法を相談しないといけないんだった。私はライン構築が終わったことを告げた後に本題に入った。それはナノドローンの材料である金の入手先についてだ。

 このまま採掘していれば手に入るかもしれないが、運が悪いと先にナノドローンが尽き採掘機が停止する。そんな一か八かの運用はしたくないので、ティエルにも考えてもらうことにした。


『金の入手ですか? それなら採掘ではなく、持っている人と交渉しましょう』

「ん?持ってる人? どういうこと?」


 腕を組んで首を傾げる。持っている人というのはどういうことだろう?通信はできないはずだし……。まさかガムちゃんの隠し財産とかがあるのかな?


『この星の住人はご多分に漏れず金を集める習性があるようです』

「ああ、そういうことね」


 金というのは大抵の星の知的生命体が収集している。色褪せないピカピカは偉大なのです。この星その傾向があるようなので、この星の人と物々交換で金を入手すれば良いということのようだ。


 しかし私には1つ心配事がある。それは……。


「うーん、剣と鎧の時代に私みたいなメカニックスーツ姿が街に入って大丈夫なの?攻撃されたりしない?」

『グロールガムさんが言うにはどんな奇っ怪な物でも、ダンジョンで手に入れたといえば何でも通るそうです』


 ええー、なにそのダンジョン万能説……。まさかの”全部ダンジョンのせい”で通るらしい。


「脱げない呪いの全身鎧とでも言えば、欲しがる人もいないでしょう」


 ガムちゃんもそう言っているってことは、きっと大丈夫なのかな? いや、騙そうとしている可能性だってある!


 私は陽気にくるくる回ってるティエルを捕まえて食って掛かる。


「ガムちゃんが嘘をついていて私が攻撃されたらどうするのよ!」

『一時撤退後に……武力制圧ぅ、ですかねぇ?』


 ティエルが物騒なことを言い出したので、私は思い出してしまった。ティエルが言語ファイルを作るために拷問じみたことを繰り返してたことを……。ガムちゃんが嘘を付くはずがなかった……。


「武力制圧とかできそうな事を言うとジョークにならないからやめてよね!」

『指揮官候補生の腕の見せ所ですね』

「そんな腕は見せないわよ!」


 ぐぬぬ!ここに来てまだ諦めてないのか!いや、むしろチャンスだと思ってる!? 意地でも害獣駆除以外はしないから!

 私がそんな決意を固めている一方で、二人の話はこの世界基準での価値がある品物に移っていた。相変わらずの話題の急転換だ。


「魔石の需要は高いですよ。魔道士の触媒や薬の材料、人の手で作られた魔道具の動力源にもなります」


 魔石かーティエルが言うから集めておいたけど売れるならありがたいね。なにせ毎日増えるばかりで、使用法もわからず捨てようか悩んでいたレベルだったからね。

 魔道具の動力源というのは面白い話だ。ガムちゃんは周囲の魔力を吸収して動いているけどその機構はダンジョン産特有のものらしく普通の魔道具は燃料がいるそうだ。

 ん?どこかで聞いたような仕組みだね。まあいいか続きを聞こう。



「木材や金属も売れますがそれは余っていないですよね」


 余っているどころかむしろこっちが買いたいぐらいだね。けれども売れるってことは販売もしているってことで魔石と交換ができるかもしれない。


「あとは食品ですが……」


 私はガムちゃんに向かってふるふると首を横に振った。私が食事をしているところを見ていないからなのか察してくれたようだ。


 とにかく売れそうなものは魔石だけってことね。後はどうやって交換相手を見つけるかだよねぇ。


「それで交換する当てはあるの?」

『はい、南に街があるそうです。詳しくはグロールガムさんからどうぞ』

「まずこの森は4カ国に囲まれた場所でして……」


 ガムちゃんは、この森の位置や周辺国家の説明をしてくれた。


 まずこの森は中央に大きな山脈が東西に続いている地形で、私達がいる場所は南部中央だ。その山脈を含んだ森は4カ国に囲まれている。その4カ国はこの森にドラゴンなどの魔物が大量に発生することから領地には適さないのでどこも手を出していない。


 まずは山を超えた森の東北に接している[エフロンティア帝国]。この国は領土拡大思考の強い魔導国家です。皇帝が収めている国で人種の坩堝と呼べるほど多民族の王を配下に加えている大きな国です。


「うへぇ、血気盛んそうだね。やり合うことにならなければいいけど」

『ドラゴンを恐れるぐらいですから問題ないでしょう。それに山脈を越え他向こう側なので接触はないかもしれませんね』

「よほどのことがない限り帝国は山脈を超えて来ないと思います。山脈には魔物ではない本物のドラゴン・・・・・・・が多数いますから」


 ガムちゃんがサラッととんでもないことを言ったけど突っ込む暇もなく次の国の話題へと移ってしまった。


 次は、[帝国]の東側にあり、北東から南東の森と接している[グルジア神聖国]だ。教皇が治めるこの国は宗教が主軸に置かれている。そのため布教活動に専念しており侵略行為はしていないようだ。


「神聖国は神を冒涜しない限り平和主義なので安全でしょう」

『宗教国家ですか……』

「他国に布教ってそれ宗教的制圧する気満々じゃん。全然平和主義じゃないよ」


 私達の言葉にガムちゃんは不思議そうにしていたのできちんと説明してあげることにした。

 国のトップが信者になった場合実質教皇の下に付くことになる。トップがだめでも国民の過半数を信者にすれば実験を握ったも同然だ。聖戦の名のもとに軍事クーデターや市民反乱何でもやりたい放題だ。

 内戦で荒れたところに神聖国が人道支援をすれば信者の比率はさらに上がりそのうちトップが信者になるだろう。


「その侵略は誰も気がついていないかもしれません」

「そうよ、宗教国家は一番注意が必要よ」

『とは言ってもここにはマスターしかいないのでその危険もないですよ』

「そう言われればそうね」

 

 私はこの話を打ち切り3カ国目について聞くことにした。


 森の南西に接しているのが[スモトレシア王国]。王国は、その名の通り王が治める国で貴族が衰退し王がすべての権限を握る絶対王政にまで成熟している国だ。領土拡大はしておらず常備軍が北の国境で帝国と度々小競り合いをしている。


「王国は警戒しなくても良さそう?」

「領土拡大は狙っていませんが王国の学生が演習で森に入ることがあります」

『侵略の意思はないけど森には入ってくるのですね遭遇するかもしれませんね』


 最後は南にある小さな国[スネーブ公国]です。ここは代表が王ではない貴族制度の国だ。各貴族が領土を持っており元はスモトレシアの一部だったようだが、絶対王政に移行する際に実力のある貴族を切り離す形で独立を認めた(というか追い出した)経緯があるそうです。


「公国が一番安全かな?」

「そうですね。領土拡大もしていませんし、経済発展に力を入れている国ですのでそのうち貿易国家のようになるのではないかと言われています」

『それは丁度いいですね。商人がたくさんいるなら、付き合いやすそうですね』


 ティエルの言う通り商人とはとても付き合いやすい。なぜかといえばこの広い宇宙で商人をしている人は種族や文化が違えども、性格や行動原理が非常に似ている。なので、この星の商人も同じような性格になっていれば非常にやりやすいだろうね。


「商人はどこの国でも同じとは言いますが宇宙もなのですか?」

「そうだよー」

『感情は殺し利益に飛びつき不利益からは消えるようにいなくなる。こちらも同じでしょう?』

「同じですね、商人なら多少怪しくても利益があれば協力的です」


 各国の情勢を聞いた結果、行くべきところは決まった。こうして初めて遠出をする事が決定したのでした。


「よーし!一番近いスネーブ公国の街ヘ行きましょう!」


 さあ行くぞと気合を入れているとティエルからツッコミが入った。


『その前に拠点を留守にする準備をしてくださいね』


 私はこの後準備に2日間も使用する亊となった。


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