第11話 異世界工具無双
右腕のガントレットに搭載されている[空間圧縮スペース]から仕事に使っていた工具を取り出した。D字型をしているこの工具の名前は[プラズマカッター]です。
これは鉄板などを切断するときに使うもので。原理は先端にプラズマアークを発生させた後にナノドローンで安定化させ、それを射出し対象にぶつけることで溶断する工具です。
D字の平らな方を握り構えると自動的に起動し底面と上面から前方に向けて緑色のガイドレーザーが二本照射されます。トリガーを引けばプラズマアークが飛び出て緑のレーザーの間を切断するのです。
私は大きすぎてエラーがでた倒木に[プラズマカッター]を向ける。ちょうど真ん中あたりに照準を合わせたらトリガーを引く。
ヴィォン!と短く低い音と供に緑のガイドレーザーの間に弧を描いた青い光が走る。それは凄まじい速度であっという間に倒木をまっぷたつに溶断した。熱で焼き切ったため切断面は丸焦げで今にも火が付きそうなほど、煙を上げている。
粉砕機の工業アームが短くなった木材に反応し片方を持ち上げる。そして唸りを上げて回転し始めたシュレッター部分に投げ込んだ。
メキメキと木が潰される音がし、直ぐにウッドチップが搬出口からベルトコンベアへと流れていった。
「よし動き出したね」
ウッドチップがコンベアに乗ってガス化炉へと流れていく。ウッドチップを受け取ったガス化炉はすぐにバイオ燃料を生成し始める。
円柱部分のタンクにウッドチップが入り加熱し始める。無酸素状態で加熱されたウッドチップは熱分解され可燃性のガスを排出し始める。そのガスを凝縮し液体になったものがバイオ燃料です。
私は直ぐにガス化炉の後ろに回り込み、バイオ燃料排出口をじっと見つめる。
「来た!」
少量だがパイプを通り発電機へと流れていく。しかしエンジンを動かすほどの量がないため稼働はまだ時間がかかりそうです。
私は倒木をどんどん運び粉砕機の横に積み上げていく。長いものはプラズマカッターで切断し、太い枝が残っていればそれも切り落とす。
ウッドチップの生産は順調だったけど、生産量が消費量を上回り停止した。
「あとはのんびり待つだけだね~」
私は積み上げた丸太の上に座り発電が始まるまで、ゆっくりとすることにした。
ぼーっとガス化炉を眺めていたらどうやら一回目の燃焼が終了したようです。真っ黒になったウッドチップが副産物として排出されていきます。
この真っ黒になったウッドチップは木炭です。畑の肥料になったりちょっと加工すれば活性炭にもなる。ナノドローン分解すれば炭素資源として回収できたりといろいろな場面で使えるんだよね。
ガス化炉が二度目の抽出に入る頃には発電機が動き出し送電キューブの光が強くなっていく。日が落ちて周囲が暗くなり始めるのとの反するようにキューブの光は強くなる。
消費したスーツのエネルギーが最大量に達する頃にはあたりはすっかりと暗くなっていた。
「スーツの充電も満タンになったし本日の業務は終了です!」
木材の山から飛び降りて家へ入ろうとしたその時だった。
ドルルルルルルル!
突然セントリーガンが発砲し始めた!
慌てて射撃先を見る。赤い照準レーザーの先は暗い森の中へと伸びていた。その暗闇には充電キューブの青い光を反射していくつもの目が怪しく光っていた。
『マスター!多数の生体反応があります、該当パターンあり!』
開け放しの扉からティエルが大声を上げながら外へと出てきた。
『これはゴブリンです!』
私のもとに来る間に襲撃者の正体が判明したようだ。私を囲んでボコボコにした奴らだ!やっと建造したエネルギー生産ラインを壊されてたまるもんですか!
返り討ちにしてあげる!
「殲滅するよ!数は!?」
無数の光る眼にセントリーガンの残弾数が気になり敵の数を聞き出す。確か残弾は……2000以下だ。
『レーダーで捉えた数だけで百は超えています!続々増えているようです!』
「多すぎでしょ! 一匹に何発も撃ってたら弾が足りないよ! 斉射停止!頭を一発で確実に仕留めて!」
面制圧しているセントリーガンの設定を変更して、
『設定変更完了、撃ち漏らしがこちらに抜けてきます!』
セントリーガンの発砲音が連続したものではなく単発のタン、タン、タン、タン!という音に変わり、ついにゴブリンが森の中から送電キューブの光の範囲に姿を表した。
「来なさいゴブリン共!」
私は手に持っていたプラズマカッターを構える。この工具の射程は2mほどなのでギリギリまで引きつける。
昨日の昼間に見た緑チビが太い木の枝を振り上げ突撃してくる。
『三匹突破してきます!ラベリングします』
撃ち漏らしは三匹!スーツの内部ディスプレイにゴブリンの位置と距離が見やすく表示される。それはゴブリンの輪郭に黄色いラインが付きその中心には距離が出るというものです。
「大丈夫……。スペースクローチを千匹駆除した時のことを思い出すのよ……」
エンジンルームに寄生していた犬ほど大きなゴキブリであるスペースクローチとの戦いが脳裏をよぎる。数あるメカニック工具を駆使してたった一人で駆逐したあの地獄を思えば、これぐらいなんともないわ!
ゲギャガ!ゲギャ!
プラズマカッターを横にして走り寄ってくるゴブリンをガイドレーザーの間に入れる。私は覚悟を決めてトリガーを引いた。
弧を描いた青がゴブリンの鼻の頭をちょうど通り抜けた。そしてズルリと頭部がズレ落ちた。頭の上半分を失ったゴブリンは走った勢いで前のめりに崩れるように倒れる。頭の切断面は焼けていて血が溢れることはなかった。
「行ける!」
二匹目に照準を合わせてトリガーを引くと、今度は見事に首を切り飛ばした。続いて三匹目は頭を斜めに切り取り倒した。
「流れてくるタイミングがベスト! これならいくら来ても平気だよ!」
パラパラと流れてくるゴブリンを的確に仕留めていく。数が減ってきたようでうち漏らしというより、意図的に通しているぐらいにまでゴブリンがへり、ついには銃声が止まった。
『動体検知ありません殲滅を確認しました』
あたりが静けさに包まれ大規模な襲撃が終わったことがよく分かる。私はカッターを構えるのをやめて腰に手を当て一息ついた。
「ふー! 一体何だったんだろ? それにしてもゴブリンてあんなに居るんだね」
『257匹倒しましたね。マスターの周りがM粒子ですごいことになってますよ』
あの紫がまとわりついているかと思うと思わず身震いをする。
「もう気持ち悪いこと言わないでよ」
『初めに倒したものはもう死体に戻って結晶化し始めていますね。全部拾い集めましょう』
ティエルはまだあの宝石に興味があるみたいだ。これだけいっぱいあると、これは貴重なものではないようだ。日も落ちたこの時間に草むらに散らばった宝石を拾い集めるのは面倒くさそうだ。
「明日でいい? 流石にめんど――――」
ティエルに宝石集めを先送りしようと提案しようとしたその時だった!
ズシン!ズシン!と何か大きな地響きがする! そしてすぐに木を引き裂く音と倒れた樹の葉が地面に触れる音がし始めた。
それはどんどんとこちらに向かってきているようだ!
『二足歩行の大きな生物がこちらに近づいてきます! まもなく広場に到達します警戒してください!』
私は、カッターをもう一度音がする方に構え直した。
「何が来るの!? またドラゴンじゃないでしょうね!?」
暗闇の中からとても大きな灰色をした手がにゅっと現れた。一番手前の木に手をかけると、その木を軽々となぎ倒した。大きな足が広場に一歩踏み込む!そのつま先は象の蹄のようになっていてる。森の暗闇からついに音の主の顔がぬっと現れた。
醜悪な灰色の顔を持つその巨体は、ニヤニヤと笑いながら私や施設をなめるように見回した……。
「あれはトロル!?」
私は三匹目のファンタジーモンスターとの遭遇に戦慄した!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます