第12話 ウェルディングビーム!

「アイツはまずい! セントリーガン、斉射開始!」


 私はすぐにセントリーガンに斉射命令を出した。残弾はかなり少ないのですぐに弾切れになるだろう。プラズマカッターでは太刀打ちできなそうな巨体なので、その間に私は別の工具を取り出す。この工具は一番取り扱いに注意しなければいけないものです。


『残弾946発!18.92秒しか足止めできません!』


 予想通りあまり時間がない!私は急いで腕部の[空間圧縮スペース]から私の身長と同じぐらいの巨大な工具を取り出し地面に置く。


 これはウェルディングビームという工具です。工具というよりも大型のレーザー砲のような見た目をしている。用途は大型艦の装甲を溶接する工具で高熱で装甲を溶かしつつ溶けた金属をビームに乗せることにより、遠距離で肉盛り加工ができるビームです。


 巨大な砲身の手前上部に横向のグリップがあり最後方にはトリガーがついた縦型のグリップがある。横向きのグリップを左手で持ちスーツのパワーアシストを使い軽々持ち上げる。次に接続ケーブルを引っ張り出しパックパックへと接続する。


「有線式工具のパワーを見せてあげる!」

《クログリツール、ウェルディングビームオンライン》


 そう!この工具は、パワー&パワー!でおなじみの[クログリ重工]の製品です。無線送電時代において唯一有線式の超パワー重視メーカー!


 接続と同時に電源が入る。右手でトリガーをカチ、カチカチ、カチカチとリズムよく5回引く!これはリズムコードと呼ばれるものだ。リズムコードを入れると安全装置が解除され内部機関で金属の融解が始まった。


 ボバアアアア!


 斉射しているセントリーガンがトロルに叫び声をあげさせているが、ドラゴンより肉厚なあの巨体には足止めぐらいが関の山だ。ドラゴンのように外皮が固くても内部に衝撃を伝えられればダメージを期待できたのに!ドラゴンとは逆に表面は傷つくけれども柔らかい皮膚がブルンと揺れ衝撃が内部に伝わっていないようです。

 思った通り唸りを上げていたセントリーガンは、トロルを倒せず弾切れしてカラカラと情けない音を出しながら全機停止した。


《ウェルビングビーム、レディ》

『残弾なし! 大型二足歩行生物のダメージが回復しています! 直ぐにこちらへ来ます!』


 工具の起動準備が完了したと同時にティエルが警告を発する。私の知識通りやはりトロルは回復能力が高いようだ。ズタボロになった皮膚はみるみるうちに傷がふさがっていく。


 トロルが動き始めると同時にビームを構える。大雑把にトロルの胴体の中心に狙いをつけて思いっきりトリガーを引いた!


 砲身がキュイーン!という唸り声をあげた後にビィィィンという何かが振動するような音を立てて砲身からオレンジ色のビームが射出される!


 ビームはトロルの下腹部に命中し体に溶けた金属が付着する! バオアアア!と、トロルが叫び断末魔をあげはじめるが、動いてる限り構わずトリガーを引きっぱなしにする。流石にトロルも足を止めて膝をついた。狙いがつけやすくなったので重い銃身を上げ狙いを下腹部から頭へと移していく。


「おりゃあああ! 再生系の生物は焼けばいいって相場が決まってるのよ!」


 ビームが下腹部から胸と順番に焼きながら頭まで到達すると、さすがのトロルも叫び声をあげなくなり地面に倒れた。

 私はウェルディングビームのトリガーから手を離した。すると排気口から蒸気を含んだ熱い空気がブシューっと吐き出された。


『目標完全に停止! M粒子の放出を確認、対象は機能停止しました』


 ティエルの死亡確認通知を聞くと一気に疲れが襲ってきた。


「もういない? 流石に疲れたよぉ~」

『周囲に反応ありません。あれで最後だったようです』


 安心した私は、地面に座り込むと排熱が終わったウェルディングビームの電源を落とし収納した。


 ちょっとゆっくりしようと思ったが、ティエルがゴブリンたちの宝石を集めろとうるさいのでしかたなく拾い集めることにした。


 ノロノロと立ち上がるとティエルが催促するようにスーツの内部ディスプレイに宝石の場所を紫色の点で表示した。まずはトロルの宝石を回収することにした。


 草むらを覗き込むとそこには、ドラゴンの宝石の4割ぐらいの大きさの宝石が転がっていた。拳ほどの大きさのその宝石は、濁ったグレーのような色であまりきれいなものではなかった。


 マニピュレータの収納機能を使い、その宝石をバックパックへ吸い込んだ。ふと隣りにあった物体に目が行く。その塊はかなり大きく泡立ったような奇妙な形をしている金属塊だった。この物体の正体に私はピンときた。それはウェルディングビームから発射された金属の成れの果てです。


「あれ?そう言えばビームの金属って何に設定してたっけ?」

『……チタンですね』

「ふぇ?」


 私は最後に工具を使ったのが自分の船の外傷を直したときだったのを思い出した。なんと貴重なチタンを使ってしまったらしい。鉄か銅で十分だったのに、よりによってチタンとは!とほほ……。


『奇跡的に不純物が分離されています。混じり込んだ血や肉もM粒子へと変換したようですね』


 私はその言葉を聞いてホッと胸をなでおろした。妙な物質への変化もなく簡単にリサイクルできそうだ。


 私はマニピュレータをディセンブラモードにして金属塊を素材として回収した。無事に回収できてよかった。後から回収できるから工具の武器転用の切り札になりえそうだと思った。


《ツールの目的外使用の可能性あり! プラズマカッター、ウェルディングビームの報告書を提出してください》


 ツールから音声信号が送られてきた。これから武器として使っていこうかなと思ったらこれだよ。報告書を立ち上げ”害獣駆除”といつものように項目を設定して送信ボタンを押しました。これで組織の管理部に記録映像がいって違反なし認証を受ければお咎めなしです。


『マスターあの……”ツールの目的外使用報告書”が届いています……。送信者はマスターです』

「え?」


 自分で自分に報告書を上げると言う間の抜けたことをしてしまったようです。


「もしかしなくても私が組織のトップになってる?」

『はい、名称未設定遭難部隊の権限者になっています』


 私は、ため息を付きながら自分で書いた報告書に問題無し承認した。


 私は部隊名を[遭難中救援求む!アラウンド・リージョン所属、氏名ミカニ]と変更して、ついでにツールの”目的外使用全面許可”を発令しておいた。

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