拠点建設と夜の異変

第8話 企業ライセンスとハウスポッド!

『マスター。そう言えばドラゴンは倒してしまってよかったのですか?』


 私がゴブリンを攻撃したくなかったのを思い出したのか、ティエルがフヨフヨしながら疑問を投げかけてきた。そうか!ドラゴンが信仰の対象や自然バランスを司っているとかを心配してるのね!


「いいのよ。ドラゴンは初めにしゃべらなかったらだいたい悪者だから」

『はぁ……そうですか……』


 うーん。なにか言いたそうだけどまあいいか……。


「とりあえず作ったものを全部片付けながら墜落現場にいこうかなー」

『そうしましょう』


 私はセントリーガンや壁を素材に戻しながら逃げ回った道を戻り宇宙船を目指す。使用した弾丸は使い物にならなかったけど、その他の建築物はまるごと資源を回収できた。ドラゴンがいなくなった道は快適ですぐに墜落現場にたどり着いた。


 宇宙船は改めて見ると本当にボロボロだ。使える部品があるかもしれないと思ったけどそれは叶わなそうだ。せめてもの救いがお金を掛けたチタン外装などの資源が回収できそうなことだった。


『ディセンブラで解体しましょう。機能不全になっていないものがあれば分解されずに残りますから』


 ティエルの言葉に軽くうなずくと、覚悟を決めて船体を分解していく。カイドレーザーを当ててトリガーを引きバックパックへと資源を収納していく。


 私の船の最後だ……。


 墜落現場から残骸が消え始めると、突然周囲は強い緑色の光に埋め尽くされた!


「あああ! ナノドローン生産機ってめちゃくちゃ眩しい! しんみり気分が台無しになるほど眩しい!」 

『マスター! 早く回収してください! レンズがおかしくなりそうです!』


 私は感に任せて適当にトリガーを引き手当り次第に部品を回収した。


『やっと回収できましたね。ナノドローン生産機とデータボックを回収しました。接続を開始します』


 ティエルがバックパックを通して接続を開始した。すると生産機とデータボックスがオンラインになったと内部ディスプレイに表示された。


『両機器共に正常稼働中です。データ更新中……。遭難コードにより五社の企業ライセンスが追加されました』


 ん? 企業ライセンス!?


 企業ライセンスは、その企業の製品をプリントできる大型プリンターを設置できる権利だ。そのプリンターさえあればその会社の製品を作ることができる。


 すぐに左手の端末を操作し詳細を確認していく。すると五社の製品作成ライセンスが追加されていた。


 パワー&パワー!の宣伝文句で有名なパワー、一点突破の機械メーカー[クログリ重工]。


 時は金なり!最速最強! スピード重視の機械メーカー[フィオラ社]。


 共につくろう貴方の暮らし。すべての生活用品を手掛けるモンスター企業[ルムム]。


 AI技術で手放し生活。すべての機器にAIが付いている全自動機械メーカー[マイクロプト]。


 生きるには食わねば! 大型の農業機器専門メーカー[ジョンベア]。


「おおおお!って通信できないのに、何でライセンス発行できたの?」

『シュア拡大のための売り込みの一環でしょうね。この五社はオフライン機能が組み込まれているようです』


 商魂たくましいとしか言いようがないね……。でも待って、プリンターがあっても製品のアンロックはどうするんだろ? 銀河連邦の通貨であるクレジットすなわち電子マネーは使えないし……。


「でもさ、オフラインだとクレジットが使えないよね?」

『どうやら専用の機器に金を納品するようですね』


 そういうことか……。私が無事に戻れれば金塊をゲット、戻れなかったら企業は製品が作られたことすらわからないと……。企業はやって損はないってことね。


「金か……。金鉱脈でも見つけないと難しいよねー……」

『マスター! まずは現在使えるもので生活の基礎を固めるのが先決ですよ!』


 そうだった今は遭難してて、まだホームレスだった! とりあえず住居ポットを建てて寝る場所を確保しなくては!


「よし!とりあえず。住居ポットを建てよっか!」


 私がそういった時だった。


「○%△&□♪&#」


 どこからか謎の音が聞こえてきた。


「えっ何の音!?」

『宇宙船が衝突した山の上からです!』


 私は恐る恐る山に登り山頂を覗き込んだ。そこには以前にも見た金属製の武具が転がっているだけで他に音を出しそうな物や生物はいなかった。


「なにもな――」

「○%△&□♪&#!」


 また聞こえた! 今度はハッキリとその音の出処がわかった。それは宝飾が施された大きな剣だ!これから音が出ている。


「剣から音が出てる?」

『間違いありません。刀身が振動して音を出しています』


 私は、恐る恐るその剣を手にとって見た。刀身は幅広で両刃で、柄の中心には大きな宝石がありハンドガードや柄頭に細かい飾り細工が施されている。それは、私が持ち上げてからも、様々な音を発している。


「なんかこれ、振ると音がなる剣のおもちゃみたいだね」

『そうですね。細かい装飾もありますし実用品ではなく遊び道具か何かでしょうか?』


 私達が話している間も剣は様々な音を出している。振っても振らなくても剣はずっと音を出している。


『マスターおもちゃで遊んでないで、ハウスポッドを建てましょう』

「そうだね」


 私は、剣を山の頂上に突き刺し平地まで降りていく。山の麓の宇宙船がえぐったあたりに戻ってきた。そしてマニピュレーターを取り出しビルダー機能で簡易住協であるハウスポッドを設置することにした。


 建築物からハウスポットを選択するとガイドレーザーの先にホログラムが表示される。ポッドは私の宇宙船より少し小さいぐらいの大きさがあった。形はドーム型で窓がいくつか付いていて、入口がひとつある。ドアは縦長の楕円型で、少し高いところに付いていた。


「丁度いいや宇宙船が開けた山の穴に建てちゃえ」


 山がUの字型にえぐれた宇宙船があった場所にホログラムを合わせトリガーを引いた。ここなら背後が土の山に守られているのでピッタリの場所だ。

 建設が始まると以前と同じように光が飛び、底面から実体化していく。外観は大きいけど中は空洞なので意外と早く終わった。


 しかし休む場所ができて一安心な気分を害するものがある。それは、いまだに鳴っている山頂の剣だ。あまりうるさいようだったら埋めてしまおう……。


『とりあえずの仮住いができましたね』

「だね~、中はどうなってるか見てみよう」


 ハウスポッドの入口に近づくと自動で私を認識し入り口が開く。扉が前面に倒れてくると、その裏側が階段になっていた。扉が開ききると登れるようになった。ここから中に入るようだ。階段を登り家の中に入ると、ピッピッと警告音を出した後に扉が閉まり始めた。


 中に入って最初に目についたのはグレーとブルーという地味な配色のスーツリペア装置でした。横になり入るタイプのようで作り自体は蓋付きのベットのようだ。悪く言えば棺桶だろうか?

 どうやらスーツを着たまま生活するタイプの家みたいだね。謎原子のせいでスーツが脱げない私にピッタリの家だよ、トホホ。


「あれ? リペア装置があるってことは……」


 私は急いでハウス内を見て回った。


 やっぱり私の思ったとおりだ!トイレも風呂もキッチンもない!というか何もない! リペア装置がある部屋ともう一部屋窓が無い倉庫みたいな部屋があるだけで他には椅子すらないよ!


「最低限がすぎるよ! ここは刑務所なの!?」

『遭難中ですよ? 贅沢言わないでください』


 私の愚痴にすぐにツッコミが入る。ティエルは私にツッコミを入れるとフヨフヨとハウス内を周り、倉庫っぽい部屋をぐるりと一周する。


『こちらが私の部屋ですね』

「どうぞお好きに~」


 私はリぺア装置の蓋を開け椅子代わりに腰掛けた。寝そべる面が高く床まで脚が届かなくてついプラプラと動かしてしまう。


『マスターとりあえず防衛システムを作っておきましょう』

「そっか、ゴブリンが来るかもしれないね。残弾は少ないけど表に四機すべてを設置しておこーっと」


 私はそう言いながらピョンとリペア装置から飛び降りた。そして外への扉の前に立ち扉が開ききるのを待つ。


「……この扉まどろっこしい」


 私は外に出ると、ビルダーでセントリーガンを建てていく。ひとつはハウスポッドの天辺に設置した。ハウスの後ろは山があるので他の三機は前面方向に扇形に設置した。


「残弾は、一機につき五百ほどか……。とりあえず、これでよしっと」


 設置し終わり一息つこうかと思ったら、家の中からティエルが出てきて声をかけられた。


『先程の山頂にあったものをすべて私の部屋に持ってきくれませんか?』

「良いけど、あんなのどうするの?」

『今後の方針を決めるため色々分析して見ようかと思いまして』

「そういうことね、わかったよ取ってくる」


 私はそれほど急ではない土山の斜面を再び登っていく。改めて見ると表面には草が生えていて、この状態になってから結構時間が経っている事がわかる。もしかしたら外側に倒れた木やこの不自然にできた土山はドラゴンがやったのかもしれない。そう考えるとここはアイツの巣だったのかもしれないね。


「○□♪&#&□♪&#」


 私が近寄ると、またあの剣が音を出し始めた。


「うるさいなぁ」


 そう愚痴りながらも私は2本の剣と上半身だけしか無い金属製の鎧を持ち上げる。スーツのアシスト機能で特に重さも感じないが、両手が一杯になってしまった。


「□”♪&#□%♪&#○□♪」


 うるさいから、こいつだけ置いていこうかな……。


 いや、置いていったらディエルが、”すべてって言いましたよね”って怒りそうだね。仕方ないのでスーツのガントレットからサイドアームを出して音が出る宝飾剣を拾おうとした。


その時!


「&#□%!?」


 いきなり剣が大きな音を出した。


「うわびっくりした! なによこれ! 次に大きな音出したらへし折るよ!」


 私が剣に怒鳴りつけると怒りの念が通じたのかとても静かになった。私は大量の荷物を持って山を降り、ハウスポッドに戻る。


 ピピッ、ウィーーーーーン。ガシャン。


 また扉の前で待ちぼうけ……。


「ハウスポッド操作! 扉の開閉をマニュアルに変更!」


 私は、寝るまで扉をあけっぱなしにしておくことに決めたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る