第7話 セントリーガンでドラゴンを!
樹海の地平線から太陽がのぼり始めると、スーツの充電開始音が鳴り日の出を知らせる。弾丸を作り終えると周囲はうっすら明るくなっていた。
「弾丸制作終わり~♪」
近い未来の優雅な暮らしを妄想していたらあっという間に時がすぎていた。こんな状況だが機嫌も良くなるというものです。
『これで弾を込めた状態でセントリーガンが作れますね』
「そう言えば、どこに設置するの?」
私はティエルに疑問をぶつける。
セントリーガンの射程範囲はそれほど広くない。射程範囲ほど近づいてしまったらドラゴンが起きてしまう。
『少し離れたところに、ドラゴンを誘い出す迎撃ポイントを作りましょう』
「誘い出す? ちょっと! 先に作戦を全部説明してよ!」
私は、フヨフヨしているティエルを鷲掴みにして、これからやる事をきちんと説明させた。
ティエリの作戦はこうだ。
まず弾が三千発入ったセントリーガンを4機を迎撃地点に設定した正方形の四隅に設置して、その最奥に私が隠れる場所を作る。隠れ場所は噴石シェルターという石でできたドームを使用する。入り口を広場の外に向ければ、中に炎を吐くために回り込まないといけない。
そうすることで化物を迎撃ポイントの中央におびき出すようだ。その後はセントリーガンが弾を撃ち込むだけだ。
「で……。どうやって迎撃地点まで連れてくるの?」
『マスターが防御用の石壁を作りながら近づいて、発見されたらその壁で炎を回避しつつ噴石シェルターに逃げ込んでください』
「…………」
私は、絶句した。以前遭遇し死にかけた相手にまた挑めって言うんだもの……。
「……他の手段は?」
『射程が長い火薬仕様のセントリーガンを作るとなると、砂鉄から初めて……登山をして硫黄を集めるので……二年もあれば火薬を使った弾丸ができるかもしれませんね』
「二年!?」
『ああ! これはあの化け物があそこから動かない想定です』
私はその可能性をまったく考えていなかった。ドラゴンにまた不意打ちされるは危険すぎる。それなら装備がギリギリでもこっちから攻撃を仕掛けて倒してしまったほうが良いはず。
「やるしか無いね」
私は覚悟を決めて迎撃地点の整備に取り掛かった。
私はディセンブラモードで邪魔な木を素材にしてスペースを確保していく。弾製造と違いこちらは素早く終わり昼前には十分なスペースができた。木がなくなった部分が凸凹だけど問題ない範囲だ。
「よし、次はビルダーだね! テンション上がってきたよ!」
『ビルダーモードは建設する物を設定するとガイドレーザーの先にホログラムがでます。トリガーを引けば建設が開始されます』
私はマニピュレータをビルダーモードにした後に、[セントリーガン(石ペレット3000)]を選択する。
すると、ティエリの言っていたとおりに、ガイドレーザーを照射しているところにホログラムが表示された。そのホログラムが迎撃地点の端になるように動かした。
「よし! まずはここに」
トリガーを引くと、素材採取とは逆にバックパックから光の粒子がホログラムへと飛んで行き底面から建造が始まった。光の粒子が土台を作り始め弾薬庫に差し掛かると石のペレット弾が光の粒子にまじりだした。指定通りに弾込めも建設中にやってくれているようだ。
「うわー、ビルダーってすごいなぁ。リペアーでの修理とはまた一味違う感じだねぇ」
『そうですね。リペアーは傷が塞がる感じですが、ビルダーは生えるという感じですね』
「おおっ、いい表現だねティエル! じゃあ残りの3機も生やしちゃおう!」
さほど時間もかからず残りの3機も設置し終えると、私が隠れるシェルターを作ることにする。
「次は噴石シェルターを建設しよう」
『位置は広場の最奥です』
ビルダーでちゃちゃっと噴石シェルターを建てる。火山地帯に建てる簡易的なものなのですぐに建設できた。
さて、いよいよ壁を作りながら進むチキンレースの開始だね……あれ? 私はある疑問が浮かんだのでティエリに質問した。
「そうだ、石の壁って言ったけどビルダーにそんな単純な物もあるの?」
『庭用の塀ですね。どんな石材でも作れます。花崗岩は耐熱性能が低いですが問題ありません』
ん? 耐熱性能が低い?
「ちょっと聞き捨てならないんだけど、耐熱性能が弱いってどういう事?」
私の疑問にティエルが答えてくれた。花崗岩は他の石材に比べると熱に弱いので防壁には向かないらしい。だけど数秒耐えれば十分なので問題ないらしい。
「別の石を探している最中に襲撃されても困る……よし! ティエルを信じるよ!」
また死にそうになるのが怖かったけど、ティエルが言うなら大丈夫なはず!私は気合を入れて壁作りを始めた。
壁を感覚を開け互い違いに設置しながらドラゴンへ近づいていく。邪魔な木があれば素材として回収し、宇宙船がえぐり取った地面までついたらその上に作っていく。
森が開けるとついに寝ているドラゴンが見えた。ここから先はドラゴンのブレスの範囲内だ。これ以上近づく必要はないだろう。
「まだ起きないけど、どうするの?」
私は小声でティエルに話しかけた。
《意外と鈍感ですね、強者の余裕でしょうか? 石でも投げますか?》
帰ってきたのはスーツを通しての通信だった。
ん? なんで通信? 私はあたりをキョロキョロと見回した。
あれ? ティエルがいない!
〈ちょっと! なんで付いてきてないのよ!〉
《私は移動が遅いので……。それに両方ダウンしては大問題ですから私はドームで待っています》
あーもう! 自分だけ安全なところに! 本当は危険なことこそAIがやってくれればいいのに!
《ちゃんとした人型のボディを買ってくれていれば、お手伝いできたのですが、残念です》
私の心を読んだかのような通信が入る……。スーツと特注の宇宙船に予算を使い切りティエルのボディに回さなかったことをまだ根に持っているのね……。
「いつかボディを買ってこき使ってやるんだから!」
あ……!
ドラゴンは私の大声でムクリと起き上がるとすぐに私を見つけた……。そして羽をばたつかせて空に飛び上がり私に向かってもうスピードで迫ってきた。
「わわわ!」
私は急いで走り出した!
ブーツのアシスト機能を全壊にして大地を強く蹴り全力で逃げていく。互い違いに配置された壁に隠れながらジグザグに走る。
スタートが遅れたのですぐにブレス攻撃が飛んできた!
「待って待って! わたしが悪かったって! ウヒィ!」
すぐに壁の後ろに隠れブレスをやり過ごす。ブレスを受けた石壁はピシリと音を立てヒビが入りドラゴンのホバリングの風圧を受けるとボロボロと崩れ落ちた。
ティエルの言ったとおり熱に弱いようだけど一度は耐えるようなので隠れながら逃げていく。ブレスを吐きながら追ってくるせいなのか、ジグザグ走行で付かず離れず良い距離を保っている。
お? いい感じだね! このまま行けば私の勝ちだね!
「ホラホラこっちだよ!」
余裕が出てきたので煽る余裕も出てきた。このまま何のトラブルもなく進みついにドームまでたどり着いた。
「ミカニ選手、いま一着でゴールしました!」
『マスターよくできました。セントリーガン、オンライン! 射程圏内に捉えました』
ティエルが、セントリーガンのカメラ映像をモニターに回してくれる。
「セントリーガン、ファイア!」
私の掛け声で待機していたセントリーガン四機が唸り声を上げ始める。
ドルルルルルルル! という独特な音を出しながら弾丸をばらまき始めた。
銃身が四本あるガトリングタイプのセントリーガンは毎分三千発の弾丸を発射する。銃身から飛び出した弾丸はドラゴンに吸い込まれるように全弾命中する。照準はオートで行われ四機でドラゴンの体にまんべんなく撃ち込んでいる。
「あははは、デカイから全部当たるね!」
『旧型と言っても外すほど性能は低くありません』
グルウアアアア!
銃弾を受けたドラゴンはその圧力に思わず身をよじる。硬い鱗は貫けていないが体の内部にかなりのダメージを与えているようだ。
「ありゃ~、貫通しなかったか~」
『やはり石の弾丸では威力不足ですね』
想定内なのでこのまま撃ち続ける。
するとドラゴンがようやく攻撃しているのがセントリーガンだとわかったようで、1機に向けてブレスを吐こうと口を開けた。
『来ました! 口の中を狙います!』
ティエルが狙われたセントリーガンの操縦を受け持ち口の中を狙う。
発射された弾丸は、鱗の無い口内を的確に捉え弾丸を撃ち込んでいく。
グロロロロロ!
ブレスを中断するとドラゴンは、口から大量の血を吐き出した。
「効いてる! いけるよティエル!」
ドラゴンは形勢不利と見たのか、翼を羽ばたかせ空に飛び上がろうとする。
『逃しませんよ!』
ティエルは即座に反応しドラゴンの背後の2機を使い翼を撃ち抜いた。
『あの細い翼は、やっぱり貧弱です!』
グルオアアア!
飛べなくなったドラゴンは歩いて逃げようとし始めたが、すごく体が重そうだ。
『動きが極端に鈍くなりましたね……。もしかしてあの羽は、重力制御を行っていたのでしょうか?』
「そうか、それで脆くても貧弱でも問題なかったのね」
ブレスと飛行を封じられたドラゴンは、もはや何の驚異にもならない。まるで消化試合のように、まったりと喋りながらドラゴンが動かなくなるまで銃弾を打ち込んだ。
「動かなくなったね」
私は、死亡を確認しようとドームから出でて数歩近づいたその時だった。なんとドラゴンにもゴブリンと同じ現象が起こったのだ。
『超大なM粒子がこちらに向かってきます! モニターに出します!』
ティエルがそう言ってモニターにM粒子を表示すると、すでに視界がすべて紫で埋まった。
「うわスッゴい! 何も見えない!」
二度目だったので慌てず、しばらく待つと以前と同じようにM粒子はドラゴンへと戻っていった。そして、ドラゴンはキラキラと光り出しホログラムが解除されるようにすうっと消えていった。
『また宝石になったようですね。見に行きましょう』
「また回収するの?」
『もちろんです』
私は砕けたペレット弾で散らかった広場を進みドラゴンがいた場所を確認する。
「うわデッカ!」
ドラゴンの宝石は、ゴブリンの物より遥かに大きくてきれいな赤色です。その大きさは私の頭ほどありとても大きい。
『また回収しておきましょうか』
「はいはい」
私は、大きな宝石をバックパックに収納した。
ついにドラゴンとの決着が付いた……。時間にすると一日もたってないのに、まるで何日も掛かったような達成感があった。
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