第4話 緑のアイツと遭遇!


「さてさて、次は何する? もう拠点を作り始めるの?」

『いえ、まずは何かと必要になるナノドローンの補充です。宇宙船の残骸からナノドローン生産機を回収しに行きましょう』


 ナノドローンは便利だけど小さすぎて修理ができない消耗品なんだよね。そのためナノドローン生産機は、宇宙船に必ず備え付けられているんだ。


 生産機の見た目は、緑色に光るキューブ状で、裸眼で見ると目が痛い。宇宙連邦の機械技術は、ナノドローンが中核にある。なので、生産機がないと、そのうちナノドローンを消耗しきって機械が止まっちゃう。


「そうか~、まずはそこからだね。あれが壊れてたら気軽にマニピュレータを使えないもんね」


 私は、そう言いながら手に持ったツールを見つめる。私が心配していたらティエリが不安を消す情報をくれる。


『すべての情報を記憶しているデータボックスと同じぐらいの強度なので心配ないと思います。船が燃え尽きても両方無事でしょう』

「そういえば、メカニック初級試験で習ったね。その二つは修理しないから忘れてたよ」


 ちょっとしたきっかけで、実務ではまったく必要なかった知識を思い出した。私は安心してマニピュレータをバックパックの側面ホルダーに戻した。


 あー! そう言えばあのデータボックスには、最新刊が3つも入ってるんだ! 必ず取り返さなければ!


 私は気持ちを切り替え墜落地点へと向かうことにした。さてと落下地点はどこかな。


「ディスプレイに墜落予測地点の距離と方角の表示をお願い」

『了解しました』


 ティエルがサポートを開始する。スーツの内部ディスプレイに墜落予想地点のアイコンとその下に距離が表示される。アイコンは小さく、下に出いている数値も大きいので意外に遠くにあることがわかった。私は、それを頼りにまっすぐ森の中へと入って行った。


「意外と離れてるね」

『大事をとって落下地点を大幅にずらしたので、これだけ距離が離れてしまいました』

「そうね脱出したのに宇宙船とぶつかったら元も子もないもんね。森を歩くぐらいどってこと無いか」


 私はティエルと軽く雑談しながら森の中をどんどん進んでいく。


 ――しかし私達は、まだわかっていなかった。ここがどんな場所なのかを……。

 

『マスター! 後方に動体を検知! なにか居ます!』


 私はディスプレイに表示された警告アイコンを頼りにすぐに振り返った。


 ギゲッゲエケ!


 振り返るとそこには、緑の肌をした二足歩行の生物がいた。その生物は人型で背は私よりだいぶ低く子供のような体型だ。髪はなく尖った耳で手足の爪は人型なのに獣のように鋭い。歯も黄色い牙でそれが、ぐちゃぐちゃの歯並びなので嫌悪感がすごい。


 腰には獣から剥ぎ取ったままのような粗末な毛皮を巻いており、手には太い棒を持っている。


「ウソウソウソ! ゴゴゴゴゴッゴゴゴ」

『この星の生物のようですね。当たり前ですがデータベースに該当するものはありません』

「ゴブリンだー!」


 私が大好きなファンタジーに出てくるあのゴブリンだ! まるで最先端アニマトロニクスのように、ごく自然に動いている。


「うわー本物だよすごいよー! 超高度なアニマトロニクスかな?」

『聞いていますかマスター? 呼吸と血流があるので、間違いなく生物です』


 生物!!! アニマトロニクスじゃない本物だ!


「どうしようティエル! 生ゴブリンだよ! すごいよ世紀の大発見だよ!」

『未知の原子のM粒子のほうが大発見だと思うのですが……』


 目の前のゴブリンは棒を構えながらりジリジリと近づいてきた。


『マスターあの生物は攻撃の意志があるようです。蹴り飛ばすなりして追い払いましょう。なんなら私が電気ショックでビリッとしますか?』


 追い払う? 電気ショック?


「ダメ! うかつに攻撃しちゃ! ゴブリンはレイプ野郎から進化しまくってすごいやつになる善良タイプまでかなり幅が広いの! ここは涙を飲んで接触を避けるべきよ!」


 そう言うと私は後ろ髪を引かれる思いで逃げることにした。


「今はまだその時じゃないわ! また会いましょう! さよならゴブリンさん!」


 そう言ってティエルをむんずと掴む。オシャレと機能を兼ね備えた素晴らしいブーツの走行アシスト機能を使いぐんぐんとスピードを上げゴブリンを引き離していった。


 ――しかし、離れていくゴブリンがニヤリと笑った事を私達は気が付かなかった……。


 木の根や下草で足元が悪い森の中を苦もなく走り抜けていく。なぜならティエリの視覚サポートがあるからです。走りやすい平らなところはうっすら青で示され、足を取られそうな場所は赤で示されているのです。


「もうここまでくれば追いつけなっ!!!」


 少し背の高い草地に足を踏み入れたときでした。私は足に何かを引っ掛け見事に転倒した。


「あうっ! なにこれ!」


 私が足元を見ると草地には草をふた株結んで作られた半円状の罠がたくさん仕掛けられていた。


『なんと原始的な罠! 完全に想定外でした! 申し訳ありませんマスター!』

「うわー! これは油断して新人がやられるタイプのゴブリンか!」


 ティエルの常識では罠と言えば地雷などの兵器だ。草を結んで作った罠など完全に想定外だ。私はすぐに立ち上がり再び走り出そうとした。


 でも、罠が仕掛けられていたということは、もちろんそれを仕掛けたヤツもいるわけで……。


『囲まれてしまいましたね……』

「ヤバい! 苗床エンドは嫌ー!」


 私はゴブリン5体に取り囲まれていた。いや、私を追ってきたもう一体が合流し計6体のゴブリンに囲まれた。


 どうするべきか悩んでいる私に向かいゴブリンは棒を振り下ろした。正面の一回目をかわすまでは良かったんだけど、避けたところで後ろから後頭部をガゴン!


 追撃が来てガゴン! ガゴン! ガゴン!


「あれ?」


 ゴブリンは必死に棒で私を殴っているが、スーツは頑丈でまったくダメージがない。それどころか振動すら響かない。


『マスター相手は棒ですからね……』

「ですよねー。エンジンの爆発や船体に挟まれる事が想定されてるのがメカニックスーツだもんね……」


 その間もゴブリンの無駄な攻撃は続いている。


「あーもう! 鬱陶しい!」


 私はゴブリンの一人へと近寄る。ビビらしてくれたお礼だと言わんばかりに胸に狙いをつけて、つま先で思い切り蹴り上げた。アシスト付き・・・・・・のブーツで……。


 グ……ゲ……。


 私の蹴りを食らったゴブリンは胸を抑えてうつ伏せになった。そして、大量の緑色の液体を口から垂れ流すとピクリとも動かなくなっちゃった。


 それを見た他のゴブリンは攻撃をやめてすぐに距離をとった。倒れている個体を挟んで私とにらみ合い状態になった。


「え? うそ……。しん……じゃった?」

『何やってるんですか!? ブーツのつま先は物を落としたりハッチに挟まれても平気なように一番硬い場所じゃないですか!』


 ブーツの先は丸いからそんなに痛くないと思ったんだけど……私は背筋に嫌な汗をかく……。まだこのゴブリンたちが悪だという確証がなかったからです。実はとんでもない事をしてしまったんではないかと頭の中が後悔でいっぱいになる。


「マスター! 倒れている個体から離れてください!」


 混乱していたけど、ティエルの警告で反射的に飛び退いた。


 見た目では特に変化がないけど一体何事だろう?


『M粒子が倒れた個体から、ものすごい勢いで放出されています! 内部ディスプレイに紫色で表示します!』


 ティエリの操作により私にも謎の粒子が目視できるようになった。警告の通りゴブリンの体全体から紫のモヤに見えるM粒子が立ちのぼり、私の腰ぐらいの高さで凝縮し始めた。


「こちらに向かってきます!」


 ティエルがそういった瞬間に凝縮したM粒子は私に向かって飛んできた。


「うわ何なのよこれ!?」

『警告! M粒子がスーツ内に侵入を試みています!』


 私は訳のわからない物がスーツ内に入ってこようとしていると聞き恐怖に駆られる。腕をむちゃくちゃに振り回し振り払おうとするが紫のモヤの動きは止まらない。


 腕を振り回し始めた私に驚いた緑チビ達は倒れた仲間をそのまま放置して逃げていった。


「うわああ! どっどうにかできないの!?」

『吸気フィルターは完全に機能していますね、鬱陶しいだけで問題はなさそうです』


 ティエルに落ち着いたトーンでそう言われると、私は落ち着き暴れるのをやめた。


 スーツにまとわりついている紫のモヤをじっと観察する。侵入しようと体の周囲を回る動きがじょじょに鈍くなって来ると、紫のモヤは倒れたゴブリンへと戻っていった。


『何だったのでしょうか……』

「私に聞かれてもこまる……」


 私は手を顎に当てて首を傾げる。


 M粒子が戻った個体を呆然と眺めていると変化が起こり始めた。ゴブリンの体がキラキラと光り出したと思ったらホログラムが解除されるようにすうっと消えていった。


 吐いたはずの液体も消えて、まるでそこには何もなかったかのようだった。


「消えた?」

『マスター! 倒れていた場所に高密度のM粒子反応があります』


 私が、覗き込むようにして草の隙間を見るとそこには、緑色をした宝石のようなものが落ちていた。


「宝石? あいつが持ってたの?」

『どうやらこれは、M粒子が結晶化した物のようですね』


 私は、木の枝を拾いその宝石を突いてみるが特に何の変化はない。ひっくり返したり強めに突いてみたりしたが、やはり何も起こらない。


『先程の現象を解析してみたのですが、あの生物の肉体がM粒子となり結晶化したようです』


 私は、ティエルの予測に首を傾げる。


「どういう事? 生物が粒子になって結晶化したの?」

『まだ確信は持てませんが先程の生物らしきものは、M粒子を使った生体兵器かもしれません……』


 私はそんな馬鹿な事があるかと思った。でもよくよく考えれば死ぬと宝石になる生き物より、謎の技術で作られた自立兵器のような存在のほうがまだ納得できる。


 メカニックスーツにも同じような機能がある。着用者が完全に死亡すると機密保持のためにナノドローンにより体ごと完全分解されるんだよね。


 それともう一つ似たような発想の自立兵器があるのも知っている。その自立兵器は行動不能になると機密保持のためナノドローンによる再構築で素材キューブに変化する機能があった。ティエルはそれと似たようなものだと考えたのかな?


「とにかく奴らは、いなくなったから宇宙船探しに戻ろう」

『待ってください。あの宝石をサンプルとして回収してください』

「ええー、スーツに入り込もうとしてた物質の結晶とか危なくない?」


 私は、なるべくなら関わりたくないので放置したかったけどティエルは違うようだ。


『恐怖の根源は未知です。なので解析さえ済んでしまえば、その恐怖はなくなるはずですよ』

「それはそうだけど……。しょうがないなぁ」


 マニピュレータの収納機能を使い、バックパックへその宝石を吸い込んだ。そして、中断されていた目的を果たすべく船の墜落地点へと移動を始めた。


 ――これが、私達が初めて魔物・・と遭遇した事件であった。そして、さらなる強敵が待ち構える地へと歩を進めるのであった。

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