第2話 私はしがないメカニックです!

 果てしなく広がるこの宇宙。


 この宇宙には銀河の中心から伸びる42本の帯がある。


 この帯の中は、とても穏やかで様々な惑星が漂っている。その惑星郡には様々な生物がいる。科学知識を得て宇宙に飛び出している生物も多種に渡る。


 その中にはもちろん他種族と相いれない種族もいる。そんな危険な種族に対抗するため平和を願う種族が[銀河連邦]という組織を作った。


 敵勢力との間で大規模な戦争が起こり日夜激しい戦いを繰り広げている……。


 しかし、銀河連邦に所属していながらも、そんな戦地とは関係の無い場所で暮らす人々が大勢いる。戦争が起こっているとはいえ銀河規模で言ったらごく小さいものだ。殆どの人々は戦争どころか敵勢力を一度も見ないで人生を終える者ばかりである。


 この物語はそんな平凡な宇宙の住人だった少女の物語である。



 ハロー! 私はミカニ! 職業は機械類の修理から製造まで行うメカニックだよ!


 私が今いるのは辺境の宇宙ステーションです。周りには惑星もなくポツンとなにもないところに浮かんでいます。なぜそんなところにいるかと言えば現在お仕事中だからです!


 私は今日もお気に入りのメカニックスーツに身を包み宇宙船の修理作業中です。というかスーツは宇宙服も兼ねているので惑星の大気圏内以外ではスーツは着っぱなしなんだけどね。


 今は宇宙貨物船のエンジンにぶっ刺さったデブリを取り除く作業をしています。まずはデブリを丁寧に取り除く。そして様々な機能があるハンドツールの[マニュピレーター]を取り出し[リペアー]モードにしてビーッと光線を出して穴を塞ぐだけです。


 なぜ光を当てるだけでエンジンの穴が直るかというと、それは[ナノドローン]と呼ばれるスーパテクノロジーのおかげです。ナノドローンはすごいちっちゃくて原子単位で物を動かせるドローンなんだ。設計図さえあれば、壊れたものを元通りに復元してくれたりもする。その他にも色々機能がある。発熱したり冷やしたり何でも出来ちゃうすごいマシンなんだ。


 そんなすごいマシンに命令する権限を持っているメカニックになれた私もすごい! ハイ! 拍手~!


 私は修理作業を終えると貨物船の船長に修理完了のサインを貰いに行く。彼がいるのは操舵室なので、エンジンルームからそこへ移動する。操舵輪の前に人がいるのを見つけたので、とりあえず声をかける。


「修理が終わりましたよ~」


 適当に声をかけたけど、ちょうどこの船の船長さんでした。頭が金魚鉢みたいな宇宙船を着た彼は水中で生活する種族なので、スーツ内は水が入っています。ガラス越しに見える彼の顔は、まんまお魚です。


 ちなみに私は陸地で生活し、酸素を吸って二酸化炭素を吐く一番多いタイプの種族です。


 船長は魚の口をパクパクさせ泡をボコっと出す。すると、それを読み取った彼の宇宙服が共通言語に翻訳し、音声に変換してくれる。


「ご苦労さま。エンジンアラートが消えたよ」


 アラートが消えたということは修理は完璧ってことだね。私は仕事完了後の手続きに入った。


「では修理完了の承認おねがいします」


 私は左手のガントレットについている操作端末で空中に画面を投影し、そこに修理完了承認ボタンを表示する。


 この半透明の画面を構成しているのはナノドローンたちです。自ら発光し、擬似的な画面を映し出す。 


 お魚船長は私が出したボタンに触れて「承認」と言う。すると、ナノドローン越しに暗号化された個人コードが送られてきて、それを認証した。


「ご利用ありがとうございました!」

「また何かあったらよろしくなアラウンド・リージョンさん」


 船長さんは私のことをアラウンドリージョンと呼んだけど、それは私の名前ではなく私が所属している会社名です。


 一人で派遣される作業員あるあるだと思うんだけど、だいたい名前で呼ばれないよね。そんなときは、私にも”ミカニ”って名前があるんだぞっ! と叫びたい気分になるけどぐっと我慢。


「では、また何かありましたら、よろしくおねがいします」

「こちらこそよろしくおねがいします」


 私は仕事を終えるとすぐに自分の宇宙船へと向かう。貨物宇宙船の発着所から誰もいない廊下に出るとつい愚痴をこぼしてしまう。


「ふい~、やっと終わったよ~」


 すると、右腕についている工具などを収納している[空間圧縮スペース]からサポートビットが飛び出した。サポートビットは半球の傘の下からコードが垂れ下がっている姿で、まるでクラゲのようだ。


『お疲れさまです』


 ビットがフヨフヨと私の周りを漂いながら女性の声を発する。


 この声の主は、生まれてから死ぬまでずっとサポートをしてくれるAIです。彼女の名前は”ティエル”私が名付けた一生の友である。


「本当にお疲れだよ~。休む暇なく辺境から辺境へ……観光でもできればまだ良かったけど惑星すら無いし……。温泉入りたいよぉ」

『メカニックではなく私が推薦した指揮官候補生になればよかったのでは?』


 ティエルは、私が仕事の愚痴をこぼす度に、指揮官候補生に進まなかった亊を持ち出してくる。頑張れば頑張るほど戦地に近づく職業なんてゴメンだよ! 私はメカをいじってるのが性に合ってる。


「またそれ? もう聞き飽きたよー」

『実力があるのにもったいない……』


 今まで何度もしたやり取りをしていると私の宇宙船がある発着場についた。


 廊下の扉を開くと私の愛機が見えてくる。


 私のスーツと似たデザインで一般の宇宙船よりだいぶ丸っこくて小さい。私が設計した自慢の船だ! 経費はなんと15年ローンを組みました!


 返済残り13年……。


 ローンのことをぐしゃっと丸めてポイッとしたら愛しの我が船に乗り込みます。


 私が操縦席に座ると同時に、メカニックスーツの状態チェックが始まる。数秒でチェックは終わりピロンという音と共に運転席の正面モニターに、結果が表示された。


 スーツ、ツール共に損傷なし。エネルギータンク、チャージ完了。酸素タンク、チャージ完了。栄養タンク、チャージ完了。ナノドローン、チャージ完了。


「ふう、やっと帰ってこれたよ~」

『フォロー作品の新刊が3件ありますが購入しますか?』


 船と情報をリンクしたティエルがショップからの案内を読み上げた。


 おおっと! これは嬉しいことに私が次回作を待ち望んでいた作品が3作品も同時に発行されてる!


「もちろん購入!」

『ノロユビワポイ物語2巻、ジブアクタオス戦記3巻、ドアムコマモル国物語3巻を購入しました。本当にファンタジー好きですよね、魔法なんてありえないのに……』

「無いからこそ良いんじゃない! まったく現実主義ね!」


 ウヒョー! 早速移動中に見るぞ~!


「よし次の仕事場へGOだよ!」


 私の命令を受けたティエルは、ステーションに信号を送ると目の前の大きなハッチが開き始めた。


《発進シークエンス開始します》


 ハッチが開ききるとステーションから発進準備に入ったとアナウンスが流れる。


 発進はステーション側から完全オートで行われるため誘導認証ボタンを押すだけ。そして、ステーションから離れればティエルの操縦に切り替わりワープ航行に入る。


 準備が完了し重力がなくなると、船はすぐにエンジンを起動し発進する。私は仕事の終わりを感じさせる心地よいGを受けながら宇宙空間へと飛び立っていった。


 完全に気を抜いていたその時だった!


 船内の照明が赤い点滅へと変わり、『緊急事態発生! 緊急事態発生!』と何度も繰り返し始める。


「何!? 何が起こってるの!?」



 私は慌てて操縦桿そうじゅうかんを握りマニュアル操作に切り替える。操縦から開放されたAIのティエルは、周囲の情報を人間では不可能なスピードで読み解き原因を突き止めた。


『前方に無警告でワープアウトする大型艦があります!』


 通常大型艦と言うのは、ステーションほどの大きさがあるので、ワープアウト先に小型船を先行させ周囲に警告を発する。だが、その手順を無視して大型艦が現れようとしていた。


「もう! どこのバカ!?」


 私が怒りをぶちまけながら、機首を思い切り上げる。うっすら見え始めた大型艦が視界いっぱいに見える……。避けるのは無理っぽい……。

 ティエルも焦っているのか声が大きくなる。


『回避不能です! 17秒後に大型艦側面のエネルギーシールドに衝突します!』


 叫ぶような声と同時に大型艦がはっきりと見えた。その側面にはでかでかとこう書いてあった。


 早い! 安い! アラウンド・リージョン!


「あーもう! うちの会社の船じゃないの! ブラック企業ってレベルじゃないよ! 殺人企業だよ!」


 操縦桿を引いてはいるが、やっぱり回避は無理そうだ。すぐにティエルに指示を出す。

 

「しょうがない! 行き先はどこでもいいからすぐにワープ航行して!」

『座標計算中ですが時間が足りません! どこに飛ぶかわかりませんよ!』


 ワープ航行には正確な座標計算が必要不可欠です。なぜなら宇宙は常に回転しているから! そしてさらに銀河自体も回転している。その上で惑星やステーションの位置も計算しなきゃいけない。


「今の生存率0%の状態よりマシだよ!」

 

 ティエルはすぐに座標計算をやめランダムな座標を指定しワープ航行に入った。


 周囲に光がなくなり小型の宇宙船が激しく揺れる。その間も必死に私は操縦桿を握っている。ワープアウトした瞬間に小惑星などがあったら回避しなければペチャンコエンドは変わらないからね。でも”星の中にいる”になったら即死だけどね。


 船内は未だに危険アナウンスと赤いライトの点滅が収まらない。揺れは更に激しくなり、船からはイヤな音がしている。


『3、2、1、ワープアウトします!』


 覚悟を決めた私の前に現れた景色は……。


 緑と青で構成されたとても美しい惑星だった。


 どうやら、惑星内部へのワープアウトや危険地域に出ることは避けられたみたい!運が良かった!


 一命をとりとめたことで私は安心して、操縦桿から手を離し「へぁ~ 助かったよ~」と気の抜けた声をだした。

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