土地神様の花嫁御寮 11裏(本編完結)

「もう無理――」

 はふりと息を吐いて、顔を背けたきり。程良い疲れに身を任せるよう、かなでが目を閉じてしまうから。

 どれほど惜しみなく与えられたところで、満ち足りることなどありはしない。己がそういうものであると自覚のある叶は大人しく、横たわるかなでの上から身を引いた。

 すっかり蕩けて居心地の良い泥濘から、かなでの昂揚につられていきり立った劣情をずるずる引き出して。抱え上げていた膝ごと、下ろした足の間に身を屈める。

「んっ…………あっ……ぁあっ……」

 舌先で蜜壺を混ぜ返される生々しい水音に体を震わせながら、快楽に喘ぐばかりのかなでが意味のある言葉を紡げないでいるうちに。熟れすぎた果実から滴る蜜を啜るよう、叶は――じゅるり――だらしなく涎を垂らす泥濘へと吸いついた。

 びくびく震える腰を抱え、強烈な刺激に暴れる体ごと制御の効かなくなった魔力を啜りとる。


「もう無理って言ったのに……!」

 強かに背中を蹴りつけられ、ようやく顔を上げた叶をかなでは批難がましく睨めつけた。

 ぜぇはぁ息を乱しながら。真赤な顔で、涙混じりに。

「ごめんね?」

 かなでが本気で嫌がれば、それがわからないはずもない。叶は心にもない謝罪の言葉を口にして、すっかり傷一つない腿へと頬をすり寄せる。

 その悪怯れない態度に、かなでが見せた忌々しげな表情。それが半分本気で、半分は羞恥からくるものだとわかっているから。叶はかなで好みの整った容貌かおで、殊更にっこり笑って見せた。

 そうすれば、かなでが絆されてくれると知っていて。覿面、力の抜けた肢体を撫でさする。


「でも。地脈に繋がってる限り体力的な限界はないんだから、疲れたように感じるのはお前の気のせいだよ。人だった頃の感覚に引きずられているだけ」

、お前の気がすむまで付き合えって?」

 叶には本能的な肉欲がないだから。実際、それを求めているのはかなでの方で。その敬虔な従僕と自認する叶は言外に示される望みを望まれただけ捧げているにすぎないのだが――。

 そんなを馬鹿正直に告げては、かなでが機嫌を損ねてしまうとわかりきっている。叶は「今のうちに慣れておいた方がいいよ」とそれらしいことを嘯いて、しっとりと汗ばむやわい肌へと口付けた。

 その時。ふと目についた古傷を、せっせと齧り取ることも忘れない。

「背中も」

「……大きいやつ?」

「それも」

「昨夜、お前が寝てる間に食べてしまったよ」

 その存在を地脈へ繋いだ今となっては、かなでの負担を気にする必要もなくなって。かなでがそれを望むなら、食べたくもない肉をまされるくらいのことは叶にとって些細な問題だった。

「ほんとに?」

「そういう約束だったから」

 目の色を変えたかなでが起き上がろうとするのを手伝いながら。触れられた感触の違いでわかるだろうかと、叶は昨日まで惨たらしい傷痕のあった背中を指先でなぞる。

 かなでの体にはもう、まじまじと探してようやく見つけられるほどの傷痕しか残されていなかった。

「鏡は?」

「帳台の外に――」

 叶が取ってくるにしろ、今も御帳台の外に本性のまま控えている蝴蝶に言って持ってこさせるにしろ、かかる時間はほんの僅か。けれどかなではその「ほんの少し」を待っていられず、もどかしげに伸ばした手で叶の目元をと覆う。

 元がかなでのものであるだけに。宿主が無抵抗なことも手伝い、叶の左眼はいささか手荒な干渉もすんなり受け入れた。


「消えてる……」

 断りもなく割り込んだ視界で捉えられるよう、自ら叶に背を向けて。用がすんだ途端に結んだばかりのを断ち切るかなでのやりようは――依代として仕立てられた人形が相手ならまだしも――生身の人外いきものに対する扱いとして、あまりに無体がすぎる。

 そんな所感を、叶はそっと呑み込んだ。


 背中の状態を確認して、すっかり機嫌を上向かせたかなでが自身も知らぬ間にもせっせと磨き上げられていく体の褒美とばかり、他ならぬ叶自身が手塩にかけた肢体そのものをそっくり預けてきたから。注意を促すどころではなくなって、腕の中へと囲い込むので忙しい。

 そうして何もかもを許されることがどれほど特別なことか、よくよくわかっているだけに。「どうぞもっと」と差し出されてなおかなでへ尽くす、それ以外のことを考えられるほど複雑な精神構造を、叶は持ち合わせていなかった。

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