土地神様の花嫁御寮 11
帳の落ちた御帳台。天井の明かり障子を抜ける薄明かりに、何もかもが変わり果てためまぐるしい夜が明けていることを知る。
夜が明ければ、朝だ。
「一日が短い……」
叶と出会ってからこっち、
「――体は平気?」
高めの枕。あるいは、クッション代わりに背中へ敷かれていた獣が、肩越しに振り返る私の視線の先で大きな猫を模した姿形をはらりと
「平気」
普段と比べて明らかに眠りすぎているものの、既に
「一応、地脈にも繋いであるけど。存在を作り変えるのは少しずつでいいよね?」
「少しずつ、って……どれくらい?」
「
「それはまた……」
少なくとも年単位。
気の長い話だと思いはしたが。生粋の人外である叶はおろか今となっては私自身にとってさえ、それくらいの時間がなんの問題にもならないことに思い至って。喉元まで迫り上がってきた呆れ混じりの科白を呑み込む。
一度地脈と繋がってしまえば、寿命なんてないようなもの。地脈が枯れるか代替わりするまでは、いつまでだって生きていられる。
数年なんて、あとから振り返ってみればあっという間のことなのかもしれない。
「一度死んだせいで余計な手間がかかるのはわかるけど……それにしたって、慎重すぎない?」
「おまえの一生に関わることだもの。適当になんてできないよ」
どのみち、私にはどうすることもできない部類の話だ。
「……好きにしたら」
何かしらの不具合が出ることを承知で「今すぐ」とせっついたところで、叶は応じないだろう。それがわかっているから、決まりきった答えを吐かされる私の口振りは自然と気のないものになる。
それでも。言質を取った叶は、酷く嬉しそうに破顔した。
「明日……」
抱き寄せられるがまま、ずるずると体勢を崩して。またぞろ寝入りそうになっていた私の意識を、掠れるほど低く抑えられた叶の声が引き止める。
「なに……?」
「明日になったら、
眠りかけの頭では、かけられた言葉の意味を咀嚼するのに少しばかりの時間を要した。
「その代わり、今日だけは私にお前を独り占めさせて?」
それで、御帳台の中に蝴蝶の姿がないのかと。今度こそ盛大に呆れ混じりの息を吐く。
「出したくないなら、閉じ込めておけばいいじゃない」
「物足りないくらいでいいんだよ。どうせ、満ち足りることはないんだから」
「我慢のしすぎで、そのうち爆発したりしないでしょうね?」
「お前が私を愛してくれているうちは」
どうやら愛されている自覚があるらしい。叶は拾い上げた手の平へと口付けて、思い出したよう腕に残った傷痕の一つを齧りはじめる。
血止めにしろ、麻酔代わりにしろ、治療にしろ。体を維持するために必要以上の魔力を注がれてしまえば、その気にならざるをえない。
そんな具合に、すっかり籠絡されてしまっていたらしい。私は叶に「もっと」と、喘ぐようその先を強請った。
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