土地神様の花嫁御寮 10

 なんだかんだとその気にさせられ、流されるよう抱かれてみれば。なんということはない。

 私に愛されたくて生まれた叶の精神構造は、どうしようもなく私本位にできているようで。だからこそ、私の機嫌をとるのもこの上なく上手かった。

 自分でも気難しい――ちょっとしたことですぐに機嫌が乱高下する――自覚のある私をマイナススタートからその気にさせた挙句、あれやこれやと宥めすかしながらもきっちり最後まで付き合わせたのだから、その手管は本物だ。

 おまけに


「鬼王って……」

「うん?」

「こういうこと、慣れてたの?」

「こういうこと、って……こういう?」

 影布仕立ての襦袢でもう一度、私の体を包み直そうとしていた手の平が、緩く膝を立てていた足――その、膝から付け根にかけて――をわざとらしく艶めかしい手つきで撫で下ろす。

「そういうこと」

 叶の手は、襦袢の裾を気持ちばかり整えるだけ整えるとすんなり離れていった。

「どうしてそんなこと訊くの?」

「ちゃんと気持ち良かったから」

「から?」

「手馴れてるのかと」

 前を合わせた襦袢の上からかけられた帯がするすると体に巻きついて、一応の身形が整うと。叶はろくに汗も拭っていない私を抱え、帳の落ちた御帳台の外へと抜け出す。

 その横顔は、私の見間違いでなければいささか憮然としていた。

「そうだとしても、昔の話だよ」

「否定はしないんだ?」

 影の手がまくった御簾をくぐり、母屋もやからひさしへ。簀子すのこには妻戸つまどから出て、左右に壁のない透廊すいろうを隣の対屋たいのやへと渡っていく。

 てくてく、てくてく。

 人一人抱えていることを感じさせない一定の歩調は、程良く疲れた体に睡魔を呼び込んだ。

「私には間違いなく、お前だけだよ」

 とろりと落ちた瞼へ添えられる唇。あからさまなご機嫌取りに、目を閉じたままくすりと笑う。

「わかってる」

 うつらうつらとしながら運ばれていった先は、周囲をぐるりと背の高い板塀に囲われた、露天の湯殿だった。


「立てる?」

「たてる……」

 眠気を散らすため、私がふるりと振った頭をなんの気なしに撫でつけてくる。不埒な手の主である叶は、その行いがどれほど睡魔を増長させるかわかっていないに違いなかった。

 板張りの床へ下ろされた私は結局、叶に背中と頭を支えられたまま。自力で立っていると言えるのか微妙な状態で、ついさっき着せ直されたばかりの襦袢を脱がされる。

「眠ってもいいよ」

 気を抜けば落ちたきりになりそうな瞼と不毛な戦いを続ける私を、叶は笑い混じりに誘惑した。

「汗を流して、体を綺麗にするだけ。他にはなにもしないから。……ね?」

 翳す手の平で視界をすっかり覆われてしまえば、そう抗っていられるはずもない。


 かくんと落ちた意識が次に浮き上がった時。私の体は、何事もなく元いた褥へ戻されていた。

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