作戦開始(1)

 春の嵐の訪れか。上空は鉛色に染まり、いつ雷雨が起こってもおかしくない空模様だ。

 独特の緊張感が流れる現場では、男たちが額に汗を浮かべ懸命に作業をしていた。

 その中に一人少女がいた。アリウムである。

「アリウム、本当に大丈夫なのか?」

 その横にいるのはアレン。彼もアリウムと共に、迎撃戦に参加することとなっていた。

「ええ。姉の相手は妹である私じゃなきゃ役不足だし」

さも当然のように答える彼女に対して、アレンは一抹の不安を消し去ることができなかった。

「無理しなくていいからな」

 アレンがそう言うと彼女はむすっとした表情でこちらを見た。

「私じゃ不安ってこと?」

「そういうことじゃ……」

「君ら、今から作戦について概要を説明するから来てくれ」

 慌てて弁明しようとしたところで、少佐が彼らを呼んだ。


「諸君らも知っている通り、我々は現在ゲーヘ軍と交戦中。そしてやつらは強力な戦力である謎の少女を中心にここ、マシヤへと向かっている」

 幹部が集められたテントの下で、図面を前にミドルトン少佐は話し始めた。

「我々第八師団は前線に点在する砲台及び各部隊によって迎撃を行っているがことごとく撃破。為す術もなく進撃を許してしまっている状況だ」

 「そこでだ」と、少佐は続ける。

「ここから南南東20キロメートル地点を第一迎撃地点とし、そこでこの少女アリウムと火力支援部隊と航空部隊で敵を足止めする。だがもし、ここでの迎撃に失敗した場合にはここマシヤにて戦闘を行う。以上で説明は終了。質問は?」

 説明が終わり、各々が目だけギロギロと動かし周りを窺う。そこで一人の若い士官が手を挙げた。

「よろしいでしょうか。少佐、こんな少女に我が部隊の、いや我が国の命運を託すというのですか?」

 おそらく皆が思っている疑問を彼は少佐にぶつけた。証拠にうなずいている者もいる。

 しかし少佐は表情を崩さずに返答した。

「皆の思っていることはよく分かる。伝説に頼るなど言語道断だと。しかし今彼女に賭けないことには我々はむざむざとこの場所を捨て撤退するほかないのだ。それに伝説についてはその存在を敵が証明している。だから頼む、理解してくれ」

 ところどころ思いが強くなってか、勢いのある語気で少佐は話した。

 若い士官は少しの間少佐と目を合わせてから「了解致しました」と言い、引き下がった。

「では各自配置につくように。解散!」

 沈黙を破る少佐の号令により、各自バラバラに散らばった。

 ほとんどが移動すると少佐は力が抜けたように椅子に座り込み、帽子を脱いだ。

「少佐、お疲れ様です」

 それを見計らい、アレンとアリウムは彼のもとへと駆け寄った。

「ああ、すまない」

 帽子を持った手を降ろし、彼は答えた。

「皆、分かってくれたのでしょうか?」

「さあね。ただ、今すべきことだけは分かっててくれるはずさ」

 そういうと彼は立ち上がり、再び帽子をかぶった。

「さて、向かおうか。迎撃地点に」

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