もう一人の少女(3)
翌朝、アレンはまた少佐の部屋に呼ばれた。当然の如くアリウムもついてきた。
少佐はまた例の如くデスクから彼らを出迎えたが、彼の目の下には隈ができており、昨晩の苦労を物語っていた。しかしその眼光は鋭く、以前よりも一層ギラギラしていた。
「おはようアレン君」
「おはようございます少佐」
「それに、お嬢さんの方も」
「おはようございます」
「二人ともげんきでよろしいよ。じゃ、あそこに座っててくれ」
少佐はそう言うと、昨日と同じように紅茶を準備してくれた。
「昨夜はよく眠れたかね」
「はい」
「そうか、ならよかった。実は会議が終わったのはつい二時間前なんでね。少し調子が悪いが君たちに内容を伝えようと思ってね」
アレンはちらっと時計を見た。時刻はまだ七時。そんなに遅くまでこの人は話し合いを続けていたのか。
「まず予定されていた攻勢の作戦は全て破棄となった。まああんな化け物が現れちゃあ仕方ないよね」
少佐は軽く震える手で紅茶を飲みながら続けた。
「最初こそ会議はとても荒れたよ。なんでも我が軍の戦車がたった一人の少女にやられたなんてガキんちょでも信じない。だがそれも一枚の新聞記事がもたらされたことによって一変した」
そう言い少佐は懐から折りたたまれた新聞記事を取り出して広げた。
記事の見出しや内容は異国語でよく分からなかったがそんなことはおそらく重要でないことがアレンにも分かった。
「これって……」
真っ先に目を奪われたのは大きく表示された一枚の写真。その少女の風貌はまるで____
「アリウムじゃあないですか」
紅の瞳に銀髪の少女はまさしく今アレンの隣にいるアリウムそのものだった。
「だろ?本当にそっくりだ。でも彼女は攻撃のあった時刻は私と君とここにいたんだ。できるはずがない」
「じゃあやっぱり」
アレンはとなりの少女を見る。彼女もまた記事の写真に釘付けだった。
「なあアリウム。これって……」
アレンは恐る恐る尋ねると、彼女は写真の少女を指さしていった。
「間違いない。姉さんだわ」
「やっぱりか」
少佐がコップを持ち上げて言った。
「この記事とレイ兵長の航空写真によって我々も当面は信じる方向に舵を切ったよ。本当に異常だけどね」
少佐は今度は新聞記事の見出しを指さして言った。
「見出しなんかもっと大げさよ。『救国の少女、現る!』なんてさ、奴らは勝てれば軍人としての誇りなんてないのかって思うけどね」
ボリボリと頭を掻く少佐の頭から独特なにおいが流れてきた。
「それで、これからどうなるんですか?」
「まずは通常戦力で少女に攻撃を行うつもりだが、正直通用するか怪しい。レイ兵長の搭乗機のパイロットが体当たり攻撃を行ったそうだが効果はなかったそうだ」
「そんな……」
「だから俺はその嬢ちゃんに昨日の話の続きを聞こうと思ってここに呼んだんだ」
そういえば昨日は例の件で話の途中で中断してしまったのだった。
「続き、聞かせてもらえるかな?」
少佐はアリウムの顔を覗き込んでいった。
彼女は俯き、表情はその長い銀髪に覆われて窺えなかったが、小さくこくりとうなずいた。
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