「テアトル梅田」

 2001年。


 梅田のはずれにある茶屋町。「毎日放送の本社があるあたり」と言えば大阪人には通りがいい。観光地としての需要はあまり無いが、飲み屋に雑貨屋、ゲームセンターにCDショップなどが立ち並び、地元の若者にはとても人気のある街である。


「でかいビルだ」


 この街のランドマークである梅田ロフト。雑貨に楽器にカフェに本屋まで、様々な店舗を詰め込んだ8フロアにも及ぶ商業施設である。しかし私はその扉をくぐらず、入口脇の掲示板へと視線を移した。


「一時間前か。いい頃合いだな」


 掲示されていたのは映画のポスターと上映時刻。足元には地下へと続く螺旋階段。その先にあるのが1990年にオープンした老舗のミニシアター、テアトル梅田である。


 余談になるが、この頃はまだ全席自由席かつネット予約も普及していなかった(特にミニシアターは導入が遅かった)ので、良い席で観るためには一時間前に現着して整理券を確保するのは当たり前だった。


 閑話休題。


 チケットを購入し、ロビーの椅子に腰掛けてのんびりと上映時刻を待っているとポツポツ他の客もやってきた。


(あー、たぶん同じ映画見るんだな……)


 20〜30代のちょっと映画にうるさそうな男性たち……「シネフィル」よりも「映画マニア」という呼び名が似合う人々だ。テアトル梅田には劇場が2つあるが、客層を見ればなんとなくどちらの映画を観に来たかわかるようになる。


 『アメリ』がヒットしたイメージが強いせいか、ミニシアター(単館系)と呼ばれる映画館には、なんとなく独身の若いOLが通っているようなオシャレな印象がある。しかし当然ながらすべての映画がキラキラでカワイイわけではない。


「『血を吸う宇宙』、入場を開始いたします。整理券の番号順にお並びください」


 たとえば今日観るこの作品はその典型であろう。前作『発狂する唇』はホラーテイストで始まったかと思えば過剰なエログロが展開され、最後は何故かカンフーアクションという知る人ぞ知るカルト映画であり、その続編にキラキラカワイイ要素などあるはずがないのだ。


※ ※ ※


「ひどい映画だった……」


 果たしてそれが悪口なのか褒め言葉なのかは各自の目で観て判断していただきたい。ともあれ、鑑賞を終えた映画マニアたちは螺旋階段を昇って日の当たる場所へと帰っていく。


 オシャレなロフトの地下で密かに上映されるおかしな映画たち……。映画館という非日常の世界はあなたのすぐ隣に広がっている。


※ ※ ※


[テアトル梅田:2022年9月30日閉館]

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