「大阪ステーションシティシネマ」
2020年3月。
JR大阪駅を上へ上へと昇っていくと、屋上に広がる「時空の広場」へと辿り着く。屋上とは言っても、その更に頭上をドームで覆っているため、あまり屋外という感じはしない。本当の屋上へ出るためには、そこから天井に空いた穴に向かって真っ直ぐに伸びている、ひたすらに長いエスカレーターに乗る必要がある。
「このまま穴に吸い込まれて、別の世界へと辿り着きそうだな雰囲気だ」
私のその感想は、あながち間違いでもなかった。なぜなら穴の先にあるのは、私達をいつも知らない世界に誘ってくれる場所……映画館だからだ。
大阪ステーションシティシネマ。
2011年5月にオープンした、松竹、TOHOシネマズ、ティ・ジョイが共同運営する映画館である。これまで大阪にシネコンを持たなかった松竹の資本が入っているため、梅田ピカデリーの後継劇場と言えなくもないが、あくまでもシネコンなので上映作品は他の映画館とそうは変わらず、以前のようにお年寄りばかりがやってくる劇場、という印象はすっかり無くなっている。
「まずは発券だ」
自動券売機で、事前にネット予約しておいたチケットを発券し、メンバーカードを挿入する。映画館のポイントカードといえば地味なものが多い中、金地に黒で女性の横顔シルエットがデザインされたここのカードは、お洒落でお気に入りだ。
「これでもう少しポイントの恩恵があれば、もっと通うのだがな」
他の映画館が「6ポイントで1回鑑賞無料!」などと謳っている中、8ポイントでドリンク無料だけというのは、なかなかに渋い。とはいえ、立地が良く、何より設備が新しいので、映画を快適に楽しむには素晴らしい劇場だ。
"10番スクリーンにて上映の「午前十時の映画祭」『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のチケットをお持ちのお客様は、入場ゲートまでお越しくださいませ"
(やっと、夢がひとつ叶うな)
私は子供の頃、映画好きの父が毎週のようにレンタルしてくる映画のビデオを観て育った。時にワクワクし、時に心を震わされ、時に難解さに頭を悩ませ、その度に知らない世界を覗かせてもらった。そんな中でも、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は繰り返し幾度も見返した作品で、いつか映画館で観てみたいと願っていたのだ。
しかし、私が成人する頃には、大阪からは名画座というものがほとんど無くなってしまっていた。この夢はもう一生叶わないのかと諦めかけていたところに、「午前十時の映画祭」という、過去の名作をリバイバル上映する企画のラインナップにそれが含まれていることを知った。
「うん、椅子も座り心地がいい。さすが新しい劇場だ」
照明が落とされ、80年代に使われていた古いユニバーサルのロゴが映し出されると、私の心もたちまち小学生の頃に戻った。初めて『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観た翌日、クラスの友人たちに「すごい映画がある!」と興奮気味に伝えたこと。続編が、しかも2本も同時に撮影されていると知った時の喜び。公開が待ち遠しすぎて、何度も雑誌の特集記事を読み返したこと。様々な思い出が蘇ったが、いざ本編が始まると一瞬にしてそれらを忘れさせ、大人になった私をまた夢中にさせてくれた。これが、名作の持つ力というものだった。
※ ※ ※
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を映画館で観るという夢を叶えた私は、大満足で劇場を出た。そして、ポケットの中からあと2枚のチケットを取り出した。
「よし、次は20分後だ」
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は三部作。映画館で観る夢は、まだ終わらない。
[大阪ステーションシティシネマ:2020年現在も営業中]
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