第七話「ショッピング」
頭痛が引き始めたころ、自分とタケマルさんは街の公園へとたどり着いた。
「!! ユウちゃん、大丈夫かのう!?」
「あ!! あなたはタケマルさん!!」
サカノさんと依頼人の男がこちらの姿を見て駆け寄ってきた。
自分はタケマルさんの背中から降りた。
「いやあ、この子が来てくれなかったら死んでいましたよ」
そう言いながらタケマルさんは大きな袋のようなものを渡した。結局、あの中身は何なのかを聞くタイミングを逃してしまった。
「よかった......本当に後悔していたんですよ......僕が無茶な依頼をしたから......」
男の人はタケマルさんの姿を見て申し訳なさそうに話しかけた。
"お願いです! 僕の大事な物を取り返してください! 旅人も無事なら
今朝、こんなことを言っていたきがするけど。
「タケマルさん、申し訳ないのですが......別の方に護衛を依頼することにします。これはここまでの依頼料です」
依頼人の男はタケマルさんにお金を渡した。
「そうそう、あなたにも支払わなければなりませんね」
そう言われて、自分は依頼人から数枚の紙切れのお金を貰った。一......十......百......全部で十万円だ。
「それでは、僕はこれにて失礼します......」
依頼人だった男は、去っていった。
「見切られたか......まあ、くよくよしていたら何も始まらないな」
そう言いながら、タケマルさんはこちらを見た。
「くっ......くっ......」
......? もしかして......泣いている?
「し......しつこいかもしれんが......こ......この私を......」
......
「この私をよくぞ助けてくれたああああああ!!それも二度も!!二度もだぞおおおお!!!しかも!!!あの時私は自分でも情けない命乞いをしたにも関わらずこの子は私を見捨てなかったああ!!君のような善人は今までなかなか出会わなかったあああ!!や!約束しよう!!次はきっとおおお私がああああ君を助けよおおおおおおおおおおおおおう!!それではさらばだあああああ!!」
去っていくタケマルさんを見て、サカノさんは冷ややかな目線を送っていた。
「ユウちゃん、あの人の言っている言葉がわかったのう? 早口すぎて聞き取れなかったのじゃが......」
自分は、その質問には答えなかった。
「あの機械は結局使わなかったな......怪我は......特に見当たらないそうじゃが、大丈夫だったかのう?」
心配してくれているサカノさんに、自分は大丈夫だと伝えた。
「そうか......あ、そうじゃそうじゃ、これを返さないといけないのう」
サカノさんは小説の入ったバックを返してくれた。
「それにしても、汗だらけじゃのう......それに、その服では動きづらくなかったじゃろう。この機会に買い換えてみるのはどうじゃ?」
自分は今聞いている服を見た。研究所から出た時からずっと実験用の検査服だった。特に違和感は感じていなかったが、ポケットの数など、これから旅をするのには少し合うわないのかもしれない。
自分は買い換えてみることにした。
「それならわしの友人の店に行くとしよう。あそこならユウちゃんに似合う服があるはずじゃ」
自分は、その店に行くためにサカノさんに着いていった。
その店は、服やズボンなどを扱う洋服店だった。
「さあユウちゃん、どれか好きな服やズボンを選んできなさい。ただし、費用は先ほどもらった十万円以内に納めるんじゃ。換えの分も忘れずにな」
自分は財布を手に、店内を歩き始めた。
これだと思った衣服を手にレジへ向かおうとすると、定員が話しかけてきた。
「お客様、ご試着されてはいかがですか?」
ゴシチャク? その言葉を知らない自分は、サカノさんの方を見た。
「試着はのう、実際に着てみて自分に合うかどうかを確かめることじゃ。そこに試着スペースがあるから、その中で着てみなさい」
サカノさんが指した方向に、自分は向かってみた。
試着スペースと呼ばれる場所に入ると、目の前に大きな鏡があった。そして、入って来た入り口にはカーテンが着いていた。
そういえば、研究所にいた時......小さいころは助手の目の前で平気に着替えていたけど、大きくなって来た時には外に出るように頼んでいたっけ......そんな事を考えながら、入り口のカーテンを閉めた。
「おお......?」
試着した服をサカノさんに見せてみた。
自分が今来ている服は、長袖Tシャツにスラックス、そして、フード付きの白いパーカーだった。
サカノさんはこの服装についてコメントをしてくれた。
「服が違うせいか、一瞬男の子に見えてしまったわい」
本当は、自分の読んでいた冒険小説の主人公のイメージで着てみた結果だった。
「さて、その服を購入するとするかのう......あ、ちゃんとレジで会計を済ませるんじゃぞ」
会計を済まして、自分とサカノさんは洋服店を後にした。
「さて、ユウちゃん......そろそろお風呂に入りたいと思わないかのう?」
サカノさんに言われて、昨日は一度も体を洗っていないことに気づいた。
「この街には銭湯というお風呂に入れる場所がある。一時期は急速に数を減らしておったが、旅人という新しい職業に重宝されるようになり、再び数を増やしてきたのじゃ。今日はそこでひとっ風呂浴びるとするかのう」
初めての外の世界、初めてのお使い、初めての依頼......15歳の誕生日の日から、新しいことばかり続いている。
始めての銭湯で、今日までの気持ちを整理しようと、自分は考えていた。
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