第八話「銭湯、そして旅立ち」
銭湯と呼ばれる場所の前に、自分とサカノさんは来ていた。
「それじゃあユウちゃんは、そっちの赤い暖簾の扉に入って来るのじゃ」
そう言ってサカノさんは反対側の青い暖簾の扉に入っていった。自分はサカノさんの言う通りに赤い暖簾の扉を開けた。
その中で自分は番頭という仕事をしている人に旅免許を見せてから、お金を払う。お風呂に入る経験は研究所でもあった。監視カメラに見られながら着替えて、ゆっくり一人で疲れを癒していた。
この銭湯と呼ばれる場所も似たようなところなんだろう......そう思いながら、脱衣場への扉を開けた。
その中には他の女性がいた。こちらをちらと見る人もいれば、気にせず着替え初める人もいた。少しの違和感を感じながら、自分も着替え始めた。
コトン
何かが落ちる音が聞こえてきた。
足元を見るとシャンプーの容器が落ちている。サカノさんにもらったシャンプーは自分の手元にあるから、恐らく隣にいる女性の物だろう。
自分は落ちているシャンプーの容器を拾い上げ、服を脱ごうとしている隣の女性に渡した。
「......」
女性は鋭い目付きでこちらを見た。その片方の目には眼帯をつけていた。
「......どうも」
シャンプーの容器を受け取った眼帯の女性は、そのままこちらを見ずに着替えを続行した。
ガラッ
入り口の扉が空いた。そこから入ってきたのは、
「ふうううう!!久しぶりの風呂だあああ!!一仕事した後の風呂は格別だぞおおおお!!興奮すると早口で喋る癖のせいでつい叫んでいるが、これも私の個性......あれ?」
男性であるタケマルさんが女風呂の脱衣場に入っているのに気づくのと同時に、周りの女性の悲鳴が脱衣場に響いた。
タケマルさんは大慌てで逃げていった。
「まったく......今のご時世で一昔前のお約束的展開をするなんて......」
隣の眼帯の女性はブツブツと呟いていた。
ゆっくりと湯に浸かる。今日までの疲れは取ることができたが、やっぱり少しの違和感でこれまでの気持ちを整理することはできなかった。
パリッ......パリッ......
おにぎりを包む海苔の食感が口の中で何度も広がった。その食感の内側から梅干しの酸っぱさが舌を包み込む。銭湯から出てきた後、自分とサカノさんはコンビニで買ってきたおにぎりを食べていた。
「やっぱりツナマヨ味は最高じゃなあ」
サカノさんはツナマヨ味を美味しそうに食べている。
「そういえば、先ほどの銭湯はどうだったのかのう?」
自分は、先ほどの光景をサカノさんに伝えた。
「ほほう......あのタケマルっていう若者......なかなかやりおるのう......」
サカノさんは何かを想像するように、ニヤニヤしていた。
「ところでユウちゃん......今後のことなんじゃが......」
公園の中、サカノさんがおにぎりを手に地図を取り出した。
「......わしも、カゴシマの街を目指したいと思うんじゃ」
その言葉の意味がうまく理解できない。
「実は......わしにもそこに待つ人がいるのじゃ。急ぐこともないのじゃが、できれば誰かと共に帰りたいところじゃった。そこで提案なのじゃが、わしはユウちゃんと同行し、共にカゴシマの街を目指したいと思うのじゃが......」
サカノさんと同行......
「もう少し教えたいこともあるからのう、ユウちゃん、わしも同行していいか?」
自分はそれを了承する前に、今まで気になっていたことを質問することにした。
なぜ自分をここまで面倒を見てくれるの......?
「......」
サカノさんは困惑していた。まるで、思い出したくない思い出が立ちふさがったのに、心を守るバリアを張ることすら出来ないほどの驚き......とっさに言い訳が思い付かない自身への意外性......
「......まさか、そんなに早く指摘されるとは思わなかったわい」
深くため息をつく音が聞こえた。
「わしには、"サキコ"という孫娘がいた。彼女も旅人だった。ユウちゃん、お前さんを見ているとサキコを思い出す......ただ、それだけじゃ」
そう言って、サカノさんは黙り混んだ。そのサキコという人が、今どうなっているのかと、聞くことはできなかった。
公園で野宿して、夜が明けた。
「ユウちゃん、忘れ物はないかのう?」
サカノさんは大きなバックパックを背負いながら聞いた。自分は青いリュックサックの中身を確かめると、チャックを閉めて立ち上がった。お気に入りの小説はサカノさんの大きなバックパックに入れさせてもらっている。
「それじゃあ出発じゃ。このトウキョウの街から西に向かい、カゴシマの街までいくとするかのう。非常に長い道のりになるが、野宿を繰り返してでも向かうぞい」
自分は歩き始めた。
先の見えないこの旅の先導者である、サカノさんの後に続いて......
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