第六話「廃墟からの脱出」

「おいっ!! さっきのガキはどこに行った!?」

扉の隙間から、盗賊たちが向こう側へ向かっているのが見えた。

 自分は、盗賊たちに見つからないように扉を静かに閉めた。


ガタガタッ


 どこからか、物音が聞こえた。どうやらこの部屋のどこかに誰かいるようだ。

 自分は懐中電灯で部屋を照らし、物音が聞こえた音へと近づいた。そこにはクローゼットのようなものが置かれていたいる。自分は慎重にクローゼットを開けた。


カチャ


「......」

......

その中に入っていたのは、見覚えのある顔だった。


「たっ、助かったあああああ!!!本当にどうなるかふぉ!?」

自分はクローゼットの中で叫んだタケなんとかさんの口を塞いだ。しかし、どうやら遅すぎたようで、壁の向こうから何かの声が聞こえてきた。




 足音がだんだん大きくなる。

「す......すまない......このタケマルが大声を出したせいで......ああ、こんな時に武器を落としてしまうなんて......」

タケ......マルさんは悔やむように呟いた。その手には大きな袋を抱えている。これがきっと依頼人の運んでいた物なのだろう。

 自分は木製バットを握りしめながら、先ほど盗賊の前で使った四つ目の力の事を考えていた。盗賊の刀を受け止めたあの力......まるで透明な壁が自分の前に立ちふさがったようだ。その力を使えば、なんとかこの廃墟から脱出できるかもしれない。

「兄貴! ここから声が聞こえやしたぜ!!」

扉の向こうから声が聞こえてきた。自分は透明な壁を出す力をいつでも出せるように構えていた。


ゴトゴトゴトゴト


 ......!?

「こ、この音......まさか......!?」

タケマルさんが怯えていると、扉の向こうから「ぎゃあああああああああ!!」と悲鳴が響いた。




 自分はタケマルさんと共に扉から離れた。すると、扉がこちらに向かっている飛んできた。扉はタケなんとかさんの横を掠めてかすめて、後ろの壁に激突する。


 扉がなくなった部屋の入り口から入ってきたのは、先ほど廃墟の外で出会ったネズミの怪物......よりも二倍ほど大きくネズミの怪物。その口元に人間の手のようなものがあったと思うと、あっという間に口の中へ吸い込まれていった。

 巨大なネズミの怪物はこちらに向かって突進し始めた。咄嗟に、自分は目の前に透明な壁を作り出した。


ガンッ!!


 透明な壁に激突した巨大なネズミの怪物は、目の前でよろめいた。

「な......何が起きているのかよくわからないが、こいつはチャンスだ!!」

タケマルさんは怪物が入ってきた入り口に向かって走り出した。自分も遅れを取らないために後に続いた。


「!!」

タケマルさんの前に膝までの大きさのネズミの怪物が現れた。自分はタケマルさんの前に出て、ネズミの怪物の頭に目掛けてバットを降り下ろして怯ませた。

「こいつはあのバカでかいネズミの子分だ!! こいつらは親玉を中心にして群れをなす習性があるからな!!」

タケマルさんの説明を聞きながら、廃墟の出口へと向かって再び走りだす。

「いいか!? わかっていると思うがこいつらの弱点は"頭"だ!! 思いっきり叩いて方向感覚を失わさせるんだ!!」




 目の前に立ちはばかる怪物の頭にバットを殴り付けながらひたすら走った。そしてなんとか出口の前までたどり着くことができた。

「やった!! 出口はもうすぐ......っ!?」


 突然、後ろにいたタケマルさんが何かにつまずいて転けた音がした。振り向くと、首のない盗賊の前に倒れているタケマルさんの姿があった。そしてすぐ後ろには、ネズミの怪物の親玉と子分がこちらに向かって走っているのが見えた。恐らく、助け起こそうとすれば追い付かれてしまうだろう。それに......タケマルさんが持っていた依頼人が運んでいたと思われる荷物は、自分の足元にある。

「わ......私に構うな......君は逃げるんだ......私は......私は......覚悟は出来......いや、待ってくれ!! 全面撤回だ!! やはり死ぬのは怖い!! 助けてくれええ!!」

自分はネズミの怪物の親玉を見た。親玉はタケマルさんに目掛けて爪を上げていた。




 やがて、ネズミの怪物の親玉は......横に倒れてもがき苦しんだ。体が炎に包まれて。


 親玉は子分よりも二倍ほどの大きさだ。だから、横に倒れると道を塞ぐように倒れると、ちょうど道を塞ぐ大きさだ。火だるまとなった親玉の向こうにいる子分たちは、火を恐れて引き返すしかなかった。

「もしかして、先ほどの部屋の光景も、今の光景も、全部君の仕業なのか?」

タケマルさんの質問を無視して、自分はタケマルさんを助け起こした。




 頭痛が襲ってきたのは、廃墟の外に出たときだった。連続で力を使った影響なのか、いつもよりも少しだけ頭痛が酷かった。

「だ、大丈夫か!?」

タケマルさんが心配するように話しかけてくる。

「よかったら私の背中に乗ってくれ!! なあに、重たい袋はあるが、片手でもぎりぎり持っていける重さだ!!」

自分はしゃがんでくれたタケマルさんの背中にもたれかかった。


 タケマルさんに背負われて一息つく。空を見ると、夕焼けに輝く太陽が自分たちを照らしていたことがわかった。

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